またお米の話である。
昨年(2008年)1月、日本政府は、西アフリカの紛争関連地域における被災民や貧困層の人々を支援するため、緊急食料支援を決めた。昨年5月と7月にそれぞれ行われた「アフリカ開発首脳会議(TICAD Ⅳ)」とG8北海道洞爺湖サミットを前にして、アフリカの平和と社会の問題のために、具体的な日本の取り組みとして決められた一連の施策の一つである。
それで、その緊急食料支援の物資が、コートジボワールにも届いた。中身は、米が2950トン。金額にして約300万ドルである。これを、世界食糧計画(WFP)という国際機関を通じて、これからコートジボワールの各地に配る。先日(1月8日)、港から届いたお米を、日本政府を代表して、私がコートジボワール政府に引き渡す儀式があった。
紛争の間故郷を追われた人たちが、平和になってやっと元の家に帰る。でも生活の基盤は破壊され、畑も荒れ放題で農作もすぐには回復せず、生活に困っている。また、最近の食料価格の高騰により、貧困層の人々が食糧難に陥っている。そこでWFPにより、そうした人々を対象とした米の配給をする。日本の人道援助として、目に見える支援である。また、先日紹介した学校給食の組合にも配ってもらい、日本のお米の支援を宣伝する。
空港近くの工業地帯にある大きな倉庫に、式典の会場が用意されていた。見上げるばかりに米袋が積んである。一つ一つの米袋には、WFPのロゴと、日の丸が印刷してある。コートジボワール側の代表は、ボアン=ブアブレ開発相。彼は、内閣で首相の次に格付けされる大臣であり、バグボ大統領の右腕。それだけでも十分重要なのだが、日本にとても好意的だ。特に昨年5月のTICADⅣには、コートジボワールの代表団長で横浜を訪れた。その時大変に歓迎を受けたといって、以来何かにつけ、日本、日本と言ってくれる大事な大臣である。
促されて、私は演壇に立つ。日本は米の国だ、日本人は米を食べる。私もコートジボワールに来て、大使館近くの食堂で「ぶっかけ飯(riz-sauce)」を食べるのが楽しみだ、と言うと喝采を受ける。
「ところが、コートジボワールの人々は、ますます米を食べるようになっているために、国際的な食料価格高騰で困っている。なぜならコートジボワールの米は、殆どが輸入米だからだ。本日の日本の協力は、困っている人々にお米を配給するというものであるが、本当はコートジボワールの米の生産を高めなければならない。」
そう述べて、私はボアン=ブアブレ開発相の前で、持論を展開する。
「稲作を改良して、米の国内生産を高めることは、第一に、食料輸入を減らすことにつながる。第二に、貧困撲滅につながる。なぜなら稲作は、湿地という不良耕地で行われる、主に弱小農民の農業であり、稲作の生産力の向上は、貧困層の収入を高めることになるからだ。稲作を柱とする開発は、大臣にお越し頂いたTICADⅣでも、明確に確認された戦略である。私は、この戦略にボアン=ブアブレ開発大臣のご賛同を頂けると思う。」
続いて、ボアン=ブアブレ開発相の番である。今、日本大使がひとつの提案をしたので、私は原稿なしで考えを述べたい、と演説を始めた。今回の日本の協力への謝辞を述べた後、次のように続ける。
「日本は常に、コートジボワールとの連帯を維持してくれている。日本のアフリカへの協力は、単なる口先だけではない。日本の協力は、いつも具体的な事業を伴ったものである。私は、それを横浜で見てきた。大使が述べた、稲作の改良が重要ということは、まさに私も考えているところだ。マリの例を挙げよう。マリは低地の稲作改良に取り組んだ。そして、ほんの数年のうちに、生産高を70万トンから160万トンに増加した。マリに出来るなら、我々にも出来るだろう。」
ボアン=ブアブレ開発相は、自ら陣頭指揮を執って書き上げた「貧困削減計画」の文書にふれつつ、こう述べる。
「貧困削減は、生産技術の導入によって達成されなければならない。今や携帯電話の時代である。携帯電話が普及し、インターネットで世界の情報が伝えられる。その時代に、コートジボワールの農村では、携帯電話をポケットに入れながら、未だにマシェット(注:大型の鉈)で農作業をしている。農村を豊かにするために、まず農業を近代化しなければならない。」
お米の袋の前で、記念撮影をして引渡し式典が終わった。引き続き簡単な軽食の席で、私はボアン=ブアブレ開発相に、今日演説で述べたことは本気だ、稲作の生産力向上に自分として取り組んでみたいと考えるのだ、と述べる。開発相は、それは是非お願いしたい、と言いながら、私に囁いた。
「ほんとうを言うと、難しい問題がある。農村で農業生産を上げても、道路がぼろぼろなので、結局売りに出せない。商品として出せないものを、人々は増産しようとは考えない。農村開発には、地方の道路整備が決定的だ。道路建設に、日本からの協力を得られないだろうか。」
道路の重要性は、私も農村を視察して同じく感じたところだ、開発相はさすがによく研究をしている。同時に、やはり日本には、より大きな協力案件への期待感を持っていることを、しっかり念押しされてしまったようだ。
WFPの倉庫
積み上げられた米
日本からのお米
ボアン=ブアブレ開発相
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