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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

森を守る

2009-03-17 | Weblog

アフリカの人々が、違法伐採や焼畑などで、森林を破壊していく。象やチンパンジーなどの住処が奪われる。環境や動植物の保護のために、何とか止めさせなければ。アフリカの人々に森の大切さを教えなければと、欧米のNGOなどから悲鳴が上がっている。

しかし、アフリカの人々にかぎって、森の貴重さへの認識が足りない、という話ではない。ヨーロッパも近世までは豊かな森林に覆われていた。人々は、森林を伐採しては、農業開発を進めていった。かつてヨーロッパには、バイソンという大型の野生牛が、群れをなして住んでいた。バイソンは、第一次大戦までに、絶滅してしまった。狼も、住処が奪われて絶滅した。私がパリにて勤務していた2004年には、スペインとの国境のピレネー山脈で、フランス最後の野生のヒグマが死んだ。

森林破壊は、開発というものが持つ、やむを得ない側面の一つなのだ。少しでも多くの畑を、と開墾して木々を切る。森林も人々の生活の糧であって、木々を伐採すれば、木材や燃料が得られ、収入になる。それをただ止めろと言うのではなく、どうやれば森の資源を上手に利用しながら生活を支えていけるかを、考え出さなければならない。大事なのは、環境破壊だといって非難することではなく、森林管理をきちんと行うことである。

サバンナ気候の国ブルキナファソにも、太古から手付かずの森林がまだ存在する。これらが失われる前に、森林管理をきちんと進めていくことが肝心である。日本は、そうした森林管理プロジェクトに乗り出した。西部のバンフォラ市で、日本の国際協力機構(JICA)の専門家によって、2007年から5年計画で進められている、「住民参加型持続的森林管理計画」である。

バンフォラ市の周辺に、政府による「指定林」とされた原生林が4ヶ所ある。一番小さいブヌナ指定林でも約900ヘクタール。一番大きいコングコ指定林に至っては、約2万2千ヘクタールもある。そこに、貴重な固有種の木々が残っている。そうした森林について、周辺にある村落と協力し、各村落の農業活動や生活を、森林を傷つけることなく改善していく方法を考える。

私は、プロジェクトを視察するために、バンフォラ市に出かけた。プロジェクトには、日本人専門家が4人派遣されていて、今回は水品修さんと武藤珠生さんの2人の専門家に会うことができた。2人は、ブルキナファソ側の計画主任とともに、8人ほどのスタッフでチームを作って活動している。 水品さんは、これまで世界各地で森林プロジェクトを進めてきた、森林の専門家である。

木を計画的に伐採すること以外に、森林から経済的な収益を上げる方法として、どういうものがあるのか。水品さんが教えてくれる。
「苗木の生産などは、森林の中でも出来ます。ほかにもいい現金収入になるのは、養蜂です。これらの生産方法を、村民に教えるとともに、養蜂箱などを調達して提供します。他に有望なのは、付加価値の高い植物の採集です。この地方特産の、カリテの木などは、その種子を集めて地元の婦人が加工作業を行い、食用や化粧品として最近人気の高い、カリテバター(英語:シアバター)を生産します。また、薬用植物として、付近の森にはドリバラ(n’dribala)という植物が生えています。この植物を煎じたものは、抗マラリア効果があります。すでにフィトフラ(Phytofla)社という薬品会社と提携して、商品化の試みが進められています。」

ところが、と水品さんが言う。
「たとえば薬草の採取が、現金収入に繋がる、ということになると、たちまち乱獲がはじまって、すぐに森から消えてしまう。村落の人々に、森林管理についての研修などを行いつつ、新しい森林利用を伝えていかなければ、かえって森林破壊になってしまうのです。」

だから、計画の表題に掲げられた「住民参加型」という点が、重要になる。村落の人々が、率先して森林保護を考えるようになってくれなければ、活動は持続していかない。全部で3万ヘクタールの面積がある指定林に、政府の森林の維持管理官は、たった2人しかいない。住民の協力なくして、森林保護は不可能だ。そこに、住民参加型の村落開発の専門家である、武藤さんの出番がある。

4つの指定林に関係するのは、23の村落である。そこに、政府当局から森林利用の認証を受けた、森林管理の住民組織が、27ほどある。この住民組織のそれぞれに出かけて、管理の能力開発を行う。収益を積み立てて、次の活動の投資に充てるなどの方法論を伝える。そもそも、記録と出納管理がなければ、組織の運営が機能しない。そういうところが出来ていなかったりするから、武藤さんが中心となって、丁寧に指導する。

お二人の案内で、森を見に行く。木の下に養蜂箱がおいてあり、蜜蜂が出入りしている。最初に20箱を供与して、養蜂を教える。そしてその利益を積み立てて、21箱目を買うように指導する。森林管理の住民組織が、自主的に始めた事業もある。指定林の外側に、バイオ燃料の生産をめざして、ナンヨウアブラギリ(jatrofa)の苗を植えている。
「収益につながる事業となるのかどうかは、私たちの目から見ても疑問ですけどね。しかし、住民組織がこうして自主的に考えようとする意欲が、大切なことだと思います。」
と、水品さんは言う。住民組織の自主性を尊重して、押しつけにならないようにすることにも、心を配らなければならない。

野火の不始末が、広い面積の森林を焼き尽くしている。水品さんが、山火事跡を前にして、そうした村人たちとの関係を語る。
「日本の森林管理計画は、技術やノウハウの移転だけですからね。何か新しい建物が建つわけでも、農耕器具や車などが寄贈されるわけでもない。だから、はじめは地元村落から、日本の協力に対して失望の声が上がります。それでも、私たちが、一定の幅で空き地を作って防火帯とするように、と指導してきていたら、ほんとうに山火事が起こったときに、防火帯のおかげで、村の森が火から守られました。それで、村人からたいへん感謝されました。」

欧米のNGOが、アフリカの人々にたんに森の大切さを教えようとしても、うまくいかない。森が貴重だということを、環境や動植物の保護の観点から訴えても、村人たちには通じない。その一方で、木を伐採するのは一瞬であり、お金にはなってもすぐに消えてしまうけれども、木だけでなく森の資源を計画的に利用して生産につなげれば、永く恵みを生み続ける、ということを示せば、村人は自主的に森を守るようになる。いかにも日本的な地道な技術指導が、アフリカの森林を救うために、実はもっとも近道なのかもしれない。

 山火事で焼けた林

 カリテの木の下に養蜂箱

 カリテの木の葉

 薬草ドリバラの花

 水品さんが語る。

 


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