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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

貧しいことが幸せ

2009-02-20 | Weblog
ブルキナファソといえば、コンパオレ大統領の国である。1987年にクーデタで政権についたコンパオレ大統領は、以来20年間にわたり大統領選挙を何度も重ねて、長期安定政権を続けている。

そして、コートジボワールから見れば、コンパオレ大統領は、2007年3月のワガドゥグ合意成立の立役者として、そしてこの合意に基く和平形成の調停役として、大変重要な存在である。今もなお頻繁に、コートジボワールの政治指導者たちをワガドゥグに集めて、和平の進展を図っている。コンパオレ大統領はコートジボワールだけでなく、トーゴでも和平調停に成功している。高い人望を物語るものであり、彼の政治力、外交力には並外れたものがある。

そのコンパオレ大統領が、私の前に立っている。2月12日、私は大統領府の玄関サロンで、信任状捧呈に臨んでいる。大統領に正対した私は、高らかに口上を述べて信任状を手渡す。大統領は、私を後ろの客席に招いた。
「今年は、日本とブルキナファソの友好関係において、大きな画期となりました。日本は、本年1月1日に、貴国に日本大使館を開設しました。」
私は話を切り出す。アフリカにもっと大使館を設置して、アフリカ外交を強化しよう、というわが国の方針である。昨年には、マリとマラウイが開館した。ブルキナファソは東京に大使館を開いていたこともあり、今年の開館に選ばれた。来年は、ベナンとルワンダの開館が予定されている。ワガドゥグに日本大使館ができたので、両国の連絡は格段に容易かつ緊密になる。

緊張する私に対して、コンパオレ大統領は「やあ、よく来られた、よく来られた」と、かなりくだけた調子で応答してくれる。コンパオレ大統領は、日本が1993年以来5年ごとに開催しているアフリカ開発首脳会議(TICAD)に、第一回から全て参加してくれている唯一の国家元首である。それだけ、日本のことをよく思ってくれている。昨年はブルキナファソで活動する青年海外協力隊員の全員を、大統領府に呼んでくれた。隊員たちが応接室で謁見を終えた後、隣の控え室に出たら、なんとパーティーが用意してあり、大統領が夫妻で登場した。大統領は、隊員たち一人一人に親しく声を掛け、一緒に写真に収まった。実に楽しく、また名誉なことであった。その日の感激は、隊員たちの間で今も語られている。

そうした大統領の配慮に、私は感謝の言葉を伝える。大統領もその日のパーティーのことを思い出したのか、楽しそうに答える。
「1989年にはじめて訪日したときに、協力隊員を派遣してほしいと、私自身で日本政府にお願いしたのです。それが実現して歴史を重ね、今やわが国の各地で活躍してくれている。昨年は、第4回TICAD出席のために横浜を訪問する前に、ぜひ隊員たちの激励会をしようと思いたったのです。」

私は、ブルキナファソが、内陸国や厳しい自然環境といった不利な条件のなかで、国を発展させようとしている努力を高く評価する、と述べる。前日に訪問した農園で、農業専門家から聞いたばかりの話を、早速持ち出す。
「大統領は営々と国土建設に励んでこられた。聞くところ、その結果、全土に1450ヶ所の貯水ダムが建設され、この水の渇した大地で、穀物や野菜や果樹が生産できるようになっているという。こうした努力に、大いに敬意を表します。」
おお、と同席のゾンゴ首相が声をあげる。日本大使は、大変数字にお強いようだ。そんなにダムが沢山あるのですか、と首相が感心している。

ブルキナファソの人々は、大変勤勉で規律正しい国民であるとお見受けし、大変感銘を受けている、と伝える。日本も敗戦で荒廃した国土の中から、勤勉と規律だけを資産に、先進国に立ち上がっていった。ブルキナファソの国民の勤勉さには、わが国民との共通点を感じる、と述べる。
「わが国はねえ」と大統領。「貧しくて資源がないから、人々は働くしかないのですよ。働くことで、何とか国を保っている。」
ぽつんとそれだけ言った。

貧しいという言葉が、大統領自身の口から出て、私の心にぴりっと走るものがある。大統領、貧しいことが幸せ、ということがあるかもしれないですよ、と私は心の中でつぶやく。資源が豊かな多くのアフリカ諸国が、かえって資源利権に翻弄され、貧富の差が激しくなり、紛争に巻き込まれ、国が荒廃するという経験をしている。ブルキナファソには、それがない。そして貧しいからこそ、国民はよく働く。貧しいということは、質素で質実剛健ということでもある。そして国民に国をつくる意欲があるからこそ、日本の人々も経済協力をしようという気持ちになる。

「日本の人々には感謝しています。日本のおかげで、人々の生活やインフラが、ほうぼうで改善されました。」
そう述べる大統領と、立ち上がってしっかり握手をした。
「ブルキナファソの人々とは、一緒に働けるという思いを強くします。」
私はそう言って、大統領のもとを辞した。

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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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初めて拝見いたしました! (あださち)
2009-02-22 19:59:35
こんにちは! 昨日の朝日新聞の写真付き記事により、このブログのことを知り、早速拝見いたしました! もっとコートジボワール現地のことを知りたいと思ってです。なかなか情報源が少ない中、貴重なお話、とても役に立ちます!これからも色々現地の話題教えてください!
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