学歴詐称疑惑の真相は~第三者委員会証言と卒業証書・添え状から選択肢、絞り込まれる
◆静岡県伊東市長に学歴詐称疑惑
このネタ、いつまで続くのか、というのが多くの読者の方の感想でしょう。
筆者も同感です。
静岡県伊東市長に今年、当選して就任した田久保真紀氏に学歴詐称疑惑が出ています。
市長選の際は、メディアの調査票に「東洋大学法学部卒業」と提出。
当選後には市の広報紙にもプロフィールで「卒業」と掲載しました。
※記入者が選挙スタッフなどだったとしても、最終確認をしたのが田久保氏である以上、田久保氏の責任が問われるのは言うまでもありません。
その卒業証書を議長・副議長に見せたがチラ見せだった(田久保氏は否定)などの話が出たあたりから、メディアのネタに。
しかも、田久保氏が東洋大学に確認に行ったところ、卒業ではなく除籍であることが判明しました。
事の本質は、議長・副議長らに見せた、卒業証書を改めて公開するだけで済む話です。
それができないなら、大学に卒業証明書を取り寄せればいいだけです。
それができないのであれば、卒業ではなく除籍であり、公職選挙法などに違反することになります。
田久保氏は卒業したかどうかなどについて発言を二転三転させています。
しかも、くだんの卒業証書について、大学同期がお遊びで作った、とする匿名の投書があったことも判明しました。
田久保氏は進退については辞任はするが再選挙には出馬する、と表明。その後、31日に改めて記者会見を開く、としています。
◆卒業証書・卒業証明書の違い
筆者は、この学歴詐称疑惑ではからずも話題となった、東洋大学社会学部の卒業です(1999年)。
この学歴詐称疑惑が出てから、不安になり、家探ししたところ、出てきたのがこちらの卒業証書です。
改めてご説明すると、卒業証書・卒業証明書、ともに卒業を証明する書類ですが、微妙な違いがあります。
卒業証書は卒業式に授与されるものであり、専用のホルダーに収まっている大学がほとんどです。形式としては写真のもののように賞状のような形になります。
この卒業証書を紛失した場合、一般的には再発行されません。
一方、卒業証明書は卒業後に本人が請求すればいくらでも発行してくれます。
卒業証明書は写真のもののように、いわゆる書類の体裁となっています。
現在では、コンビニ等で請求・発行が可能ですし、大学窓口に行けば早ければ30分程度で発行してくれます。
大学によっては卒業式の日に卒業証書とは別に卒業証明書も渡してくれます。
◆29日の第三者委員会で市長知人「大学には行かなくなった」
29日の第三者委員会で市長知人が出席して証言しました。
「(Q.市長の学歴の話をいつ・どのように聞いたのか)2017年から2018年の間に2回くらい聞いている。懇親会のようなものをしていた時だったと思うが、その際にあちらこちらでそれぞれの話をしているなかで、私たちのグループのところで、彼女(田久保市長)が『アルバイトに夢中になって大学には行かなくなった』と発言した。その他、個人的な話を数回、明け方までしたことがあった。そのなかで(田久保市長が)バイク便やイベント会社でアルバイトをして働くなかで『おもしろくて熱中していった』ということと、『ただ大学の友達とは仲がよかったので、卒業はしていないけど、終わってからの飲み会には朝まで参加した』との発言を聞いた」
「(Q.市長の表現として『除籍』『中退』『卒業していない』どれだったか)『除籍』という言葉、『中退』という言葉は聞いていない。『卒業していないけれども、その後の飲み会には出たんだよね』と言ったと記憶」
実はこの証言、かなり重要です。この証言、そして筆者の手元にある卒業証書の添え状を合わせると、田久保氏の大学除籍の真相が見えてきます。
◆卒業式欠席でも卒業証書を送付する大学
筆者が東洋大学社会学部を卒業したのは1999年です。
卒業論文を苦労して提出したことを覚えています。
A評価を絶対に出さない、という厳しい教授のゼミで、実際に同期が卒業論文の単位認定を認めない、と言われてショックを受けたほどでした(この同期は、その後、挽回した記憶があります)。
筆者は、どうにかB評価をもらって卒業することができました。
