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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

三菱商事と児童図書館

2008-12-02 | Weblog
子供たちが飛び出してくる。一人は本を読んでいる。その子を皆が囲む。
「おい、何やってんの。」「本読んでるんだよ。」
本を読んで、何のいいことがあるのだ。そりゃ、世界のことが分かる。例えば各国の首都が分かる。
「じゃ、日本の首都は。」「東京。」
いったい、どこに行ったら本が読めるのだ。児童図書館だよ。ええ嘘だい、あそこはぼろぼろになって壊れているはず。
「それが、今はきれいになった。日本の会社が、修復してくれた。」
ええっ、それはどこの会社なの。
「三菱商事」

先月27日、児童図書館引渡し式で、地元の小学生たちが演じてくれた寸劇である。
三菱商事は、世界の各地で社会貢献事業を行っている。過去、アフリカでは、セネガル(産婦人科病院増改築)、モロッコ(救急車寄贈)、ケニア(植樹祭)など。今回はその一つとして、ここコートジボワールではアビジャンの国立児童図書館の修復事業が取り上げられた。

国内の「危機」もあって、図書館はさんざんな状態になって閉鎖され、そのまま朽ちたようになっていた。子供たちが本に触れる、重要な場所と機会が失われた。三菱商事の駐在員が、この話を聞いて現地を視察、修復事業を計画実施した。地元業者により、内装工事を行い、冷房設備を整え、コンピューターを入れ、フランス語の児童書を揃え、そして今日、引渡し式を迎えている。

東京本社から出張の石井アフリカ担当顧問が、演壇に立つ。三菱商事のアフリカ大陸での活動の4本柱は、政府開発援助、貿易、天然資源開発投資、そして社会福祉援助である、との説明。その社会福祉援助として、今回の修復事業がある。石井顧問は述べる。
「今後、教育・保健・文化・芸術といった分野を重点的に、コートジボワールの国民の皆様のために、社会的支援活動をよりいっそう発展させていく所存です。三菱商事は、緊急なニーズに迅速に応え、タイムリーな社会的支援活動を実施することによって、皆様の幸福に貢献するつもりです。」

さて、日本大使からお言葉を、と促される。
「日本人は、自分の利益だけで行動するのを恥ずかしく思います。相手も一緒に幸せになってこそ、社会的に正しい行動なのです。日本の企業は、目先の利益を求めない。ビジネスの相手と末永く付き合うことが出来てこそ、成功したビジネスといえます。三菱商事は、そういう考えにたった日本企業の筆頭であります。コートジボワールの人々と、ともに発展し繁栄することを目指しています。私は、今回のような協力事業を実現した三菱商事を、誇りに思います。」
私は、日本とのビジネスを考えるなら、まず三菱商事の扉を叩くべきである、と付け加える。

最後に、主賓で招かれているコモエ文化相が演説をする。
「教育は平和の礎です。無知ゆえに、どれだけ多くの人々が、貧困から抜け出せないでいることか。無知ゆえに、どれだけ多くの青年が、戦争に走ってしまうか。その無知を克服するために、本があります。本は、貧困や戦争の悲惨と戦うための、最大の道具なのです。」
そして、この国立児童図書館がひどい状態にあることは、かねてから皆の大きな気がかりだった。首相も気にかけていた。それが今日、三菱商事と日本のおかげで、このように修復された、これで首相にも堂々と報告できる、とコモエ文化相は述べる。深く感謝したい、そう何度も述べる。

テープカットの後、児童図書館が子供たちに開放された。フロアに並んだ本棚に、児童書が並ぶ。手あかの付いた本も混じり、古くから子供たちに読まれてきたことが分かる。日本に関する本も、一冊だけあった。手に取ると、1982年購入となっている。もう四半世紀以上、テープで修繕されながら子供たちに読み続けられた幸せな本である。添付された貸し出し記録には、古くからの日付がぎっしりと並んでいる。

子供が寝転がって本を読めるように、マットを敷いた読書スペースがある。小さい子供が何人も本を広げている。アジマン国立図書館館長が、説明をしながら私に言う。
「私たちアビジャン市民の中には、この児童図書館で本を読んで育った人がたくさんいるのですよ。そういう大人たちは、皆、思い出の児童図書館がひどい状態になっていて、子供たちが利用できなくなっていることに本当に心を痛めていたのです。日本の人々は本当にいいことをしてくれました。今のアビジャン市民も、これからアビジャン市民に成長する子供たちも、皆このことを忘れません。」

たしかにこれから長い年月、幾代もの世代にわたって、この児童図書館の世話になったという人々が出てくるのであろう。三菱商事は、子供たちに未来をプレゼントしたのだ。

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