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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

準備万端整えて

2008-12-05 | Weblog
赴任して以来、最大の懸案だった行事を、無事に終えた。天皇誕生日の祝賀レセプションである。250人近くのお客さんが大使公邸を訪れてくれた。その中には、閣僚クラス7人が含まれる。ソロ首相は、私に約束したとおり、主賓として来てくれた。ソロ首相がいずれの国であれ国祭日のレセプションに来るのは、初めてのことであるという。首相の出席を得ることができたこともあって、わが国の存在感を、十分に示すことが出来たといえるだろう。

レセプションの開催にあたって、まず何よりも優先したのは、安全の確保すなわち警備だ。レセプションを事故無く終えること、これが何より重要だった。そう、私たち外務省の人間には、1996年にペルー大使館の天皇誕生日レセプションで起こった事件が、いまだ鮮烈な危機の記憶を残している。万が一にも、あのような事態を許してはならない。ここは、治安の安定した欧州のような国ではない。紛争を脱したばかりの国、まだ武器を持った連中も社会のどこかに隠れている。つい最近、某大使公邸の襲撃事件もあった。そして、先週起こったインドのムンバイでのテロ事件には戦慄する。悪意ある連中の狼藉を、決して許してはならない。

レセプションといえば通例は夜に行われるところを、今回は昼食時のレセプションでいこう、と決めた。明るい昼間のほうが、テロ攻撃は難しいだろうし、何か起こったとき、お客さんの安全誘導など、対処にあたっての困難が少ない。次に、お客さんの同定確認を出来るだけ確実に行う努力をしよう。招待状を必ず持参してもらい、招待状の無い人は原則お断りする。そして、金属探知機などを駆使して、お客さんが不快に思わない範囲で、荷物検査などを実施しよう。入り口での受付け役、案内役に大きな負担が掛かるが、慎重を期すためには必要な防衛線である。

そして、私はアビジャン統合治安部隊司令部に、事前の挨拶に出掛けた。ここは、軍の治安維持部隊と警察部隊を統合指揮し、アビジャンの治安維持を一手に引き受けている組織である。ビ・ポアン司令官が、大使がじきじきに会いに来た、といって随分歓迎してくれた。表敬挨拶を終えて、司令官執務室から出ると、プレスが待ち構えている。テレビカメラも来ている。

これは願ったり、私は統合治安部隊を褒めちぎる。
「アビジャンに来てみると、東京で聞いていたより、はるかに治安が良いとの印象だ。これは統合治安部隊の活躍の賜物だ。先日の大使公邸襲撃事件では、賊を直ちに排除した。見事な対応を賞賛したい。」
アビジャンの治安回復に大きな努力を払っている、政府への賛辞でもある。果たして、翌日の新聞には写真入りで出た。ビ・ポアン司令官も胸を張っている。これでもし日本大使公邸でのレセプションで何か起きるようなことがあれば、面目丸つぶれになるから、真剣に安全を図ってくれるだろう。

招待するお客さんを厳選したあと、大使館の現地職員の秘書が総出で、招待状と封筒に宛名書きである。500通以上の招待状を仕上げる。それを各省庁などの行き先ごとに仕分けして、現地職員の運転手たちが配達をする。郵便が必ずしも信頼できない事情から、自分たちで配達夫をしなければならない。そして一週間前から、主要な人々へ出欠を確認する作業だ。一人一人のお客さんに決して失礼の無いように、長大なリストをひとつひとつチェックしていく。

しばらくの大使不在のあと、3年ぶりの天皇誕生日レセプションである。コートジボワールの人々には、久々の日本の復帰を印象付けたい。そこは何より、日本料理のおもてなしである。一度に大量に作ることが可能で、食品衛生上も問題が少なく、それで日本の味わいが楽しめる、そうしたメニューとしては何がいいか。結論:焼き鳥、海老てんぷら、押し寿司、稲荷寿司。わが公邸料理人は、2週間前から仕込みの計画を立て、アビジャンでは手に入らない日本食材や日本酒などを、パリから取り寄せた。そして厨房では、2~3日前から、鶏肉を串に刺し、海老の皮をむき、公邸職員総出での下準備が始まった。

大使公邸のサロンの、全てのソファーを片付けて、大広間にする。そして庭では、芝生を綺麗に散髪したうえで、5客のテントを建てた。ここ熱帯の国では、雨が降れば雨避けに、晴れれば日射よけに、テントはかならず必要だ。音響設備も整えた。何百台という数の車がやってくる。私たちの言う「車回し」、つまりお客さんを車から下車させ、辞して帰っていくお客さんに車を呼び出す、そうした手順が大変である。これも役割分担を予めよく決めておく。

そのように準備を万端整えて、いよいよ当日を迎えた。

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