航空自衛隊がスクランブル対応していた
東日本大震災10年目に当たる今年の3月11日。日本人の哀悼の想いを無下にするかのように、ロシア軍がわが国に対し「挑発行動」を取っていたことをご存知だろうか。
防衛省統合幕僚監部の発表によると、同日にロシア空軍のA-50早期警戒管制(AWACS)機とその他計8機のロシア機と推定される識別不明機が、日本海及びオホーツク海周辺においてわが国に接近して飛行し、これに対して航空自衛隊の戦闘機がスクランブルするなどして対応した。
同12日付のロシア軍の機関紙「赤星」によると、「空域の国際規則に従って」と題する記事で、
「ロシア航空宇宙軍(2015年の改編で空軍と航空宇宙防衛軍が統合)配下の遠距離航空軍所属である(核兵器搭載可能な)戦略爆撃機Tu-95MSの2機編隊が、日本海中部から太平洋北西部の公海上空を計画に基づいて飛行した。
これに対して、(同配下の防空軍所属である最新鋭の)戦闘機Su-35Sがこの爆撃機を護衛(エスコート)した。この飛行中、日本空軍(航空自衛隊)のF-15戦闘機が何回か随伴飛行(追随)した」
という内容を伝えている(記事内括弧は筆者付記)。なお、この記事では航空自衛隊が写真撮影したAWACS機のA-50については触れられていない。これは、作戦に関わる行動の細部を秘匿する意図によるものと考えられる。
防衛省の発表とロシア軍機関紙の報道から判明したロシア航空宇宙軍によるこの作戦(オペレーション)の全体像は、
「戦略爆撃機がウラジオストック方面から日本海西部を南下して、島根県隠岐の島北方からわが国に接近し、領空周辺をなめるように北上し、北海道を周回してオホーツク海から北方四島の色丹島上空を経て太平洋北部へ進出した。
このルート上、戦闘機Su-35Sの2機編隊が3個編隊に分かれて6機でこの爆撃機をエスコートし、日本海上空においては、このルートの後方(北方空域)でAWACS機A-50×1機これらの飛行に対するレーダ支援等の全般統制を実施した」
というものである。
威嚇行動の「目的」はなんなのか
防衛省発表による下図の、緑の航跡2機が戦略爆撃機(Tu-95MS)これをエスコートする各色(黄、紫、桃色)航跡2機が戦闘機(Su-35S)、日本海中部で周回している赤色の航跡が警戒監視や情報収集などの任務に当たったAWACS機(A-50)である。
これら一連の飛行は、ロシアが報道しているように、(この東日本大震災の慰霊の日を念頭に)計画的に行われたものであり、わが国に対する明らかな軍事的示威(威嚇)行動である。
大規模な自然災害により、深く傷ついた多くの日本国民が、10年という節目に失った家族や仲間の霊を慰めるという神聖で厳粛であるべき日に、哀悼の心をも踏みにじるようなかかる軍事挑発を行うロシアとは、何と非礼で無情な国なのだろう。
恐らく、北方四島の上空を通過していることなどから、この島の返還を一貫して求め、その交渉の過程で(国際法上の)四島の帰属を断じて譲らないわが国に対するけん制の意図があるものと見られる。
いずれにせよ、日本がポツダム宣言を受諾して無条件降伏したのを受けて、一方的に日ソ中立条約を破棄してわが国領土に侵攻してきた「ソ連」当時と、この国は本質的に何も変わっていないのだろう。
そういえば、忘れもしない10年前の東日本大震災当日。筆者は北海道や東北方面の防空任務を主担当とする北部航空方面隊(青森県三沢基地)の所属部隊に勤務していた。
この大震災発生後、特にこの地域の防衛任務を担う我々は、各種災害対応のため文字通り有事状態となった。この活動などについてはここでは触れないが、そんなさ中の3月17日、ロシア空軍は日本海に電子偵察機Il-20を飛行させた。
10年前の「あの日」起こった出来事
そして、福島原発事故後の対応に追われていた21日には、ロシア空軍の戦闘機Su-27(下図赤の航跡)と電子偵察機An-12(下図青の航跡)が日本海を飛行した。これは、戦闘機が集塵ポッドと思しきものを搭載していることや電子偵察機を併行して飛行させていることから、放射性物質に関わる集じん飛行を兼ねた威力偵察であったとものと思われる。
宮城県の松島基地では20機近いF-2戦闘機が、地震と津波で壊滅的な打撃を受けた。このことを報道などで知ったロシアが、戦闘機を松島方面へ急接近させた。
その理由として、航空自衛隊のアラート発進(スクランブル)などを惹起させ、わが方の防空能力(領空侵犯対応など)にどれほどの影響が出ているかを確かめたと考えられる。
言ってしまえば、ロシアは震災の被害に乗じて我が国の防衛能力を試したわけだ。しかし、航空自衛隊がアラート待機している根拠飛行場は支障なく、災害対応しつつも防空任務は怠りなく遂行しており、万全の態勢でこれに応じたことは言うまでもない。
ところで、今回の3月11日のロシア機の対応において、括目すべき点がある。それは、航空自衛隊がエスコート戦闘機を伴う爆撃機への接近を避け、あえて爆撃機らの後方に離れてこれらの飛行を支援していたAWACS機(A-50)に触接しに行ったことだ。これは、ロシア軍にプレッシャーを与えることに繋がったのは間違いない。
機関紙「赤星」でもAWACS機について触れていないのは、本機の活動を秘匿する意図によるものと思われるが、これを空自は見事に暴いた。
プーチンにしかと申し渡すべきだ
これが実戦だったならば、侵攻してくる爆撃機がわが国を攻撃するや否や、ハイバリューアセット(高価値目標)であるAWACS機は空自の戦闘機により撃墜され、ロシア空軍にとって大きなダメージを受ける。
要するに、戦術的にも戦略(情報戦)的にも、今回の航空自衛隊の行動は極めて妥当であり、評価されるべきものと言える。
では何が問題かといえば、安全保障の両輪の片翼を担う外交の動きである。このような、航空自衛隊の軍事的行為に合わせ、外交的には今回のロシア軍の示威行動に対して非難すべきだったのではないか。
そのためには、まず本件を広く報道し、多くの犠牲者を悼み喪に服している日本国民の神経を逆なでするような行為が行われたことを、内外に知らしめるべきだったと筆者は考える。
その上で、このような行動を平気で行う国家に対して、「わが国民が友好的な感情を抱くことはないだろうし、国家として信頼することもできない」ということを伝えるべきだったのだろう。
今からでも遅くはない。何らかの機会をとらえて相手国のリーダー、すなわちプーチン大統領にしかと申し渡すことを切に願う。