goo blog サービス終了のお知らせ 

コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

決定責任と実施責任

2008-12-01 | Weblog
11月30日が過ぎてしまった。本当であれば、この日は大統領選挙の投票日。この日を境に、コートジボワールの政治は正常化されるはずであった。新しく選ばれることになる大統領とともに、日本との関係増進を図っていく、というのが私の青写真であった。大統領選挙が滞りなく実施されてこそ、日本の経済協力も動かせるし、日本のビジネス界にも声をかけてゆける。しかし、この日程表が、少なくとも数ヶ月は先延ばしになってしまった。

ソロ首相がこの日を前にして、26日、外交団つまりここの大使たちを一堂に集めて、説明会を行った。大統領府の大ホールに、関係閣僚を全員集め、また独立選挙管理委員会のマンベ委員長の同席も得て、ソロ首相は熱弁を振るう。
「先日(10日)のワガドゥグ合意実施協議で、すべての政治勢力の指導者が、大統領選挙を進めていこうと、明確に再確認した。大統領選挙を行うにあたって、政治的な障害は無いのだ。コートジボワールは、危機から抜け出すのだという強い決意を持っている。そしてその決意は、他の誰でもない、自分たち自身のための決意である。2007年のワガドゥグ合意は、コートジボワールが自分自身で作り上げた合意なのだ。
コートジボワールの政治指導者たちが、様々な問題を、感情対立を、これまでの衝突を乗り越えて、平和に向かって一丸となると決意している。我々の決意は、何より自由で自発的なものだ。だから、(選挙を延期するという)ワガドゥグ合意実施協議での結論を、皆さんにも尊重して欲しい。」

ソロ首相が言いたいのは、コートジボワールのことはコートジボワールに任せてくれ、ということだ。選挙の延期は、コートジボワールの主要な責任者が、誰一人反対することなく決めたことである。たしかに、外の人間があれこれ異議を唱えることは控えるべきだろう。

「選挙を何としても行うという決意は固い。同時にその選挙は、真に平和に繋がるものとして行われなければならない。選挙結果によって、再びコートジボワールが内戦に導かれるようなかたちで行われてはならない。だから、選挙の透明性を確保することが重要だ。皆が納得する雰囲気の中で、選挙が行われることが重要だ。
そのことのほうが、選挙の日程を決めることよりも大事である。だから、政治指導者たちは、独立選挙委員会に対して、まず有権者登録をきちんと済ませ、その見通しを踏まえた上で選挙日程を示すように指示した。有権者登録が完了しないまま、選挙に向かうことは出来ない。
この選挙は、間違った選挙だったと言われる余地を作ってはならない。そういう条件を満たした上で選挙をすればこそ、コートジボワールの平和は、永続的なものになる。」

大事なのは、コートジボワールの平和であって、選挙そのものではないだろう、というソロ首相の主張だ。そして、平和に選挙が行われるためには、有権者登録をきちんと仕上げなければならない。有権者登録が完了していない以上、選挙日程は先延ばしにするほかないだろう。たしかにその点については一理ある。

しかし、11月30日という日取りは、ずっと以前に同じ政治指導者たちによって確信をもって決められ、それ以来高らかに掲げられてきたものである。国際社会はともかくとしても、コートジボワールの国民は、この日を希望をもちつつ待ってきたのではないか。それを、準備が間に合わないから仕方ないじゃないか、と簡単に反故にできるものなのだろうか。日本だったら、「責任者出て来い」という声が上がるだろうな、と思う。ここでは、そういう声を上げることを、誰も思いつかない。

「だから、国際社会は楽観主義に立てばいい。コートジボワールは、この危機を脱することができる、という楽観主義だ。民主的な選挙を実現するための、政治的な障害はもはや無いのだ。」
コートジボワールがもう内戦には戻らない、ということについては楽観主義に立てるだろう。しかし、先のことをきちんと決め、決めた以上は実現していくという気持ちがあるのか、ということについて、私は悲観主義だ。

「そしてコートジボワールが危機から脱するためには、対外債務の軽減が必要である。選挙の実施や武装解除に資金が必要なのに、まず対外債務を払うほうが先だと言われるのは、大変苦しい。コートジボワールがしっかりした開発を進めていくとの見通しは、対外債務の帳消しがあってこそ、実現していくのである。だから、国際社会には、対外債務の帳消しを求めたい。」
やはり首相は、国際社会に資金面での協力を訴えてきた。自分たちが選挙を決定して動かすのだ、国際社会はそれを尊重するべきだ、と言う。では、自分で全ておやりなさい、と言おうとすると、いや国際社会が支援してくれないと平和は実現しない、と言う。コートジボワールの平和について、私が着任当初からどうにも消化不良を感じるのは、このあたりの、決定の責任と実施の責任の関係である。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。