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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

大統領の配慮

2008-11-24 | Weblog
こちらに来て以来の、最長記録である。待ち時間のことだ。ヤムスクロで、鉱業とエネルギーの国際シンポジウムがあり、開会式にバグボ大統領が演説をするというので、出席した。案内状には10時開始と書いてあるので、15分遅れで到着。国際会議場の大ホールは、中ほどから後ろの方はほぼ埋まっているが、前の方はまばらだ。前の方とは、つまり来賓席であり、政府関係者の席である。その中でも最前列のソファーの席が、外交団と指定されている。案内されて、出来るだけ上席に座る。先に来ているのは、韓国大使とカナダ大使だけである。

といっても、ここまではほぼ予想通り。開会が遅れ、何十分も待たされることは、もう予め分かっているが、それでもある程度早めに行く。来賓席に座っていると、順次に到着する要人と、一人一人挨拶が出来る。時と場合によっては、待ち時間にじっくり話が出来る。これは悪くない。これまでも、何人もの閣僚と、こうして知遇を得た。

ところが、今回はほんとうに何時までたっても始まる気配が無い。舞台の上では、国旗の飾りつけなどをしている。裏方の時間表では、まだまだ余裕があるというのだろう。これはしくじったかも知れない。無為に音楽だけが流れている。韓国大使、カナダ大使と世間話をして、時間を潰す。カナダ大使は、今日は冷房の入った屋内だから良かった、と物事をあくまでも前向きに捉えている。ヤムスクロまで来ているので、一旦大使館に戻って待つというわけにも行かない。

約1時間くらい経ったところで、他の大使たちがぼつぼつとやってきた。アルジェリア大使、EU大使、ブラジル大使、アンゴラ大使、インド次席公使ほかである。私は感心する、さすがに事情に通じ、当地に慣れた大使たちは違う。1時間も遅れて到着するなど、私にはそこまで豪胆にはなれない。しかし、ここコートジボワールでは、それが賢明な選択なのだ。ところがどっこい、今日については、その賢明な大使たちも、それから更に1時間半待たされたのである。

だんだんに人が集まってくる。鉱業・エネルギー省の幹部たちや、資源関連企業の幹部たちも現れて、その都度、外交団席に来て挨拶していく。しかしながら、開会式そのものは始まる気配が無い。EU大使など、堂々としたものだ。分厚い書類を取り出して、ラインマーカーを引きながら読んでいる。
「待ち時間に何をするか、予め考えておく習慣だ。今日は、席がゆったりしたソファーだし、静かに書類が読めて、まあ悪くないよ。」
と、これも前向きである。私は、隣の韓国大使との話にもいいかげん飽きて、もううつらうつら居眠りするしかない。

今朝はヤムスクロまで来るために早く起きたわけだし、ソファーに座って音楽を聞いていると、思わず深く眠ってしまった。しかし大丈夫。目が覚めても、まだ始まっていない。カメラマンたちが、コードを引きずりながら、映像を撮っている。待ち時間が2時間を過ぎたころには、さすが前向きのカナダ大使も、怒り出している。
「コートジボワール人には、時間が貴重だという感覚がない。彼らにとって、時間は幾らでもある。だから人を待たせて、申し訳ないという気持ちは全くない。待たせることで、相手にどれだけ損失を与えているかなど、全然考えもしない。」
韓国大使を見ると、ぐっすり眠っている。

突然司会者が舞台に上がり、何の挨拶も、遅れについての何の謝罪もないまま、マイクに向かって声を上げる。「共和国大統領閣下のご入場。皆様ご起立を。」
時計を見たら、12時半であった。2時間半遅れて、開会式が始まった。

今回はさすがに極端だったが、どの式典でも相当時間待たせる。コートジボワールの人々は、式典の開始を案内しても、まず時間を守らない。それでいて、来賓たちは、主役である一番偉い人より遅れて着いてはいけない。それは非常に失礼なことで、皆を困惑させる。そうした事態を避けるために、一番偉い人は、大幅に遅れて到着する。大統領ともなれば、偉い中の偉い人だから、来賓の誰よりも遅れなければならない。それがこちら流の配慮であり、社会習慣となっているのだろう。しかし、世界的な常識からはかなりかけ離れている。われわれ外交官たちは、世界的な常識と、コートジボワールの常識との間で、四苦八苦するのである。

その夜、テレビのニュースで、この開会式が取り上げられた。私と韓国大使が、最前列で寝ている様子が、全国に放映された。

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