外務大臣からお電話です、と秘書が言うので電話をとったら、トーゴのエサオ外相であった。エサオ外相は、先週日本を訪問していた。週末に帰国したので、さっそくお礼の電話をかけた次第だ、と受話器の向こうに外相の声が聞こえる。
「日本では、たいへんな歓迎を受けました。中曽根外務大臣と、大変いい外相会談が出来ました。国際協力機構(JICA)や経済団体とも意見交換を行えたし、トーゴを応援してくれる国会議員の先生方にも歓待していただきました。京都に視察に行ったのも、大変よい思い出になりました。」
私がトーゴの大使として着任して以来、日本とトーゴの関係を作っていこうという動きになってきた。トーゴは、故エヤデマ大統領の政権の末期には、人権問題などから欧米社会にそっぽを向かれ、日本も距離を置いてきていた。今のニヤシンベ大統領になり、その雰囲気が変わってきた。確かにニヤシンベ大統領も、その就任には疑問があったにしても、その後大統領選挙を行い、一昨年(2007年)の国民議会選挙も、民主的に行った。私は、トーゴが国際社会に復帰していこうという時期に、トーゴの大使になったという、いいめぐり合わせだ。日本の側でも多くの方々の尽力があって、トーゴとの関係が積み上げられ始めている。
ウングボ首相が、日本との関係を強化したい、そのためにエサウ外相を日本に派遣する、という意向を伝えてきたのは1月の半ばであった。トーゴの外相が、はじめて日本を訪問する。それは、日・トーゴ関係の進展に、おおいに意義のあることで、是非歓迎しようではないか。
一方で私は、ちゃんと準備できるだろうか、訪日が成功するだろうかとおおいに心配した。 普通、閣僚クラスが日本を訪問するときには、その国の在京大使館がしっかり準備する。成田空港での出迎えから、宿泊や車などの手配、約束先への案内など、在京大使館がすべて責任を負う。
ところが、トーゴはといえば、東京に大使館を置いておらず、中国の大使館が日本の仕事を兼務している。私もトーゴの大使とはいえ、ロメにいるわけではない。お互いに隔靴掻痒の連絡の中で、東京の外務本省が、日程表を組んだり、各方面への訪問約束をとりつけたり、事実上トーゴ大使館のかわりになって準備してきた。それが全てうまくいったのだ。エサウ外相が、満足して訪日を終えたと電話を掛けてきて、私は大変安堵した。
なにより、中曽根外務大臣とエサウ外相の間で、2月24日に行われた会談は、25分と短時間ながらも、たいへん中身の濃いものであった。その様子は、すでに外務本省から大使館への電報で、私に知らされている。電報には、次のように記録されている。
「(中曽根大臣)エサオ大臣の初来日を歓迎する。約15年に及ぶ政治的危機を克服したトーゴにおける、民主化の定着を歓迎する。2010年に予定されている、トーゴの大統領選挙をふくめて、今後も更なる民主化が進むことを期待する。
(エサオ外相)トーゴは、国内融和、民主化強化、財政の厳格化などを進めている。2010年の大統領選挙も、平和のうちに、かつ透明性をもって実施するとの決意にある。今回の訪日を機会に、トーゴと日本の二国間関係を強化したい。ニヤシンベ大統領には、この春にも訪日を実現し、これを成功させたい。」
中曽根大臣から、トーゴの民主化への日本の関心と期待をきちんと表明したのは、大事なことである。来年(2010年)に大統領選挙が予定されている。この選挙も、2007年の国民議会選挙とおなじく、民主的かつ平穏に実施されることが重要だ。さらに、ニヤシンベ大統領の訪日が、本決まりである。ニヤシンベ大統領自身が、日本の姿を自分自身もよく学び、国民にも知らせて、国の再建に活かしたいという意向を、私に表明していた。それが早速実現する。大使としては嬉しい話である。
会談はさらに続く。
「(中曽根大臣)昨年のアフリカ開発首脳会議(TICAD)や、G8サミットで行った、対アフリカ開発援助倍増の約束を、日本は必ず実施していく。トーゴに対する経済協力は、トーゴの政治的安定や、援助の受け入れ能力などをよく見ながら、基礎生活分野を中心とした支援について、前向きに検討していきたい。また、ボツワナで開催する予定の、TICAD閣僚級フォローアップ会合(3月21-22日)への、トーゴからの参加を期待する。
(エサオ外相)これまでの日本の協力に、感謝をお伝えしたい。トーゴの経済復興のために、インフラや農業分野での訓練などについて、日本からの支援強化を期待する。」
最後に、国際問題についての協力関係について話が及ぶ。
「(エサオ外相)国連などにおいて、トーゴは日本の立場を支持してきている。日本が安全保障理事会の常任理事国となることも、支持をしている。
(中曽根大臣)トーゴからの支持に感謝を表明したい。安全保障理事会の改革について、これが早期に実現するように、両国で引き続き協力を強化していきたい。」
私たちの日頃の人間関係では、一人か二人、本当に信頼できる友人がいることが重要だ。外交の世界でも、それはその通りなのだが、時には友人は沢山いればいるほどいいこともある。トーゴは小さい国だけれど、きちんと友人関係を築いておけば、必ず日本にとって助けになってくれることがある。そういう友人関係には、両国の責任ある人々が、直接知り合うことが、何よりもしっかりした土台になる。
エサオ外相は、訪日して良い一歩を印してくれた。中曽根外務大臣には、引き締まった外相会談を行っていただいた。トーゴをよく知る方々にも、充実した訪日となるように尽力いただいた。日・トーゴ双方で高まってきているこの前向きの機運を、私も大使としてしっかり発展させなければ。エサオ外相の電話を切りながら、私はそう自分に言い聞かせた。
