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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

野球一徹

2009-03-10 | Weblog

野球一徹の人生はさまざまながら、出合祐太さんは一風変わった道を目指した。それは野球の普及活動である。高校、大学と、野球部で選手として活動しながら、心の中では、野球の世界への普及に夢を追ってきた。だから青年海外協力隊で、野球の普及活動に出ることを目指した。ところが、大学卒業の年、協力隊の募集に、野球の技術指導者という職種は入っていなかった。それで、ある会社に勤めながら、じっと時の至るのを待つ。昨年、とうとう待っていた募集が出た。早速会社を辞めて応募、合格して派遣された。派遣先は、ブルキナファソである。

ブルキナファソに、野球の指導とは。スポーツといえばサッカーのアフリカで、野球をする人がいるのだろうか。ところが、このブルキナファソにも、もう一人の野球一徹がいたのだ。「ブルキナ野球ソフトボール連盟」のンジャイ会長である。10年前に、マリで出会った野球に夢中になった。これをアフリカに普及させよう、と野球一徹になった。ブルキナファソに帰ってきて、2004年に全国各地の8チームからなる野球連盟を創り、人々への野球の普及につとめた。マリやニジェールの同好の人々とともに、西アフリカ対抗試合も始めた。米国大使館も支援してくれた。いまやブルキナファソの各地に、14のチームが出来ている。

そのンジャイ会長のところに、統計の協力でブルキナファソに来ていた協力隊員が、野球をしたくて通うようになったのが、日本とブルキナファソの野球交流のきっかけである。日本は、国際協力機構(JICA)を通じて、連盟にグローブやバットを寄贈して支援した。そして本格的な野球のコーチを、協力隊員として派遣することになった。そうして、出合さんがコーチとして、野球技術の指導をすることになったのである。

私は、出合さんの活動を視察しようと、ワガドゥグの市民グランドに赴いた。日中の暑い日がようやく翳り始めた夕刻、若者を中心とした市民たちは、広大なグランドに繰り出してスポーツを楽しむ。大方の人々は、サッカーの試合をしている。向こうの方では、バレーボールを練習している。サッカーの試合といっても、ゴールの枠はない。石が置いてあるだけ。バレーボールに至っては、柱の間に紐を渡しただけ。ネットはない。それでもいい。皆で楽しめれば、それで十分スポーツなのだ。女性たちは、ダンスの稽古をしている。赤土が剥き出しで砂埃の舞うグランドで、大勢の若者が、身体を動かし、汗を流している。

その中に、野球のグランドがあった。そこで、出合さんと子供たちが野球の練習をしている。グランドの脇に、ンジャイ会長も私を待っていた。私のために、わざわざ写真をパネルに貼り付けたものを用意してくれていた。ンジャイ会長は、写真を一つ一つ指しながら、野球連盟の歴史、ブルキナファソでの野球の普及の歴史を語る。
「はじめの頃に教えた子供たちが、10年経って青年になって、野球の育成に参加してくれています。そうして段々に、野球人口が増えてきた。出合さんが来てくれて、本格的な練習方法でトレーニングができるようになりました。おかげで、今やブルキナファソの野球選手たちは、意気も軒昂に野球にとりくんでいます。」

ンジャイ会長に、野球のどこに惹かれたのですか、と私は問う。
「チームワークの重要さです。それから、野球というのは、常に動きのあるサッカーと違って、動きを止めて、じっくり考えながら進めるスポーツです。知的ゲームの面が大きくて、それが非常に面白いのです。」
オリンピック出場をめざしていたんですけどね、とこれは少し寂しそう。野球は、次のオリンピックからは、正式種目ではなくなる。

野球グランドといっても、段ボール紙のベースが置いてあるだけ。出合さんは、子供たちを相手にノック練習をしている。出合さんの打ち出すボールを、子供たちが拾って一塁手に投げる。
「そら、声をかけるんだ。声を出さないと、どっちに投げるのか分からないじゃないか。」
出合さんの叱咤が飛ぶ。
「腰を十分かがめて、飛んでいったボールの正面で受けるんだ。」
子供たちは、真剣にボールを追う。

どうして、子供たちにも教えるようになったんですか、と出合さんに聞く。
「野球連盟の選手の人たちへの技術指導をしていたら、ある日、下宿先の家の裏に住んでいる子供が、にいちゃん、僕も野球をしてみたい、と言った。それじゃ、教えてやるからグランドに来い、といって始めたのがこのチームです。彼は、ほぼ毎日通ってきます。そのうち一人増え、二人増えして、だんだん子供たちのチームが出来てきました。今日は少ないですけどね、多い日にはもっと沢山来てくれます。」

グローブを手にした子供たちの中には、女の子もいる。こうした子供たちが、野球を続けて大人になる。そのなかには、本格的に野球に取り組む人も出てくるかもしれない。野球というのは、日本においても、かつてこのようにして伝わっていったのだろう。ブルキナファソで、日本のように野球が大流行するというのも、まんざら遠い夢ではない。

私は、練習を終えて集まってきた子供たちに、野球は面白いかい、と聞く。
「面白い。友達みんなでやれるから、面白い。」
口々に答えた。小さな野球一徹たちが生まれている。

 ブルキナ野球連盟の歴史

 ノック練習

 張り切って行こう

 みんな集まれ

 出合さんと仲間たち


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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アフリカで野球!? (西邑や)
2009-03-10 12:49:15
日本は今,WBCで盛り上がっていますが,アフリカで野球を広めようとされている方や日本から技術指導に行かれている方がおられるとは,全く以外でした.
1ヶ月程前にこのブログを見つけ,会社での昼休みに毎日読ませて頂いています(過去にも戻りながら).コートジボワールの文化が分かり,また,日本国大使がどのような活動をされているのかがよく分かります.お忙しいと思いますがこれからもよろしくお願いします.
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ブログ (サッチー)
2009-03-12 09:03:10
新聞に載っていた記事で知りました。「外交官のブログは珍しい、活躍の場で日々の情報が伺える」というもので早速HPアドレスをお気に入りに入れさせていただきました。

どうぞ健康に留意して益々のご活躍を祈り、ブログも楽しみにしています。
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