毎年のように大雨による災害が相次ぐ中、川の氾濫を防ぐ役割を担う全国各地のダムでは、7年前の西日本豪雨などの洪水被害をきっかけに、放流の判断に「AI=人工知能」を活用しようという新たな取り組みが始まっています。AIを水害対策に生かすことはできるのか、最新の現場を取材しました。
(松山放送局 廉谷直大)
西日本豪雨を教訓に広まる「事前放流」
2018年7月に発生した西日本豪雨。全国各地で川の氾濫や浸水などが相次ぎ、愛媛県では1級河川の肱川が氾濫して大きな被害が出ました。
これを教訓に全国で広まったのがダムの「事前放流」です。「事前放流」とは、大雨が予測される際に、あらかじめ放流を行ってダムの空き容量を確保する操作のこと。各地で取り組みが進んだ結果、国土交通省や水資源機構が管理するダムのうち、この操作のための体制が整えられているのは、7年前の14か所から131か所に増えました。
しかし、「事前放流」は決して簡単ではありません。想定よりダムへの流入量が少ない「空振り」となった場合、農業や発電などに影響が出るほか、最悪の場合、渇水につながるリスクがあるためです。
ダムの事務所ではどのように放流量を決めているのか。ダムのそばにある管理事務所に特別な許可を得て、NHKのカメラが取材に入りました。放流量の調整を担っているのが、こちらの操作室。ダムの状況をリアルタイムで監視していて、モニターにはダムの周辺に設置されている雨量計や水位計など10か所以上のデータが表示されています。
担当者は、こうしたデータを常に監視するとともに、気象庁の予報資料などをもとに、流域からダムに流れ込む水の量を予測し、放流する量を決めているといいます。しかし、「事前放流」を適切に行うためには、ダムに流れ込む水の量を精度よく予測することが欠かせません。
肱川ダム統合管理事務所 多田寛管理課長
「あすとかあさっての天気というのは気象の情報でわかるんですが、ダムの流域で何時からどのくらい降るかという具体的な予測は、まだまだ精度の問題があります。予測より多く降った場合や少なく降った場合など、常にリスクに備えて状況を監視しています」
「空振り」を防げ!流入量の予測にAI活用へ
こうした中、国が試験的に始めているのが、「AI=人工知能」を使ってダムへの流入量を予測しようという新しい取り組みです。国土交通省によりますと、こうしたAIによる予測の取り組みは4年前から始まり、ことし3月末の時点で、全国77のダムで試験的に導入されているといいます。
AIに、過去40年分の「雨量」と「ダムの流入量」などのデータを学習させ、雨でダムにどのくらいの水が流れ込むかを算出します。このグラフは、ことしの6月23日、梅雨の期間中に雨が降り続いていた際の予測画面です。青い太線がこれまでのモデルの予測で、流れ込む水の量を午前0時の時点で150トンと予測していました。一方、点線がAIによる予測で、こちらは60トンと予測。実際に流れ込んだ水の量は青い細線の50トンで、これまでのモデルより、AIモデルの方が高い予測精度となりました。
AIの導入は「事前放流」だけでなく、効果的な防災対応にもつながると期待されています。これまでは流入量を予測するために、担当者が予想される雨量を事務所のシステムに手入力する必要がありましたが、AIではそうした手間を省けるため、少ない人数で災害対応にあたることができます。
一方、AIにも課題があります。これまでに経験したことのない大雨の場合、過去に蓄積されたデータから予測するAIでは対応ができないため、仮想の洪水を学習させるなどの改良が必要だといいます。国は、今後、AIの予測精度をさらに向上させたうえで、実用化につなげていく方針です。
猪熊敬三副所長
「最近の線状降水帯であるとか、局地的豪雨の頻発に対応していくためには、限られた人員で高度な操作を継続的に実施して行く必要があります。AIによる予測モデルの精度が高まれば、非常に有用であることは間違いなく、業務の効率化になりますし、期待しています」