日本映画祭、と大きく掲げている。なんだ3本の日本映画を3日間上映するだけじゃないか、と思われるかもしれないが、そんなことでも、これをアフリカで行うとなると、いろいろ苦労がある。まず、映画フィルムを調達しなければならない。日本映画にフランス語のサブタイトルのついたものというのは、そんなに簡単に手に入るわけではない。と思っていたら、ちゃんとパリの日本大使館に、フランス語で上映できる日本映画が、何本か用意してある。そこから借り出し、全部で45キロになるフィルムのセットを、航空便でアビジャンまで送ってもらう手はずを整えた。
そして、映写の準備である。こんどは予算の問題。最近は緊縮財政で、外交活動の費用も、大変厳しく削られている。節約できるところは何でも節約、という世論のなかで、文化関係は、予算削減をしても目立った害がなさそうに見えるから、真っ先に犠牲になる。予算は全部で50万円。この予算で、3日間の会場の確保から、ポスターやパンフレットの印刷から、何もかも賄わなければならない。本当は、もっと大きくて収容人数の多い映画館を借りたかったが、それは問題外。結局、ここのドイツ大使館にお願いして、ドイツ文化会館のホールを、安い料金で貸してもらうことにした。
大使館の文化担当官が走り回って、ともかくも日本映画祭にこぎつけた。嬉しいことに、初日に立ち見が出るほど、たくさんの人々が鑑賞に訪れた。招待状を出したら、ムッサ・ドッソ技術教育・職業訓練大臣が来てくれた。大使連中も何人か来てくれている。はじめるにあたって、私は満場の参加者にむかって挨拶をする。
「私は着任以来、はやく文化に関する活動を再開したいと思ってきました。そして、日本映画の上映は、日本の文化を伝える最良の手段と考えています。なぜなら、映画は直接人々の生活を映し出すからです。普通の人々が日々思っていることを、直接訴えかけるからです。本日、この日本映画祭を契機として、長年にわたって中断してきた日本大使館の文化活動を再開できることを、本当に喜んでいます。」
3本の映画は、どれも日本の普通の人々の生活を映し出している名作である。コートジボワールの人々に何かが伝わるはずと、期待をかけて選んだ。
3月4日:「学校」(1993年)山田洋次監督。出演:西田敏行、田中邦衛、竹下景子。
3月5日:「蛍川」(1987年)須川栄三監督。出演:三國連太郎、十朱幸代。
3月6日:「ハチ公物語」(1987年)神山征二郎監督。出演:仲代達也、八千草薫。
初日の4日は、私の挨拶に続いて、「学校」を上映した。夜間中学校の物語である。東京の下町の様子が映し出される。長屋やガード下の下宿。中小企業の町工場や日雇い作業の現場。焼肉屋でカラオケに興じる人たち。コートジボワールでは日本というと、伝統文化とハイテク産業、とおよそ紋切り型のイメージばかりである。日本にも貧乏と闘いながら、頑張って生きている人々が普通に居るという映像は、それだけで結構新鮮に映るだろう。映画では、子供の頃に学校に行けなかったなどのさまざまな境遇から、大人になって一念発起、夜間中学に通う人々を、一人一人描き出す。
映写の途中でリールがずれて、少し見づらくなって、はらはらしたところがあったけれど、ともかくもフィルムが切れることなく最後まで上映できた。「学校」は、海外の上映でも評判がいいので、このリールは世界のあちこちを旅して回っている。映像にかなり雨が降っているのも、仕方がない。少し胸がしんみりしながら、未来に希望が続くところで、「終」の字がでたら、拍手が起こった。明るくなった場内で、私は立ち上がる。
ムッサ・ドッソ技術教育・職業訓練大臣は、映画を最後まで見てくれていた。教育機会を奪われていた人々が、ふたたび教育を得ようと努力するという内容だから、大臣にも何らか参考になるものがあったら嬉しい。「いい映画だった」と言ってくれる大臣と、私は固くお礼の握手をする。他の出席の皆さんにも、心からお礼をした。
やはり映画はいいものだ。ささやかな映写会でも、今日ここに来てくれたコートジボワールの人々を、上映時間の間、しっかりと日本に連れて行くことが出来た。日本の文化作品に直接触れてもらえば、人々はより日本を近く感じるようになる。来てくれたコートジボワールの人々から、日本映画祭の次には何をするのか、映画祭も是非続けてほしい、と励ましの言葉が掛かる。文化行事は、効果が目に見えないので、ついつい後回しにされるけれど、大使館での催し物は地道にでも続けていくべきなのだ。文化活動を再開する運びになり、大使としてちょっと一人前になった気分である。
日本映画祭のポスター
上映会に是非参加させて頂こうと主人と楽しみにしていたのですが、先週、義姉が予定よりも1週間も早く出産をしまして、今週はお祈りの儀式や訪問客などで連日連夜大騒ぎです!
申し込みから2週間以上も経ちやっと家でインターネットが出来る様になったのでBlogを拝見させて頂きました。また機会があれば日本とコートジボワールの交流を深める事のお手伝いが少しでも出来ればと思っております。
http://www.courrierinternational.com/article.asp?obj_id=95249
記事の中で書かれているようにもっとアフリカのフィルムもアフリカの外でも見れるようになるといいですね。