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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

椰子酒で乾杯

2009-04-17 | Weblog

ガンゴロ村のクアメ村長の自宅に、昼食会に呼ばれた。コロネルをはじめ、村の幹部たちが集まっている。食事が始まる前に、やはりここでも、ワイン談義だ。コートジボワールの田舎の村でも、というか田舎の村だからこそ、フランス人たちが残した風習が、根強く残っている。

最初に、シャンペンで乾杯。栓が勢いよく抜かれて、グラスに注がれようとすると、コロネルが違う違う。自分が持参したモエ・シャンドンが冷蔵庫に冷えているはずだ、といって持ってこさせる。引き続き、コロネルが、今日のためにアビジャンから担いできたという、メドック(ボルドー)の赤ワインを披露する。前菜の卵料理を食べながら、皆が、ワインを口にああでもない、こうでもない、と品評している。

主菜が運ばれてきた。アチェケという、キャッサバ芋(マニオク)から作った、ご飯のようなぽろぽろした主食に、肉や魚の煮込みをソースと一緒にかけて食べるというもの。アチェケは、収穫したてのマニオクで、つきたての新鮮なもの。さすがに香りが高くておいしい。アビジャンのアチェケとは、ずいぶん味が違う。

この間行った村では、食事に猿が出てきましたよ、という話をすると、この村でも猿を食べていた、とクアメ村長。
「でも、今は一匹もいない。みんな食べ尽くしてしまった。このあたりには、鹿なども沢山いたんですけどね、みんな獲りつくして、いなくなってしまった。」

いやいや、狩猟のせいだけではない、と別の人が言う。猿は、高い木々がないと住めない。このあたりは深い森がほうぼうにあったのに、木材が金になるからといって、片端から切り倒してしまった。
「これを称して、森林開発だ。目の前にあるものを、後先を考えずに、すぐに切ったり獲ったりしてしまう。それで何もなくなって、貧しくなっていく。このアフリカ人の性癖がある限り、いつまでも発展できなくて駄目なんだ。」
自嘲気味である。

ワインもだいぶん入ってきたところで、あれ行こう、という声が出た。奥から出てきたのが、椰子酒である。白いどぶろくのような酒が、グラスに注がれた。飲んでみると、度数は低く、口当たりも柔らかい。これがなくちゃ、これを飲んで、歌って踊るのが、バウレ族なのだ、と言っている。椰子酒が出てくると、雰囲気がぐっと変わって、皆大声で賑やかになる。どこからか歌手の母娘が登場して、木製の楽器をこすりながら、民謡を歌ってくれる。

ワインより椰子酒のほうが、やはり気取っていなくていい。われわれ日本人にとって、熱燗と焼き鳥でないと、歌声が出ないのと同じだ。椰子の実で作るんですよね、と聞くと、違う違う、椰子の木の幹に穴を開けて作るのだという。どうやって、と私が聞くので、ちょうど自分の家で作っているから見に行こうということになった。 昼食を終えて、椰子酒を作っているお宅にお邪魔する。

椰子の実を絞るなどして、椰子酒を作るのだとばかり思っていたけれど、全然違っていた。まず、そこらに生えている油椰子の若木を、根本から切り倒して運んでくる。家の庭に、切り倒された椰子の木が、何本も転がっている。木のてっぺんの部分の、何本も集まった葉柄を切り取って、皮をはいだ上で、幹に穴を開ける。白くて瑞々しい若木の肌から樹液がしみ出し、穴を伝って下に集まってくる。それを下で受けて集める。樹液は、集めた先から発酵して、酒になっていく。

「樹液の出が悪くなってきたら、火を付けた木で刺激すると、また出てきます。そうして、約1ヶ月くらいは、酒が出続けます。」
倒された椰子の若木は、いわば酒樽のようなものだ。ぽたりぽたりと、酒の汁が穴からしたたり落ちている。もう酒を絞り終えた、古い椰子の木が、傍らに転がっている。これはもう空の酒樽だから、捨ててしまうのか。
「いえ、酒が出なくなっても捨てないで、こうやって転がしておきます。すると、キノコが生えてくるので、それを採ります。」
茶灰色になった椰子の、枯葉の付け根をはがすと、確かに白いキノコが生えている。これは椎茸ならぬ椰子茸というところか。

椰子の木については、徹底している。やはり、コートジボワールといえば椰子の木、酒といえば、何といっても椰子酒。椰子酒を交わしてこそ、酔いどれることができる。椰子酒で乾杯、というのでないと、歌も踊りも出ない。ワインの文化は、輸入物だった。ここは、椰子酒の文化の国なのである。

 村長宅の昼食会、ボルドーワインをたしなむ

 昼食会のごちそう。大鍋に入っているのがアチェケ

 椰子酒で乾杯

 油椰子の若木

 椰子の若木を切り、横たえる

 椰子の幹に穴を開ける

 火を付けた棒で、穴を熱して酒を出す
酒は、穴から下に落ちる

 椰子酒を、下のポリタンクにためて取り出す

 椰子の枯れ木にキノコが生える

 白いのが椰子茸


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