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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

天皇誕生日祝賀会の祝辞

2008-12-06 | Weblog
天皇誕生日の祝賀レセプションには、コートジボワールの要人、政府関係者、知識人他社会の中枢にいる人々、各国の大使、といったお客さんがやってくる。そういう人々の前で、私は祝辞を述べる。日本からコートジボワールに対してのメッセージとなるわけだから、祝辞の起案には、熟慮を重ねた。

メッセージは、どうあるべきか。まず、コートジボワールは、危機からの脱出の結節点となるべき大統領選挙を、結局延期してしまった。これは残念だ、出来るだけ早く選挙を行うべきだ、ということは言わなければならない。しかし、懸念表明や批判と受け取られてはいけない。そして日本とコートジボワールの関係増進に向けて、前向きなメッセージでなければならない。日本の価値と存在意義が、感じられるような内容にしよう。

鍵となる言葉を2つに絞った。一つは「未来」。大統領選挙の向こうに、希望に満ちた未来がある。現在の難関を早く克服し、大統領選挙を実施するべきだということを、そういう言い方で表現しよう。もう一つは、「いっしょに働こう」。コートジボワールの人たちに、ああするべきだ、こうするべきだ、と言えば僭越になる。でも、日本も働くから、皆さん方も働こう。そういう言い方は角が立たない。

いよいよ迎えた祝賀レセプション当日。天気快晴で、これ以上望むべくもない。お客さんは、続々と到着し、私は玄関で一人一人と握手をして歓迎する。
開場して約1時間。ソロ首相の車列は、打ち合わせ通り午後1時にきっちり到着した。私は首相を門口に迎えて、テントを張った庭の会場に導く。両国国旗を飾った壇の前に立つ。コートジボワール国歌に続いて、君が代の演奏。
私は演台に立って、用意した原稿を手に祝辞を述べる。
「2年半の空席の後、日本大使が戻ってきました。私は、長い歴史をもつ日本とコートジボワールとの友好関係を、再び活性化したいと考えます。」

私は、大変重要な時期に赴任した、と述べる。一つは、大統領選挙を控え、コートジボワールが危機から脱しよう、つまり政治を正常化しようと努力している時期だ。
「今日の日を、大統領選挙後の日として迎えられなかったのは残念でした。しかし、選挙には十分な準備が必要ということも理解します。選挙はまだ実現しないが、政治プロセスは進んでいます。ここにご列席の首相閣下も含め、主要な政治指導者が揃って、選挙を近い将来に行おうと決意していることを歓迎いたします。日本は、選挙のために既に貢献しています。日本の資金で、全投票所用に計2万2千個の投票箱を用意しました。この投票箱たちは、早く自分たちを使用して欲しいと言っています。」
投票箱に、早期に選挙をするべきだ、と代弁させる。笑いと拍手が沸く。

もう一つは、アフリカが発展の兆しを見せている時期だ。5月の横浜でのアフリカ開発首脳会議(TICAD)と、7月の北海道洞爺湖サミットでのアフリカの議論を、紹介する。
「アフリカは、いまや希望と機会の大陸です。日本は、元気のいいアフリカ、という標語で、TICADとG8での議論を主導しました。アフリカには、(経済協力だけでなく)貿易と投資が必要です。いまや、アフリカの成長の世紀にむけて、扉が開かれつつあります。」

そして未来へのメッセージである。
「日本は、常に未来を考える国です。日本は、大統領選挙を心待ちにしています。その一方で、選挙が終われば何が出来るかについては、今からすでに考え始めなければなりません。コートジボワールは、資源と人材の豊かな国であり、西アフリカ全体の、発展の起動力としての地位を取り戻さなければなりません。日本の人々、とりわけ経済人・ビジネスマンも、コートジボワールの復帰を心待ちにしています。日本は、すでに『選挙後』を考えています。」

だから、と私は続ける。
「一緒に働きましょう。危機脱出後のコートジボワールについて語りましょう。平和と繁栄が、コートジボワールの人々とともにあるように。」
ご静聴有り難うございました、と述べると拍手。私は演台を降りる。

首相から一言頂きたい、と演台に導く。ソロ首相は私と握手して、演台に立つ。
「日本への友好と親愛はもちろんのこと、とりわけ協力への感謝を示すため、この祝賀レセプションに参加した。とりわけ選挙への協力、いま日本大使が言われた、投票箱(の協力)には大変感謝している。これらの投票箱は、必ずや早期に使われるだろう。」
笑いと拍手。私の演説内容をうまく受けとっての応答だ。
「我々コートジボワールの責任者が、全員で一致して、選挙に邁進することを決意している。同時に、選挙に正統性を与えることが重要であることも、理解してほしい。選挙の早期実施に全力を尽くしている。だから、国際社会には、楽観主義で臨んで欲しい。」

ソロ首相は、簡潔ながら彼のメッセージを伝えた。私はソロ首相に見せ場を作ったことに満足し、ソロ首相が私の祝辞に美しく呼応するように発言してくれたことに満足した。そして、多くの招待客が来てくれ、用意した日本料理がすっかり無くなるなど、この祝賀会を楽しんでくれたことに満足した。大使として、この上なくいい一日となった。

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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (おフランスかぶれ)
2008-12-06 12:36:04
祝賀会の成功、おめでとうございます。

首相の招待の話の運び方、さすがですね。Bravo!!

でも、ガーナ大使に指摘された視点の違いには感心しました。富裕な先進諸国の見方に浸っていると、気がつくことがむずかしい視点ですよね。

ひとつ付け加えると、それを素直に受け止めて現地理解に役立て、首相の招待や祝賀会のスピーチにも即応用している、柔軟性と対応力にも脱帽です。

「日本は経済大国とはいえ、アジアの国として欧米とは違った視点に発つことができる。」と思っていても、やはり、欧米流の判断基準にはまってしまっているところも多々ある、と気づかされる貴重な助言でした。もっとも、ガーナ大使がどういう心つもりで言われたのかはわかりませんが。

日本は経済大国のひとつですが、欧米人と話をしていると、日本についてやはり西洋のものの見方からしか、一方的に見ていないな、と1アジア人として不満を感じることがあります。似たような不満をアフリカの人々は頻繁に感じているのでしょうね。
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