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歴史を改ざんしているのは中国共産党 中露首脳会談内容と共同声明を糺す

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
習近平国家主席とプーチン大統領写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 反ファシスト戦勝80周年記念祭典に出席するためモスクワを訪問した習近平国家主席は5月8日、プーチン大統領と会談し共同声明を発表した。その中で日本が第二次世界大戦に関して「歴史改ざんをしている」と非難しているが、歴史を改ざんしているのは中国共産党だ。日中戦争中、毛沢東は国民党軍を率いる蒋介石を打倒するため、日本軍と共謀すべく日本の在外公館に中共スパイを派遣したことは、今では知らない人は少ないのではないだろうか。

 日本帝国主義を打倒したのは中国共産党軍であると主張することこそ、大きな歴史改ざんである。このたび、拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』の英語版がアメリカで出版され、マルコ・ルビオ国務長官に手渡されたばかりだ。

◆中露首脳会談と共同宣言

 5月9日、中国の外交部は中露首脳会談後の共同声明に関して<中華人民共和国とロシア連邦は、中国人民抗日戦争とソ連の偉大なる祖国防衛戦争の勝利および国連創設80周年記念を記念して、中露新時代の戦略的パートナーシップをさらに深化させるための共同声明を発表した>という、とてつもなく長いタイトルで共同声明を掲載している。内容も非常に長いが、「日本の歴史改ざん」を非難する部分を抽出すると、以下のようになる。

 ●中国とソ連は、それぞれアジアと欧州の主戦場として、日本軍国主義、ナチスドイツとその属国による攻撃に抵抗する最前線に立ち、軍国主義とファシズムとの戦いにおける二つの基幹勢力であった。中国とソ連の人民は多大な苦難を経験し、世界平和を回復するために偉大な歴史的貢献をした。

 ●中露両国は、「第二次世界大戦の歴史を改ざんし、中露の第二次世界大戦における歴史的功績を軽視・抹殺し、そのイメージを汚すいかなる試み」も断固として粉砕し、「第二次世界大戦の殉教者の記念施設を冒涜し、破壊する行為」を強く非難する。

 ●中露両国は、「日本政府が、歴史上犯した残虐な犯罪から教訓を得て、靖国神社など歴史問題に関して言動を慎み、かつて世界の人々と日本自身に甚大な被害をもたらした軍国主義との関係を完全に断絶すべきだ」と指摘した。

 ●中露両国は、歴史の真実を共同で守り、アジアの戦場における決定的な出来事が日本の降伏を促し、最終的には世界平和を実現する上で重大な意義を有していたことを忘れないため、引き続きさまざまな形で教育・記念活動を展開し、第二次世界大戦中にナチス・ドイツと日本の軍国主義が犯した犯罪の証拠と史料をさらに探究・研究し、第二次世界大戦の歴史の流れを変えた出来事が起きた場所で、共同で記念活動を展開していく。(以上)

 最後に書いてあるのは、反日教育を中心とした愛国主義教育を中国は今後も推進することを指している(詳細は拙著『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』)。

 また、これは「中露による共同声明」であるため、「中国共産党が日本軍国主義による攻撃に抵抗する最前線に立った」とは書いていない。あくまでも「中国とソ連が」という形で「中国」を主語としているが、外交部のタイトルにあるのは「中華人民共和国」であり、習近平が現在の「中国」を日中戦争当時の「中華民国」と位置づけることは絶対にあり得ないので、この「中国」は「中華人民共和国」のことであり「中国共産党」のことであるのは明らかだろう。

 その証拠に、外交部が発表した中露首脳会談では、プーチンが「中国共産党の強力な指導の下、中国人民は勇敢に戦い、抗日戦争の偉大な勝利を勝ち取り、第二次世界大戦の勝利に重要な貢献を果たした」と言っている。

 いずれにせよ、習近平は何度も「中国共産党こそが抗日戦争の“中流砥柱”(主力、中心的役割)であった」と言い続けているので、中露会談および共同声明で言っていることは、歴史の真相とは真逆だと言える。

 なぜなら、日中戦争において多くの中国人民が犠牲になったことは事実だが、日本軍と戦ったのは主として蒋介石率いる国民党軍であって、決してその蒋介石を何としても倒そうとした毛沢東率いる中国共産党軍ではないからだ。もちろん、共産党軍の一部は日本軍と戦ったが、のちに毛沢東によって、さまざまな形で処罰あるいは粛清を受けている。

 ちなみに台湾側の大陸委員会も9日、中露首脳会談と共同声明に対し強い抗議と非難を表明し、「抗日戦争において、中国共産党は共産党勢力の拡大と強化の機会を利用しただけで、抗日戦争を主導するどころか、抗日戦争に実質的な貢献を一切しなかった」と述べている。この抗議は正しい。

◆毛沢東は日中戦争中、日本軍と共謀して国民党軍を弱体化させようとした

 2015年11月16日のコラム<毛沢東は日本軍と共謀していた――中共スパイ相関図>に書いたように、延安に革命の根拠地を設けた毛沢東は、西安事変を起こして第二次国共合作を実現することに成功した。そうすれば軍服さえ用意できない貧乏な共産党軍は、衣食や武器を与えられるだけでなく、何といっても国民党軍の軍事計画を共有することができる。

