上水道がない村の小学校で、生徒の飲料水をどう確保するか、という話(第一話)と、トイレで現金収入が得られる、という話(第二話)である。
国連児童基金(UNICEF)トーゴ代表部に、どこかUNICEFの仕事の例を見せてほしい、と頼んだら、ロメから西に20キロ、ガーナ国境近くにあるセベ村(Segbe)で、UNICEFが米国国際開発庁(USAID)と共同で手がけた協力案件に案内してくれた。それぞれ、そこで見た、とても知恵に富む村のハイテク技術の話である。なお、第二話のほう、ちょっと尾籠なことにはご容赦を。
▼第一話
上水道が来ていない場所で水、といえば、井戸を掘る。しかし、赤土の大地で井戸水をくんでも、鉄分が多くて赤茶けていたりする。それを浄水して飲料水を得てもいいのだが、セベ小学校の場合は、もっと簡単な方法を取り入れた。天から降る雨を集める、というのである。
トーゴのこの地方に、雨といえば土砂降り。しかし、降らないとなると何週間も降らない。そこで、降水時に雨水を貯める。小学校の校舎の屋根に、樋と導管が施してあり、雨水を貯水槽に導く。貯水槽は、容量17㎥、3ヶ所に設置され、互いに地中の管でつながっている。貯水槽の入り口には、フィルターが仕掛けられているので、濾過されて飲料水となって貯水槽に蓄えられる。
貯水槽からは、3つある教室の各室に配水管が引かれ、蛇口から水が取り出せるようになっている。飲料水だから、子供たちはここからコップで水をくんで、喉を潤す。さらに運動場にある手洗い場にも、甕に水が満たしてあり、子供たちがコップで水をくむ。コップの底には穴があいていて、そこから飛び出す水流で手を洗う。子供たちに手を洗ってみて、と頼むと、おおぜいで実演してくれた。
それぞれのクラスは60人程度。自分の教室の屋根に落ちる雨水で、自分たちの喉の渇きを潤し、手を洗うわけだ。雨水程度の量で足りるのかな、と思って聞いたら、十分すぎるほどあるという。ということは、この地方で雨が降るといえば、それは余程降るのだ。
だから、屋根の雨水を集める知恵は、新しいものではない。近くの診療所でも、60年代に取り付けた装置があった。しかし、壊れたまま放置されていた。屋根の雨水を樋で貯水池に流すだけ。池は汚れやすく、貯水池から水をくみ上げるのも一苦労だった。UNICEFが導入した新装置は、密閉型の貯水槽、水は直ちに濾過されて飲料水になるものである。また床より高い地上に設置してあるので、適度の水圧がかかって使いやすい。
屋根から樋で貯水槽に水を導く
雨水をためる貯水槽
手洗い場、右の甕から水をくむ
手洗い場、水の入ったコップを吊すと、底の穴から水が出る
古くて壊れた貯水装置
▼第二話
セベ村の中に入り、泥壁と藁葺きの小屋が並ぶ敷地を歩く。村人たちは、のんびりと手作業などをしている。鶏も山羊も、そこらを自由に走り回っている。これがそのトイレです、と示されたのは、畳一畳ほどの広さの小さな部屋だけの小屋だ。コンクリートの床の両側に、2ヶ所ほどの窪みがあり、和式トイレに似た便器となっている。それぞれ、小便用の小さな穴と、大便用の大きな穴が、前後に開けられている。大便用の穴には、瓢箪で蓋がしてある。
「これは、大小便を資源として活用するというトイレです。」
UNICEFの担当の人が説明する。
まず、小さい穴に流された小便は、パイプでトイレ脇にあるポリタンクに貯められる。これを適宜、畑に持っていって、野菜の苗が並ぶ畝に流す。小便には窒素分(尿素)が含まれており、野菜の出来が格段に良くなる。最近は、人間の尿に肥料としての価値があるという知識が普及し、小便を集めて売り物にする人々も多いらしい。この村では、自分の畑の農作物に使う。
さて、大便のほうであるが、トイレの下にある貯蔵庫に落ちて溜まっていく。貯蔵庫は密閉してあり、排泄のたびに上から草木灰をかける。それだけで、悪臭がしない。
「トイレの悪臭は、小便と大便とを一緒に混ぜ、空気に触れさせるから発生するのです。大小便を分離するこのトイレでは、匂いは出ません。」
担当の人のこの説明に、化学式の裏付けは今ひとつないのであるが、暑い気候であるにもかかわらず、ほんとうに全く臭いがしない。
貯蔵庫の中で、大便は生化学的変化、発酵というのか、そういう変化を起こして肥料に変貌する。半年に一度、トイレの小屋の後ろ側の封を解いて、できあがった肥料を取り出す。小屋にトイレの便器が2つ設えてあるのは、片方ずつ使って、もう片方を発酵のために休ませるためだ。さて取り出してみると、大便の形も色もなく、真っ黒い土のような肥料になっているという。そしてこれが、たいへんいい値段で売れる。
大小便は有用な資源である、という話は、以前にインドでも聞いた。デリーにある「トイレ博物館」では、世界のトイレの収集品を展示しているだけでなく、人糞からメタンガスを取り出す装置の研究や、肥料を製造する研究をしている。この博物館を拠点とする「スラバ・インターナショナル」というNGOは、新方式の有料公共トイレを全国各地に設置して、衛生の重要性を唱道するほか、研究の成果を生かして、そこから発生するガスを、地域住民の煮炊きのために提供している。
どちらかといえば厄介物だった糞尿が、資源として活用され、現金収入になる。今はこのトイレが、この村の周辺地区だけで、40ヶ所も導入されているという。日本ではまずお目にかかれない、生活の知恵である。
参考:デリーの「トイレ博物館」
一番左の器には草木灰
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