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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

お持帰りの日の丸

2008-12-08 | Weblog
コートジボワールには、新聞が沢山ある。そして一つ一つの新聞が、いろいろな政党や政治勢力の意見を代弁している。記事の内容は新聞ごとに偏っていて、だから新聞どうしで喧喧囂囂の議論を戦わせ、互いに競い合っている。それもあって、コートジボワールの新聞は、外交官が大好きである。毎日、どこそこの大使が何々の協力を発表したとか、誰々(たいがいはその新聞が支持する政党の要人)と会談したとか、あるいはインタビュー記事などが載る。それぞれの政党や政治勢力には、外交官を通じて各国と種々緊密な関係があることを誇示したい、という誘因があるかもしれない。

さて今度はその外交官の側の事情はというと、大使というのは、自分の国を売り込むセールスマンでもある。どれだけ自分を新聞に登場させるか。それは、自らの仕事振りの誇示であり、またその国の存在感の誇示でもある。だから、新聞が自分のことを載せてくれることは、大いに歓迎である。たとえば、ある政治家のところに用事があって赴いたとしよう。会談を終えて出てくると、新聞記者が待ち構えていて、マイクを向けて質問してくる。そこで、喜んで答えるのである。見出しが書きやすいように、メッセージを出来るだけ明瞭にしながら。

日頃親しく顔を合わせている大使連中の写真が、日々の新聞に登場するのは愉快ではあるが、実は内心ではお互いに競っている。その競争の断然首位は、何と言ってもフランス大使。彼は、ほぼ毎日のように、どこかの新聞に登場する。あと米国大使、欧州連合(EU)大使といったところが、強豪である。コートジボワールに対しいろいろな経済協力案件を進めている国、その国からのNGOが活躍している国の大使も、よく登場する。イスラエル大使、カナダ大使、中国大使、スペイン大使などは、そういう関係で新聞に載る。それほど経済協力の案件が無く、日本のNGOも来ていない私は、いつも少し口惜しい思いで見ている。

ところが今日に限っては、私が堂々の主役だった。天皇誕生日祝賀レセプションの翌日だ。何と言ってもソロ首相に来てもらったし、スピーチを通じて首相との間に、投票箱の使用をめぐってのやりとりがあった。沢山の新聞が話題として取り上げてくれた。なかでも、政府系の主要紙「友愛朝報(Fraternité Matin)」は、一面に私の顔写真を掲載し、記事には「危機脱出後のコートジボワールについて語ろう」と、私の祝辞の一節を見出しに掲げて、祝辞の内容とソロ首相の反応とを詳細に報じてくれた。

新聞に記事を載せてもらおうと考えるとき、実はちょっとした工夫がいる。まず第一に、記者に何らかの文章を渡すこと。挨拶をしただけでは駄目で、挨拶文の原稿を渡す。記者も人の子だから、楽をしたい。そのまま引き写せばいい文章があるか否かで、記事を書こうという意欲が湧くかどうか、断然違ってくる。第二に、数字や日付を出すこと。新聞記事は文学ではない。どんな新しい話でも、定性的な形容だけでは、読者にニュースを伝えたことにならない。客観的・具体的な話であることが裏付けられるような、定量的な情報が必要なのである。

だから、天皇誕生日の祝賀レセプションに際しても、私は挨拶をしただけでなく、祝辞の原稿を刷って、新聞記者に配った。また、祝辞の内容に、「2万2千個の投票箱」といった数字を盛り込んだ。他にも、わが国の選挙関連支援の協力の総額を入れて、記者の人たちが記事を作りやすいようにした。この総額は、すでに前から発表されているもので、何ら新しい数字ではないのであるが、狙いどおり翌朝の新聞に、あたかも今回明らかにされた金額であるかのように取り上げられた。

ところで、日本の広報といえば、私の祝賀レセプションで、もう一つうまくいったことがある。赴任前、アビジャンに送る食器・台所用品を、築地に買いに行った。そのとき見つけた、日の丸爪楊枝。お子様ランチについているあれである。たくさん買っておいたのであるが、わが公邸料理人が思いついて、これを押し寿司と稲荷寿司の上に、たくさん刺して出した。大好評である。多くのお客さんが、喜んで胸ポケットに刺して帰った。お持帰りの日の丸だ。今ごろ、それぞれの家で、小さく旗めいていることだろう。

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