 そこで、延安のすぐ近くの重慶に遷都していた中華民国政府(蒋介石政府)から軍事情報を周恩来が得て、それを部下の藩漢年に告げ、藩漢年には上海にいる外務省の出先機関「岩井公館」に潜り込ませた。岩井英一は回想録『回想の上海』(「回想の上海」出版委員会による発行、1983年)の中で、岩井は藩漢年から得た軍事情報に対して多額の謝礼を出し続けたことが書いてある。経費はもちろん外務省の機密費から捻出されている。当時の外務省では「機密費を最も使った男」として非難され、岩井はのちに左遷されたくらい、中共側に注ぎ込んだ日本国民の税金は莫大なものだったことになる。この時代から日本は「中国共産党の成長と発展に貢献してきた」のである。

 岩井が最も印象に残った「驚くべきこと」として「藩漢年が中共との間で“停戦”を申し出てきた事だ」と記している。

 筆者自身は中共側の膨大な資料や台湾に眠っている多くの国民党側の資料とともに、岩井英一の回想録を辿りながら、当時の日本側の軍事資料などとも照らし合わせて、以下のようなスパイ相関図を作成した。もちろんスタンフォード大学のフーバー研究所に日参して、そこにのみある蒋介石直筆の日記も丹念に読み、毛沢東が日本軍とつるんでいることを蒋介石が認識していたことも確認している。

図表:スパイ相関図

筆者作成
筆者作成

 こうして書き上げたのが『毛沢東 日本軍と共謀した男』だった。中華民族を最も裏切っていたのは毛沢東、その人だ。

◆拙著の英語版がアメリカで出版されマルコ・ルビオ国務長官の手に

 このたび、その英語版(Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army)がニューヨークで出版され、出版社からマルコ・ルビオ国務長官に手渡された。筆者自身に渡米してルビオ国務長官に手渡すようにと頼まれたが、アメリカまで行く体力的自信はないのでお断りし、その代わりにルビオ国務長官宛の書簡を書くことになった。つい先日、その書簡にサインしてニューヨークに送ったばかりだ。

 筆者自身は反中でもなければ親中でもない。

 もともとは理論物理学者として「論理的に正しいか否か」だけを検証し、論理的に正しければ論理構成をして文章を書くだけである。

 理論物理の研究をしていた者が、今なぜ中国問題を研究する日夜を送るようになったのかというと、80年代初期に中国人留学生が大量に日本にやってくるようになったからだ。

 1950年代、中国の小学校で日本人として激しく虐められ、天津にある海のように川幅が広い「海河」という名の河に入水自殺しようとしたときに、チャーズ(卡子)での記憶がよみがえってきた。

 吉林省長春市にいたときに国共内戦に巻き込まれ、共産党軍に食糧封鎖されて、「チャーズ」という国共両軍が対峙する中間地帯に閉じ込められ、餓死体の上で野宿したことがある。あまりの恐怖に「記憶喪失」になっていたのだが、海河に入水自殺しようとした時に、その「チャーズ」の記憶がよみがえった。

 あれから「毛沢東、あなたは誰だ?」、「中国共産党、あなたは何者か?」を問い続けながら生きてきた。

 日本帰国後、のちに理論物理学の世界で論文を書くようになったのだが、80年代初期に中国人留学生や就学生が怒涛のように日本にやってくるようになった。日本語も分からず途方に暮れている中国人留学生に手を差し伸べることによって、筆者を死に追いやった「中国人」が助かっていく。それを実感した時に、筆者の心に深く潜り込んでいた、日本人として虐められた、あの苦しい思いが一つずつ薄まっていくのを知った。

 だから理論物理の研究を捨てて留学生教育、特に留学生の相談業務に没頭したのだったが、「毛沢東、あなたは誰だ?」、「中国共産党、あなたは何者か?」という深い疑念が心から消えたことはない。

 それが筆者を、「毛沢東の正体を突き止める作業」へと追い込んでいき、気が付けば、トランプ政権の中核とつながる結果を招いた。 

 

 2018年1月25日のコラム<あのランディがトランプ政権アジア担当要職に――対中戦略が変わる>に書いたように、筆者は2016年9月20日、ワシントンD.C.にあるNational Press ClubでシンクタンクProject2049が主宰する国際会議で講演を行なったことがある。テーマは“Mao-zedong――The Man who Conspired with the Japanese Army during the Sino-Japanese War ”(毛沢東――日中戦争中、日本軍と共謀した男)だ。そのProject 2049を主催していたのがランディ・シュライバー氏で、彼は2018年1月8日にトランプ1.0の国防総省アジア担当に任命された。

 この講演を伝え聞いていたのが、同じくトランプ1.0で主席補佐官をしていたスティーブン・バノン氏だ。

 バノンは筆者の「チャーズ」(復刻版に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』など)の英語版(Japanese Girl at the Siege of Changchun: How I Survived China's Wartime Atrocity)を読んでもいた。そこで筆者を長時間にわたり取材してくれたことがある。ランディもバノンも、2016年5月17日の筆者の論考“Mao Zedong, Founding Father of the People’s Republic of China, Conspired with the Japanese Army” を読んでくれていた。

 そのようなわけで、なぜかトランプ政権とは1.0も2.0もご縁がある。

 習近平がどのように中国共産党の正体を隠しても、隠しきれるものではない。それにしても、中国共産党を育てあげ成長させ発展させたのは(天安門事件後の対中経済封鎖解除を含め)「日本」である。

 日本の国益のために拙著『米中新産業WAR』に書いたような事実は、トランプ関税の根底にあるファクトなので客観的に認識しつつ、「パンダを貸してください」と頭を下げに行くようなことはすべきではないと思う次第だ。

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ありがとうございます。
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中新産業WAR トランプは習近平に勝てるのか?』『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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