先日(11月26日)にソロ首相の説明会があった翌日、ある夕食会の席で、ガーナ大使と隣同士になった。ガーナ大使は私に、説明会をどう思ったか、と聞く。私は、選挙日程の延期は全ての政治指導者が合意した話だから、尊重しなければならないという主張は理解するけれど、こういう調子でいつまでも選挙をしないで、コートジボワールが宙ぶらりんのままでいいのだろうか、選挙ができない言い訳を考えるよりも、早く大統領選挙を済ませて、本格的な政権を作って本格的な経済再建にとりかかろうと考えないのだろうか、そういう意欲が余り感じられない、といった答えを返す。
「やはり日本も、欧米の大使たちと同じように考えるのか。」
とガーナ大使が返答する。
ソロ首相の説明会は、あのあとマンベ選挙管理委員長からの現状説明を経て、大使連中との間での質疑応答に移った。幾人かの大使が、私と消化不良を共有するような質問をした。政治指導者の合意は尊重したいが、コートジボワール国民の失望がだんだん大きくなって、政治不安をもたらすのではないか。選挙の延期にあたって何らの新しい日程が示されないのは残念、直ぐには選挙が行われそうにないという見方が定着するのはよくないので、新しい日程の目処なりとも示すべきではないか。選挙の実施の前提となる有権者登録が済む必要があるというのは分かるが、その有権者登録はきちんと進展しているのか。質問のかたちながら、問題点を指摘して、国際社会側の懸念や不満を伝えている。
「コートジボワールの人は、危機の時代から比べると、今はずいぶん良くなったと思っている。南北分裂は解消したし、戦争がどっちの風向きになるか一喜一憂しないでよくなったし、青年団が街の中で乱暴狼藉を繰り返すこともなくなった。ソロ首相は、反乱軍の首謀者だった。それが今では、内閣の総責任者で、皆が彼の足元にやってくる。彼は今の状態で、十分満足しているのではないか。そして、ある意味では選挙そのものよりも大事な、有権者登録が始まった。なかなかスムーズにはいかないけれど、ともかくも有権者登録が進んでいる。これは国民にとって、大きな進展だ。そういうところ、国民は実は安堵しているというところが、欧米諸国の人々には分からない。」
ガーナ大使は、選挙を早くしなければならないと思っているのは、いまや国際社会、それも資金提供をしている諸国だけだ、と言う。
「それと、バグボ大統領。彼にだけは、選挙を急ぐ理由がある、と言えるかもしれない。有権者登録が進めば進むほど、彼の反対勢力の支持層が、登録者数を増やしていくからだ。そうなる前に、選挙を行って自分の再選を確保したいと考えてきただろう。反対に、それと同じ理由で、ベディエ元大統領、ウアタラ元首相の2大対立候補は、ゆっくり選挙準備を進めるほうが得だ、と思っているわけだ。国民も選挙を何が何でもとは思っていないし、大統領候補たちも急いではいない。こういうときに、選挙を早く実現しようという意欲は出てこないだろう。」
ガーナ大使の、冷静な観察である。
「大使たちの質問の中で、一番光ったのがガボン大使の発言だね。」
とガーナ大使が言うので、私はびっくりする。
ガボン大使は、たしか最後のほうでマイクを取った。外交団の中でも長老格のガボン大使は、質問というよりは、ソロ首相の努力をたたえ、外交団への配慮を賞賛し、コートジボワールの発展を祈念するといった、いわば外交辞令であったと記憶している。とても、光った内容だったとは思えない。ソロ首相の回答も、大使の発言への謝辞に過ぎず、首相から意味のある発言を引き出した質問だったというわけではない。
「ガボン大使の言ったことを、覚えているかい。」
いや、ほとんど覚えていない。
「彼は、アフリカの名誉ということを言った。コートジボワールの政治指導者が、自分たちのことを自分たちで決めた。それを貫いていこうとすることは、まさにアフリカの名誉だ、素晴らしいことだ、コートジボワールの政治指導者たちを祝したいと言ったのだ。この発言には、おそらく全てのアフリカ諸国の大使たちは、共感を覚えただろう。国際社会がどう言ってこようが、どういう圧力をかけてこようが、自分たちが決めたことで進める。それがどれだけアフリカ諸国にとって歴史的に難しいことだったか。それを身体に染みて感じているアフリカ諸国の人々は、コートジボワールの毅然とした態度を賞賛するのだ。」