さて、筆者は卒業式を欠席。細かい事情は忘れましたが、たぶん、つまらない理由かと思います。その後も、卒業証書を取りに行きませんでした。
すると、保管期間を過ぎてから東洋大学が当時のアパートに送付してくれました。そのときの添え状がこちらです。
日付が6月14日なので3か月後の送付でした。しかし、何で取りに行かなかったのか、自分。あのときの東洋大学の職員の方、ご迷惑をおかけしました。
さて、この添え状が何を意味するのか、それは卒業をしていれば、大学は卒業証書を送付してくれる、という点です。
田久保市長が大学卒業をした、という認識を主張しています。
7月2日の記者会見では「不真面目な学生でいつまで通っていたというような通学状況ではなかった」、除籍理由については「一度卒業という扱いになって、今どうして除籍になっているのかについては、確認ができ次第、示していくしかない」としています。
もちろん、卒業してから除籍、という扱いはあり得ません。
さて、筆者の添え状が何を意味するのか。
仮にですが、「いつまで通っていたというような通学状況でなかった」としても、卒業していれば田久保氏の届け出た住所に卒業証書が送付されているはずです。
いくら、不真面目と言っても、たまにはアパートに戻るでしょうし、郵便物なども確認するはず。
もちろん、「そんな郵送物など確認しなかった」と主張することは可能です。
が、卒業を主張するのであれば、卒業証明書を取得すればいいだけです。
東洋大学が田久保氏について除籍としている以上、卒業ではなく除籍、ということになります。
万が一、大学職員の手続きミスなどで本来なら卒業しているところ除籍扱いになっている、と主張するのであれば、当時の大学教員や同級生などに証言を求めていくことも可能なはず。
そうした運動をしていない(あるいは、できない)という時点で、除籍処分が正当だったことを示しています。
◆知人証言から見えた除籍理由
さて、田久保氏の除籍理由は何でしょうか。
大学の除籍理由は一般的には次の5点です。
・学費未納:授業料などの納付金を期日までに支払わなかった場合
・在学年限(8年)超過:所定の年限を超えても卒業できなかった場合
・長期無断欠席・就学放棄:正当な理由なく長期間欠席した場合、卒業の見込みがない場合
・懲戒除籍:重大な規則違反(カンニング、暴力、犯罪など)
・入学時の虚偽申請:学歴や成績証明書の偽造など
詐称疑惑が出た当初は、学費未納や懲戒除籍が有力視されていました。
在学年限超過であれば、卒業式の日付に除籍となることはあり得ません。入学時の虚偽申請も、判明していればその時点でかなり話題になったはずです。
しかし、29日の市長知人の証言に「アルバイトに夢中になって大学には行かなくなった」とあります。
この大学に行かなかった期間等は証言に出てきません。
ただ、大学に行かず、授業の履修登録についても、未登録を1年だけでなく、2年ないし3年、しなかった可能性があります。
大学の授業は履修登録をしないと、単位認定はされません。1年だけしないのであれば、留年すれば卒業することは可能です。しかし、2年ないし3年、履修登録をしないと、卒業の見込みがなくなり「就学放棄」と判断されてもおかしくはありません。
2020年代現在だと、長期間の欠席などをすると、本人だけでなく保証人に対しても連絡する大学が大半です。
ただ、1990年代はそこまでやる大学は少数派でした。良くも悪くも放任主義だったのです。
田久保氏の大学除籍理由は、アルバイトのし過ぎで授業に出席せず、履修登録も飛ばした。その結果、「就学放棄」と判断されて除籍処分となったのではないでしょうか。
田久保氏は、あくまでも「卒業したつもりだったが除籍となっていた。事情については調査したい」と言い張るでしょう。
しかし、この言い分はなかなか苦しいものになりつつあります。
議会・第三者委員会側は今後、東洋大学の職員ないし法学部教員や田久保氏の親などにも証言を求めていくことでしょう。メディアが取材していくこともあり得ます。
田久保氏の主張に対する包囲網は狭まりつつあります。
31日の記者会見で何を話すのか、注目です。