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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

悲劇と教訓

2009-04-11 | Weblog
ワールドカップ予選という大試合に、国民が誇る有名選手が帰ってくる。観客の期待は、否応なしに高まっていたであろう。19人の死者と132人の怪我人を出した、先月29日の、ワールドカップ予選での事故。事故当初は、サッカーファンたちの熱狂と興奮の中で起こってしまった、不幸な事故であったというふうにも見えた。ところが、翌日からの報道には、どうもそれだけでは片付けられないような、人為的な原因があったのではないか、という記事が、ぼつぼつと出始めた。

事故に至った経緯は、とりまとめると次のとおりであったようである。ウフエボワニ競技場は、アビジャン市内にオレンジ色の威容を誇っている。競技場へは、まず前庭の敷地に入るところで外門がある。そこでは、治安部隊が人員を配置して、やって来た人々の持ち物検査を行う。検査を終えた人々は、敷地を通って、次に競技場の建物に向かう。そして、切符に指定された座席の場所に応じて、4ヶ所ある競技場のゲートから競技場の建物に入る。ゲートでは、サッカー協会が手配した係員が切符の改札を行い、観客は競技場内に入る。そういう手順であった。事故は、その競技場のゲートの1つで起こった。

ゲートは鉄門で閉じられており、鉄門に開けられた扉から建物内に入ることになる。鉄門の扉を入ると、下り階段を伝って、観客席に通じるホールに出るという構造になっていた。そのゲートの鉄門に、大勢の人が詰め掛け、外から押し合いへし合いになった結果、扉は鉄門ごと内側に倒れた。沢山の人が鉄門をまたいで、ホールに押し寄せた。そして、下り階段で躓いた人々が折り重なってしまった。

更に悪いことに、ホールの内側から人の流れを制御していた治安部隊の要員たちが、思わぬ大量の人々が押し寄せてきたのを見て、それを何とか押しとどめようとした。観客席のほうに皆が溢れたら、競技場内は大変な混乱になる、という判断であろう。催涙ガスも使われた。その結果、流れ込んできた人々の先頭は、もと来た方向に押し戻された。それにも構わず、後ろから次々に人が押し寄せてきたので、行き場を失った人々は、階段部分でどんどん折り重なった。

このように、悲劇は競技場のゲートとホールの間で、つまり建物の内側で起こったので、表の観客席からは全く分からなかったという。分かるようだったら、さすがに試合を開始するわけにはいかなかっただろう。ゲートでの混乱は長く続いて、ようやく人々を散会させたところ、折り重なった人々の下から、死者や怪我人が多数みつかった。救援活動は、競技場の外側の敷地で続けられた。

さて、多数の人々が観客としてやってくることは分かっていたから、治安部隊の要員と、サッカー協会の係員は、大勢配置されていた。切符を持っている人だけが、外門から敷地内に入ることを許されるはずであった。ところが、持ち物検査では切符の有無まで見ていられなかったので、現実には切符を持っていない人々も外門を通過し、ゲートまでやってきていた。そういう人々がいたので、人数は予想外に膨らんでいた。

それでも、ゲートできちんと切符の改札をして、一人ずつ順序だてて入場させればよかったのだ。他の3ゲートでは、その手順で、問題なく観客を誘導している。問題のゲートでは、なぜ秩序だった誘導ができなかったか。切符を持ってやってきた観客たちが、ゲートで押し合いになるような、ある事件があったという。

さて、報道によれば、当時不思議なことが起こっていた。競技場の収容人数は、約3万4千人であるところ、試合開始の1時間前には、すでに満席になっていた。いくら期待高まる試合だとはいえ、皆が皆、1時間前から待つだろうか。実際に、切符をちゃんと持った人々が、それからも続々とやってきていた。明らかに、観客席の数以上の人が、競技場内に入っている。切符の重複販売だろうか。

サッカー協会は、それはあり得ないと反論している。
「我々が販売した切符は、31616枚であり、全てに通し番号が打ってある。残りは招待切符と、サッカー協会関係者、報道記者や治安関係者のための座席が、約1600席ほどあった。全部の座席が、割り当てられており、闇の切符はありえない。」
協会の言い分が正しいとしても、このプラチナ切符の偽物が、市中に相当数出回っていたという情報もある。すでに、切符の販売の段階で、かなりの混乱が始まっていた可能性がある。

さらに、何人かの観客の証言がある。ゲートで切符の改札をしていた係員が、200フラン(40円)貰って切符の無い人を場内に入れていた、という。その観客席での、切符の正規の販売価格は、500フラン(100円)である。切符を買っていた人々から、ゲートの係員に文句が出た。おかしいではないか。怒ったある青年が、係員に激しく詰め寄ったところから、騒ぎが始まり、鉄門のところで押し合いへし合いになった。

また、鉄門は頑丈そうに見えて、実は安普請であった。鉄門を支える柱が、上部のコンクリートに打ち込まれた蝶番により、しっかり固定されているはずだったのが、人々の圧力がかかると、コンクリートがもろく崩れた。鉄門は、いとも簡単に内側に倒れこんだ。これも、さもありなんである。競技場の建物を建設するとき、きちんと強度や安全の検査が出来ていたのだろうか。開発途上国では、そうした安全管理に問題があることが多い。さらに、建設業者からの袖の下で、甘い認可がまかり通ってしまうこともある。

こうした事故の原因について、正確には、ソロ首相が設置した事故調査委員会による報告を待つ必要がある。調査報告で、いろいろな問題点がきちんと浮き彫りにされ、再発防止が図られることを期待したい。そうした問題点への反省がなされるならば、今回の悲劇も、コートジボワールの社会が良くなっていくための、貴重な教訓としての意義をもちうるのである。

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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (Chibimae)
2009-04-13 18:04:11
続報ありがとうございます.
世界各地でこれまで起こってきたような事故ですが,現場の人は狭い入り口に大勢の人間が押しかけたときに起こる危険を知らないんでしょうね.

実は,北京オリンピックでも,門扉で入場者の流れを制限していました.私はちょうど開閉の場に居合わせて,腕を挟まれてしまいました.門を閉める係員(兵士)は顔色一つ変えずに,挟まれたくなかったら後ろに下がればよいという態度で,恐ろしかったです.
門が丈夫だったのを喜ぶべきでしょうか・・・
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Unknown (bonbon)
2009-04-13 21:26:47
先週、久々に日本のネットニュースでコートジボアールという文字を見たので、なんだろうと思ったら、このスタジアムの悲劇でした。
大統領が涙を流して追悼というのは驚きでしたが、事故の裏にはこんな事実もあったのですね。すごくあり得ることだと思ってしまいます。
私がいた当時このウフエボアニスタジアムは、本当かどうかわかりませんが現地の人から中国の援助で建ったと聞きました。さらに「中国は私たちが喜ぶものを作ってくれる。日本はそういうの下手だね」って言われました。
援助で何を優先すべきかというのは難しい問題だと思いますが、日本はそういう風に見られていたりもするのだなと思った事を思い出しました。
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