ガーナ大使の指摘は、全く思いもよらないものだった。ガボン大使の発言は、私のみならず、欧米諸国の大使の琴線には、全く触れていないだろう。しかし、国際社会が懸念していると言うと、アフリカではそのように受け取られるのだ。私は、アフリカの人々の見方と感性が、私たちとは全く違うところに存在することを感じた。
「やはり日本も、欧米の大使たちと同じように考えるのか。」
とガーナ大使が返答する。
ソロ首相の説明会は、あのあとマンベ選挙管理委員長からの現状説明を経て、大使連中との間での質疑応答に移った。幾人かの大使が、私と消化不良を共有するような質問をした。政治指導者の合意は尊重したいが、コートジボワール国民の失望がだんだん大きくなって、政治不安をもたらすのではないか。選挙の延期にあたって何らの新しい日程が示されないのは残念、直ぐには選挙が行われそうにないという見方が定着するのはよくないので、新しい日程の目処なりとも示すべきではないか。選挙の実施の前提となる有権者登録が済む必要があるというのは分かるが、その有権者登録はきちんと進展しているのか。質問のかたちながら、問題点を指摘して、国際社会側の懸念や不満を伝えている。
「コートジボワールの人は、危機の時代から比べると、今はずいぶん良くなったと思っている。南北分裂は解消したし、戦争がどっちの風向きになるか一喜一憂しないでよくなったし、青年団が街の中で乱暴狼藉を繰り返すこともなくなった。ソロ首相は、反乱軍の首謀者だった。それが今では、内閣の総責任者で、皆が彼の足元にやってくる。彼は今の状態で、十分満足しているのではないか。そして、ある意味では選挙そのものよりも大事な、有権者登録が始まった。なかなかスムーズにはいかないけれど、ともかくも有権者登録が進んでいる。これは国民にとって、大きな進展だ。そういうところ、国民は実は安堵しているというところが、欧米諸国の人々には分からない。」
ガーナ大使は、選挙を早くしなければならないと思っているのは、いまや国際社会、それも資金提供をしている諸国だけだ、と言う。
「それと、バグボ大統領。彼にだけは、選挙を急ぐ理由がある、と言えるかもしれない。有権者登録が進めば進むほど、彼の反対勢力の支持層が、登録者数を増やしていくからだ。そうなる前に、選挙を行って自分の再選を確保したいと考えてきただろう。反対に、それと同じ理由で、ベディエ元大統領、ウアタラ元首相の2大対立候補は、ゆっくり選挙準備を進めるほうが得だ、と思っているわけだ。国民も選挙を何が何でもとは思っていないし、大統領候補たちも急いではいない。こういうときに、選挙を早く実現しようという意欲は出てこないだろう。」
ガーナ大使の、冷静な観察である。
「大使たちの質問の中で、一番光ったのがガボン大使の発言だね。」
とガーナ大使が言うので、私はびっくりする。
ガボン大使は、たしか最後のほうでマイクを取った。外交団の中でも長老格のガボン大使は、質問というよりは、ソロ首相の努力をたたえ、外交団への配慮を賞賛し、コートジボワールの発展を祈念するといった、いわば外交辞令であったと記憶している。とても、光った内容だったとは思えない。ソロ首相の回答も、大使の発言への謝辞に過ぎず、首相から意味のある発言を引き出した質問だったというわけではない。
「ガボン大使の言ったことを、覚えているかい。」
いや、ほとんど覚えていない。
「彼は、アフリカの名誉ということを言った。コートジボワールの政治指導者が、自分たちのことを自分たちで決めた。それを貫いていこうとすることは、まさにアフリカの名誉だ、素晴らしいことだ、コートジボワールの政治指導者たちを祝したいと言ったのだ。この発言には、おそらく全てのアフリカ諸国の大使たちは、共感を覚えただろう。国際社会がどう言ってこようが、どういう圧力をかけてこようが、自分たちが決めたことで進める。それがどれだけアフリカ諸国にとって歴史的に難しいことだったか。それを身体に染みて感じているアフリカ諸国の人々は、コートジボワールの毅然とした態度を賞賛するのだ。」
ガーナ大使の指摘は、全く思いもよらないものだった。ガボン大使の発言は、私のみならず、欧米諸国の大使の琴線には、全く触れていないだろう。しかし、国際社会が懸念していると言うと、アフリカではそのように受け取られるのだ。私は、アフリカの人々の見方と感性が、私たちとは全く違うところに存在することを感じた。
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