野球一徹の人生はさまざまながら、出合祐太さんは一風変わった道を目指した。それは野球の普及活動である。高校、大学と、野球部で選手として活動しながら、心の中では、野球の世界への普及に夢を追ってきた。だから青年海外協力隊で、野球の普及活動に出ることを目指した。ところが、大学卒業の年、協力隊の募集に、野球の技術指導者という職種は入っていなかった。それで、ある会社に勤めながら、じっと時の至るのを待つ。昨年、とうとう待っていた募集が出た。早速会社を辞めて応募、合格して派遣された。派遣先は、ブルキナファソである。
ブルキナファソに、野球の指導とは。スポーツといえばサッカーのアフリカで、野球をする人がいるのだろうか。ところが、このブルキナファソにも、もう一人の野球一徹がいたのだ。「ブルキナ野球ソフトボール連盟」のンジャイ会長である。10年前に、マリで出会った野球に夢中になった。これをアフリカに普及させよう、と野球一徹になった。ブルキナファソに帰ってきて、2004年に全国各地の8チームからなる野球連盟を創り、人々への野球の普及につとめた。マリやニジェールの同好の人々とともに、西アフリカ対抗試合も始めた。米国大使館も支援してくれた。いまやブルキナファソの各地に、14のチームが出来ている。
そのンジャイ会長のところに、統計の協力でブルキナファソに来ていた協力隊員が、野球をしたくて通うようになったのが、日本とブルキナファソの野球交流のきっかけである。日本は、国際協力機構(JICA)を通じて、連盟にグローブやバットを寄贈して支援した。そして本格的な野球のコーチを、協力隊員として派遣することになった。そうして、出合さんがコーチとして、野球技術の指導をすることになったのである。
私は、出合さんの活動を視察しようと、ワガドゥグの市民グランドに赴いた。日中の暑い日がようやく翳り始めた夕刻、若者を中心とした市民たちは、広大なグランドに繰り出してスポーツを楽しむ。大方の人々は、サッカーの試合をしている。向こうの方では、バレーボールを練習している。サッカーの試合といっても、ゴールの枠はない。石が置いてあるだけ。バレーボールに至っては、柱の間に紐を渡しただけ。ネットはない。それでもいい。皆で楽しめれば、それで十分スポーツなのだ。女性たちは、ダンスの稽古をしている。赤土が剥き出しで砂埃の舞うグランドで、大勢の若者が、身体を動かし、汗を流している。
その中に、野球のグランドがあった。そこで、出合さんと子供たちが野球の練習をしている。グランドの脇に、ンジャイ会長も私を待っていた。私のために、わざわざ写真をパネルに貼り付けたものを用意してくれていた。ンジャイ会長は、写真を一つ一つ指しながら、野球連盟の歴史、ブルキナファソでの野球の普及の歴史を語る。
「はじめの頃に教えた子供たちが、10年経って青年になって、野球の育成に参加してくれています。そうして段々に、野球人口が増えてきた。出合さんが来てくれて、本格的な練習方法でトレーニングができるようになりました。おかげで、今やブルキナファソの野球選手たちは、意気も軒昂に野球にとりくんでいます。」
ンジャイ会長に、野球のどこに惹かれたのですか、と私は問う。
「チームワークの重要さです。それから、野球というのは、常に動きのあるサッカーと違って、動きを止めて、じっくり考えながら進めるスポーツです。知的ゲームの面が大きくて、それが非常に面白いのです。」
オリンピック出場をめざしていたんですけどね、とこれは少し寂しそう。野球は、次のオリンピックからは、正式種目ではなくなる。
野球グランドといっても、段ボール紙のベースが置いてあるだけ。出合さんは、子供たちを相手にノック練習をしている。出合さんの打ち出すボールを、子供たちが拾って一塁手に投げる。
「そら、声をかけるんだ。声を出さないと、どっちに投げるのか分からないじゃないか。」
出合さんの叱咤が飛ぶ。
「腰を十分かがめて、飛んでいったボールの正面で受けるんだ。」
子供たちは、真剣にボールを追う。
どうして、子供たちにも教えるようになったんですか、と出合さんに聞く。
「野球連盟の選手の人たちへの技術指導をしていたら、ある日、下宿先の家の裏に住んでいる子供が、にいちゃん、僕も野球をしてみたい、と言った。それじゃ、教えてやるからグランドに来い、といって始めたのがこのチームです。彼は、ほぼ毎日通ってきます。そのうち一人増え、二人増えして、だんだん子供たちのチームが出来てきました。今日は少ないですけどね、多い日にはもっと沢山来てくれます。」
グローブを手にした子供たちの中には、女の子もいる。こうした子供たちが、野球を続けて大人になる。そのなかには、本格的に野球に取り組む人も出てくるかもしれない。野球というのは、日本においても、かつてこのようにして伝わっていったのだろう。ブルキナファソで、日本のように野球が大流行するというのも、まんざら遠い夢ではない。
私は、練習を終えて集まってきた子供たちに、野球は面白いかい、と聞く。
「面白い。友達みんなでやれるから、面白い。」
口々に答えた。小さな野球一徹たちが生まれている。 ブルキナ野球連盟の歴史
ノック練習
張り切って行こう
みんな集まれ
出合さんと仲間たち
1ヶ月程前にこのブログを見つけ,会社での昼休みに毎日読ませて頂いています(過去にも戻りながら).コートジボワールの文化が分かり,また,日本国大使がどのような活動をされているのかがよく分かります.お忙しいと思いますがこれからもよろしくお願いします.
どうぞ健康に留意して益々のご活躍を祈り、ブログも楽しみにしています。