アフリカの街に、障害者の乞食は多い。信号で停止すると、腕や脚を失った人々、ポリオで脚が萎えた人々が、杖を突きながら車に寄ってきて、施しを求めてくる。身体の不自由があるのに、車の往来の激しい中で、危険なことである。しかもアフリカの炎天下で、一日中物乞いを続けるのは、さぞかし重労働であろう。何より、誰にだって尊厳はある。乞食を喜んでやっている人はいない。しかし、生産活動に携わることが出来ない人々には、他に生きる道がない。障害者となった途端に、乞食をやることを迫られるというのが、アフリカでの現実である。
そうした現実に抵抗しようと、障害者の人々がベナンでNGOを作った。その名前「アシャルコム」こそが、メンバーの強い決意を表している。「物乞いとならないように戦うための障害者協会(Association des handicapes pour la lutte contre la Mendicite)」という。頭文字をとって、「アシャルコム(ASHALUCOME)」、参加する障害者は、現在全部で42人である。
私は、ベナンのコトヌから約30キロ離れたアボメカラビ市(Abomey-Calavi)にある、アシャルコムの「障害者センター」を訪れた。センターといっても立派な建物ではなく、村はずれにある小さな土蔵の作業小屋である。私が出かけたのはちょうど水曜日。週一回の定例会の日で、十数人のメンバーが、周辺の村落から集まってきていた。
アシャルコムを統率するダンベノンさんは、自らも不自由な下半身で、障害者センターの活動を説明して回ってくれる。 協会の設立は、10年前に遡る。物乞いとならない、というのは、自活の道つまり収入を得る方法を見つける、ということに他ならない。障害者として何が出来るか、収入に繋がる活動として何があるか。いろいろ模索が続いた。洋裁ミシンを手に入れて、裁縫の内職を試みたこともあった。ドライヤーを購入し、美容師の活動も試みた。そうした試行錯誤を経て辿り着いたのが、石鹸作りである。この障害者センターでは、障害者の人々の手で石鹸を作り、これを街に売りにだす、という活動を行っている。
このアシャルコムに、日本人の姿があった。青年海外協力隊員の、安田真与さんである。安田さんは、海外青年協力隊員として、村落開発に従事するために、アボメカラビの福祉センターに派遣されてきた。そこで、前任者(鈴木ひとみさん)を引き継いで、アシャルコムの活動に関わってきた。
安田さんは、単に障害者が作った石鹸、というだけではそのうち行き詰まる、と考えた。何らかの付加価値がなければ、販売が継続していかない。また、市場に出すためには、商品としての体裁も必要だ。そこでまず「アシャルコム石鹸」の特質を前面に出した。天然のオイルのみを用い、化学合成した油脂を使わない、純正の天然石鹸である、という点である。
そして販売する石鹸には、いくつか種類をそろえた。 アブラヤシの核油を基本に、カリテ・バター(英語:シアバター)を混合したもの。ニームという木から抽出した薬草オイルを混合して、殺菌効果を高めたもの。そして黒ヤシ油といって、アブラヤシの実の核を火に掛けて抽出した、ベナン独特の油を混入したもの。それぞれの効能がある。そして、石鹸一つ一つをビニールで包んでラベルを張り、数種類の石鹸をセットにしてリボンで結ぶなどして、商品を魅力的にした。
さらに、ベナンに古くから伝わる、アディ・コトという石鹸を、新たに生産することを考えている。この石鹸は、普通の石鹸を作るときに使う苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)さえ使わず、植物からの材料だけでつくる純天然石鹸である。ベナンでは、昔から作られてきた石鹸であるが、最近は作り手も少なくなった。だから、ベナンの伝統産業を見直す活動にもなる。
そして販路の確立である。アボメカラビ市内の日用品店に頼んで、商品を置かせてもらった。また、コトヌまで出かけて、市内4軒のスーパーマーケットと交渉して、陳列棚にて石鹸の販売を開始した。協力隊員や、その他の日本人の知り合いに頼んで、日本へのおみやげに買い上げてもらった。幸いにして、美容のための石鹸として、とても肌あたりが良いと、日本での評判が上々である。追加で買って来て欲しいという声も出るようになった。百パーセント天然オイルを使った石鹸というのは、日本では珍しいようで、その使い心地に皆さん驚かれるという。
ダンベノンさんは、安田さんのお陰で石鹸の販路が拡大したと言いつつ、安田さんの働きにはそれにとどまらない、もっと有り難いものがあると述べる。
「マヨは、いつも私たちと一緒にいてくれます。私たちが問題を抱えたら、間に入って一緒に悩んでくれます。それが何より、私たちには嬉しい。」
皆が一丸となって努力したかいあって、最近数ヶ月で、売上が4倍に伸びた。収入は、少しずつ、アシャルコムのメンバーに還元できるようになってきている。でも、まだまだ、軌道に乗ったとはいえない。一番大事なのは、地元の人々に受け入れられることだ。地元でのしっかりした需要があれば、末永く製造を続けられる。そうなれば、アシャルコムは、石鹸製造を基礎に、障害を持つ人々への救援活動を続けてゆける。地域の障害者の名簿をつくって障害者の現状を把握する、職業訓練や識字教育を実施する、などの活動を通じて、障害者の自立を促進し、その生活の質の向上をめざしていく。
自分の力だけで、何とか収入の道を開こう。障害者の人々の自活への努力が、10年かけて石鹸製造まで辿り着いた。体に障害を持つ人の方が、普通の人に比べても、余程しっかりした足で立とうとしている。ラップに包まれた石鹸は、見た目は自然で柔らかな肌合いながら、その中に人々の確固とした意志がこもっているようである。 アシャルコムの「障害者センター」
アシャルコムの皆さん
ダンベノンさんと安田さん
持っているのは、薬草のニームの木
オイルに苛性ソーダを混ぜる
よく練って固める
型に流す
固めてから切る
3種類の石鹸
製品ラインナップ
伝統石鹸「アディ・コト」
安田さんとダンベノンさん
私が主人の赴任でインドネシア・ジャカルタに居た時も車が止まる度に少年が近寄ってきたことを思い出し心が痛いのですが、このように活躍する日本人によって障害者も職の無い人も生きる道が切り開かれたことを嬉しく思います。
アフリカンフェアなどで売っている石鹸を買いましょう。