<プレス発表>
「日本では、たいへんな歓迎を受けました。中曽根外務大臣と、大変いい外相会談が出来ました。国際協力機構(JICA)や経済団体とも意見交換を行えたし、トーゴを応援してくれる国会議員の先生方にも歓待していただきました。京都に視察に行ったのも、大変よい思い出になりました。」
私がトーゴの大使として着任して以来、日本とトーゴの関係を作っていこうという動きになってきた。トーゴは、故エヤデマ大統領の政権の末期には、人権問題などから欧米社会にそっぽを向かれ、日本も距離を置いてきていた。今のニヤシンベ大統領になり、その雰囲気が変わってきた。確かにニヤシンベ大統領も、その就任には疑問があったにしても、その後大統領選挙を行い、一昨年(2007年)の国民議会選挙も、民主的に行った。私は、トーゴが国際社会に復帰していこうという時期に、トーゴの大使になったという、いいめぐり合わせだ。日本の側でも多くの方々の尽力があって、トーゴとの関係が積み上げられ始めている。
ウングボ首相が、日本との関係を強化したい、そのためにエサウ外相を日本に派遣する、という意向を伝えてきたのは1月の半ばであった。トーゴの外相が、はじめて日本を訪問する。それは、日・トーゴ関係の進展に、おおいに意義のあることで、是非歓迎しようではないか。
一方で私は、ちゃんと準備できるだろうか、訪日が成功するだろうかとおおいに心配した。 普通、閣僚クラスが日本を訪問するときには、その国の在京大使館がしっかり準備する。成田空港での出迎えから、宿泊や車などの手配、約束先への案内など、在京大使館がすべて責任を負う。
ところが、トーゴはといえば、東京に大使館を置いておらず、中国の大使館が日本の仕事を兼務している。私もトーゴの大使とはいえ、ロメにいるわけではない。お互いに隔靴掻痒の連絡の中で、東京の外務本省が、日程表を組んだり、各方面への訪問約束をとりつけたり、事実上トーゴ大使館のかわりになって準備してきた。それが全てうまくいったのだ。エサウ外相が、満足して訪日を終えたと電話を掛けてきて、私は大変安堵した。
なにより、中曽根外務大臣とエサウ外相の間で、2月24日に行われた会談は、25分と短時間ながらも、たいへん中身の濃いものであった。その様子は、すでに外務本省から大使館への電報で、私に知らされている。電報には、次のように記録されている。
「(中曽根大臣)エサオ大臣の初来日を歓迎する。約15年に及ぶ政治的危機を克服したトーゴにおける、民主化の定着を歓迎する。2010年に予定されている、トーゴの大統領選挙をふくめて、今後も更なる民主化が進むことを期待する。
(エサオ外相)トーゴは、国内融和、民主化強化、財政の厳格化などを進めている。2010年の大統領選挙も、平和のうちに、かつ透明性をもって実施するとの決意にある。今回の訪日を機会に、トーゴと日本の二国間関係を強化したい。ニヤシンベ大統領には、この春にも訪日を実現し、これを成功させたい。」
中曽根大臣から、トーゴの民主化への日本の関心と期待をきちんと表明したのは、大事なことである。来年(2010年)に大統領選挙が予定されている。この選挙も、2007年の国民議会選挙とおなじく、民主的かつ平穏に実施されることが重要だ。さらに、ニヤシンベ大統領の訪日が、本決まりである。ニヤシンベ大統領自身が、日本の姿を自分自身もよく学び、国民にも知らせて、国の再建に活かしたいという意向を、私に表明していた。それが早速実現する。大使としては嬉しい話である。
会談はさらに続く。
「(中曽根大臣)昨年のアフリカ開発首脳会議(TICAD)や、G8サミットで行った、対アフリカ開発援助倍増の約束を、日本は必ず実施していく。トーゴに対する経済協力は、トーゴの政治的安定や、援助の受け入れ能力などをよく見ながら、基礎生活分野を中心とした支援について、前向きに検討していきたい。また、ボツワナで開催する予定の、TICAD閣僚級フォローアップ会合(3月21-22日)への、トーゴからの参加を期待する。
(エサオ外相)これまでの日本の協力に、感謝をお伝えしたい。トーゴの経済復興のために、インフラや農業分野での訓練などについて、日本からの支援強化を期待する。」
最後に、国際問題についての協力関係について話が及ぶ。
「(エサオ外相)国連などにおいて、トーゴは日本の立場を支持してきている。日本が安全保障理事会の常任理事国となることも、支持をしている。
(中曽根大臣)トーゴからの支持に感謝を表明したい。安全保障理事会の改革について、これが早期に実現するように、両国で引き続き協力を強化していきたい。」
私たちの日頃の人間関係では、一人か二人、本当に信頼できる友人がいることが重要だ。外交の世界でも、それはその通りなのだが、時には友人は沢山いればいるほどいいこともある。トーゴは小さい国だけれど、きちんと友人関係を築いておけば、必ず日本にとって助けになってくれることがある。そういう友人関係には、両国の責任ある人々が、直接知り合うことが、何よりもしっかりした土台になる。
エサオ外相は、訪日して良い一歩を印してくれた。中曽根外務大臣には、引き締まった外相会談を行っていただいた。トーゴをよく知る方々にも、充実した訪日となるように尽力いただいた。日・トーゴ双方で高まってきているこの前向きの機運を、私も大使としてしっかり発展させなければ。エサオ外相の電話を切りながら、私はそう自分に言い聞かせた。
<プレス発表>
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