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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

学校給食は明朗会計

2008-12-29 | Weblog

平屋建ての簡単な教室が、広場に10部屋ばかり並んでいる。アンデ村の小学校である。小学校の裏側に、学校給食の食堂がある。この建物は、給食事業の援助金で建てられたものだ。といっても、これもコンクリートの土台に屋根が付けられただけ、壁のない簡単なつくりである。隣接して、台所と倉庫が建てられている。

最初に、台所を見学した。この学校給食をとりまとめている女性組合長が、私を案内してくれる。裏手に5つほど、土で築いたかまどが設えてある。ここで煮炊きをする。6本ほど薪が並べてある。その責任者の女性が私に説明する。
「6本というのが、私たちの誇りなのです。つまり、たった6本の薪で、一つの鍋を炊きます。前は、吊るしたり、3個の石で支えたりした鍋を、下から火で炙っていました。これだと、薪が30本くらい要ったのです。かまどにしたら、驚いたことにたった6本で、鍋が煮えました。それで、全てかまどに変えました。学校給食が、村の付近の森を破壊してはいけませんからね。」

倉庫では、袋に入ったお米その他の穀物類が積んである。横の黒板に、何やらたくさん数字が書き込んであって、これはどれだけ入荷して、どれだけ使ったかの記載である。在庫をきちんと管理しているので、誰かがこっそり穀物類を盗み出しても、すぐ分かる。隣の事務所から、ノートが持ち出されてきた。一つは、組合の収支記録である。何をどれだけ生産し、どれだけ消費したか。毎日記録していき、月末にこれを取り纏める。月に一度、教育省から検査に来る。ノートを調べて、問題が無ければ検査官のサインと、認定印が押される。この記帳と認定を、全国5046ヶ所の学校給食場でやっているという。すべてが明朗会計。

もう一つのノートが、児童の食事記録である。この食堂で昼食を食べる児童の名前が、ずらりと並んでいる。そして一人一人の子供が食事をしたかどうか、日付ごとに印がつけてある。ロアン局長が話す。
「これは貴重な記録です。過去数年にわたって、どの子供がどれだけ食べたか、月に何日給食を食べたのか、つまり何日学校に来たのか、すべてデータとして残っています。この記録と、学校の成績の記録を付き合わせると、給食と学業の相関関係が分かります。子供が給食をきちんと食べ始めると、成績もそれにつれて向上します。」
コートジボワールに来て、これほど綿密に記録や数字を付けて管理しているのは、はじめて見た。しかも、こんな辺鄙な村の中でである。

食堂に行くと、もう食事を待つ子供たちで、ぎっしりだった。12人がけの長椅子と長机が、20組並べてある。1回の昼食で2回転するので、毎日約500人ほどの児童が、ここで食事を取ることになる。子供たちは、まず建物の外にある手洗い所で、手を洗わなければならない。衛生と清潔の習慣を、給食を通じて学ぶのだ。その後、一列に並んで食堂にはいる。長机には、金物のお皿とコップ、そしてフォークとナイフが並べてある。児童たちは、日本でいえば、小学校低学年くらい。みんな、おしゃべりを全くしないで、食事を待っている。私が来ているので、緊張しているのか、と思ったら違う。壁に「静かにしましょう。騒いではいけません」と標語が掲げてある。食堂ではおしゃべりをしない。それがここの躾なのだ、という。

私は、子供たちと並んで座る。担当の婦人が、食事を鍋に入れて運んできた。今日のメニューは、マニョク芋でつくったお餅に、油椰子の実のソースで、魚の燻製を煮たものをかけて食べるもの。少し透明感があって弾力のあるお餅は、プラカリ(placali)といって、地元の主食なのだそうだ。子供のお皿に、一つ一つプラカリが乗せられ、魚がソースと一緒に添えられる。一つの机12人分の食事が準備できると、皆で一緒に「いただきます」。中には、プラカリが苦手な子がいて、その子には白い米飯が出てきた。橙色のソースはとてもおいしい。魚の燻製は、身欠きニシンのようで、とても美味である。結構辛味がついていて、大人の味だ。こちらの子供たちは、この味に馴れているらしく、こんな大人の味でも、もりもり食べている。

子供たちは、プラカリを食べながら、大きな丸い目を私から離さない。肌の色も顔かたちも違う、背広を来た変なおじさんが、給食を食べているのである。私は、隣に座っている小さな男の子に話し掛ける。「おいしいかい。」男の子は、何も答えてくれない。向かいに座っている別の男の子に、「学校は楽しいかい。」この子も、水を注いだコップに顔を伏せて、答えてくれない。何だ、皆照れ屋だなあ。いや、そうではない。ここは食堂だから、おしゃべりしてはいけないのだ。躾が徹底している。

「子供の親からは、ちゃんと給食代をとるのです。一人一食25フラン(5円)です。小額でも給食代を払えばこそ、親たちは、学校給食の運営に期待と関心を寄せるようになります。」
なるほど、自分でお金を払えばこそ、自分たちの給食組合だという意識が生まれる。タダでもらった本は、まず読まないというのと同じだ。

その後引き続いて行われた歓迎会。日本の協力への謝辞をたくさん頂いた後、私は演説の締めくくりでこう述べた。
「今日は、とてもおいしい給食を頂きました。ここでは給食代を払わなければいけないと聞いたので、私も給食代を払っていきます。」
そして、封筒に入れた心づけを、女性組合長に渡した。彼女は、受け取るやいなや封筒を開けて、1万、2万、と皆の前で数える。
「大使から3万フランを頂戴しました。ありがとうございました。」
拍手が起こる。ここでは、あくまでも明朗会計なのであった。

 学校給食の食堂

 食堂横の手洗い場

 六本木の竈

 食糧倉庫~~日本からの支援食料も届いている。

 几帳面に記録が付けてある。

 一人一人の子供の食事記録

 今日の献立~~プラカリに椰子の実ソース

 子供たちの昼食風景

 子供たちの昼食風景

 子供たちと学校

 子供たちと学校

 先生と子供たち


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