『スキップとローファー』の脱炭素問題

 古くさい考え方ですが、マンガは自由になるお金の少ないのび太くんのような子どもや大人の味方だといいなと思っています。なので、極論もいいトコですが、うなるほどお金持ってて頭良くて自信満々な人はマンガなんか読むの?と思ったりするのですが、それはさておき先日ホリエモンさんが『スキップとローファー』を褒めてくださったそうです。どうもありがとうございます。
 『スキップとローファー』、最高に素敵な作品です。高校時代の悩みって、高校を卒業して大学に入ったり社会に出たりすると「あの頃は小さなことで悩んでたなー」って大体皆そう思うじゃないですか。でもそれは記憶の改竄じゃないかと思うんです。学校は逃げ場のない場所です。また10代までの若者にとって1年は途方もなく長い時間です。逃げ場のない空間で3年間という途轍もなく長い時間を同じ場所に閉じ込められた人とともに暮らす、そこで生じる悩みは誰にとっても強烈だったはずです。だからこそ自己防衛システムが働いて、強烈だった悩みが卒業後「本当は大したことなかった」と記憶の上書きが開始されて薄まっていくのです。ほとんどすべての人がそうだと思うのですが、だからこそ記憶の改竄を潜り抜けられたひと握りの人達が描きだす高校時代のビビッドな情景は、読む者の心に高校時代のにおいや眩しさや痛みといった肉体的な感覚ごと記憶を鮮やかに蘇らせてくれます。『スキップとローファー』はそんな奇跡的な作品です。高松美咲さんは高校時代の悩みや感覚を高校生当時そのままに描きだせる稀有な作家です。あ、高松さんは現役高校生ってわけじゃありませんよ? 念のため。
 悩みや問題の解決にはエネルギーが費やされますが、『スキップとローファー』の主人公・美津未ちゃんをはじめとする登場人物達は、他者への思いやり、即ち善意を燃料にして解決を図ろうとします。この点が実に現代的だし先進的だし、カーボンフリーだなと感じます。ふうっ、ようやく主題に辿り着けました。今回はマンガで使用される新しい燃料問題について考えてみようと思っていたのです。
 マンガでも現実社会でも問題の解決、今っぽく言えばソリューションに際し、使用される燃料、即ちモチベーションは、自己実現欲求がほとんどでした。「こういう自分になりたい」「夢を叶えたい」「優勝したい」「トップになりたい」「素敵な恋人がほしい」「お金持ちになりたい」「敵/ライバルを倒したい」「評価されたい」「出世したい」「海賊王になりたい」どれもすべて突き詰めれば自己実現欲求です。個人でも企業でも国家でも同じです。「ひとに一目置かれるイケてる自分/会社/国になりたい!」という欲望を原動力に、あらゆる事態のソリューションが図られてきたのです。自動車で言えばガソリンやディーゼルといった化石燃料を使うエンジンです。大きなパワーを効率よく生み出せる一方、排気ガスと一緒に温室効果を持つ二酸化炭素を吐き出します。デカいことを成し遂げてくれますが、迷惑な排泄物も生み落としがちです。気づかれにくいところに迷惑を蒙っている被害者を出し、必要以上のダメージを相手に与えてしまいがちなのです。でもそのぶんインパクトもカタルシスも絶大。だからこそ物語世界でも現実社会でも長い間このエンジンが使用され続けてきましたし、今後もなくなることはないでしょう。
 EV(電気自動車)の開発と普及が進むのとちょうど同じタイミングで、温室効果ガスを出さない脱炭素のクリーンエネルギー、即ち善意を使用するマンガが普及してきました。自己実現欲求を燃料にする場合、主目的は当然「自己の欲求実現」になります。これに対し、善意を燃料にする場合は「自己実現」が後回しにされ、他者の目標実現が優先されます。利他的であり、場合によっては自己犠牲を伴います。だからこそ尊いのです。自分のことを後回しにして相手の問題を善意から解決しようと努め、結果的に悩みが解消したらいいなと願う、これが『スキップとローファー』で駆動しているエンジンの基本構造で、素敵さの源です。大恋愛も全国大会も異世界転生も出てきませんが、読むとついつい落涙してしまうその訳です。僕なんか毎月校了の際に52のオッサンの小汚い泣きっ面を編集部で晒しております。アフタヌーン編集部の皆さん、鬱陶しくてゴメン!
 もちろんこれまで善意を燃料にしたマンガ作品がなかったわけではありません。でも、大ヒットには至りませんでした。それが近年、善意を使用した脱炭素のクリーンな作品が大ヒットするようになってきました。『オタクに恋は難しい』『町田くんの世界』などがそうですし、『鬼滅の刃』はその最たる例です。主人公の炭治郎に自己実現したい自身の願望・欲求はありません。妹のため、鬼のいない平穏な世の中の実現のため、そんな善意のみで命懸けです。同じバトル漫画という骨格を持ちながら、『ワンピース』が「海賊王になる」という自己実現欲求を出発点にしている点と好対照と言えます。どちらがいい悪いという話ではありません。連載開始時期の差である20年もの間に、善意を燃料にした作品を大ヒットさせ得るまでに読者のリテラシーが進歩したのです。世界もマンガもリテラシーも、日々ちゃんと進歩し続けている証拠だと思います。
 そして、善意が燃料のクリーンな次世代マンガ『スキップとローファー』が今年4月、ついにアニメ化されます! ぷろたん風に最後締めくくりたいと思います。た〜の〜し〜み〜!!
                                金井 暁

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『スキップとローファー』の脱炭素問題|アフタヌーン編集部
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