村では、「アグリランド」農場の社長、ジャックさんの邸宅に泊めてもらうことになっている。柑橘類の農園の中に、芝生の広い庭付き。洋風の邸宅を見てほっとする。なにより、「アグリランド」の工場の自家発電機のお陰で、電気も冷房もある。私たちは、砂漠でオアシスにたどり着いたように転がり込んだ。なにしろ、昼間に泥だらけ、ほこりだらけになっていたうえに、村に着いてから、歓迎式典の歌と踊りにつきあって、一緒に輪に入って足を踏み鳴らしたりしたので、もう汗だくになっている。肉体も精神も疲労し切っていた。村では、今日は午後からずっと停電だ、と聞かされていたので、ジャックさんの邸宅の冷房も動いていないだろう、と覚悟していたのである。
ジャックさんは、夫人と二人暮し。奥さんの素晴らしい手料理をいただく。ワインを傾けながら、このように芝生の美しい庭で、静かな夜を過ごすと、本当に別天地。まるで楽園ですね。そう私が言うと、ジャックさんは、楽園ねえ、と戸惑い気味に笑う。
「この間も、部下がお腹に誤ってトゲを刺し、激しく膿んだので、自分がナイフで切り取ってやった。」
麻酔もなしですか。そんなもの当然ない、消毒と縫合はちゃんとしたけどね、とジャックさんは笑っている。医者は居ないのですか、と聞く。
「町に一人居る。でもね、薬よりもアルコールが好きで、朝から酒に酔っている。」
それはひどい、そんな医者は追い出してしまえば。
「本当のところ、彼が悪いわけではない。彼もここに来た当初は、やる気があるいい医者だった。でも、ここには医療用具も設備もない、医薬品の補充もない、何の治療も出来ないのだ。ここから50キロのディボ(Divo)にある病院まで行かないと、医療らしいことは何も出来ない。そのディボの病院でも、血液検査さえ出来ないのだ。検査にはアビジャンまで行け、という。こんな現実なので、医者もやる気を失ってアル中だ。ここではちょっとした病気でも、たちまち命に関わる。」
それがこの楽園の現実だ。村は医療に見放されている。下手に病気も出来ない、厳しい生活環境である。
医療のみならず、道路の整備といい、学校の建設といい、行政は何もしないという。あれそういえば、この村に来る前に、立派な制服を来た市長さんに会いましたよ。彼は一体、何をやっているのか。
「ああ、あいつか。難しい奴だ。」とジャックさん。
「市長だからね、事業を経営していくうえで、仲良くしてはおかなければならない。2年前にこちらに落ち着いた後、彼をこの自宅に招待して、食事を振舞った。彼は、さんざん飲み食いした後、自分の執務室に冷房がない、と言い出した。冷房を入れてもらわなければ。次の日に、役所から正式の書簡が来た。冷房機2台を要請する。そう書かれてあった。」
冷房は取り付けてやった。そうしたら、今度は、役場と警察に、1台ずつ四駆が必要だ、という。役所や警察の関係者の機嫌は損ねてはならない。だから、何とかやり繰りして、1台ずつ提供した。
「半月くらいしたところで、ガソリンが切れた、と言う。ガソリンぐらい自分で調達してくれ、と言ったら、車を提供しておいてガソリンの面倒を見ないとは、無責任だという。仕方ない。それ以来、役場と警察にそれぞれ毎月60リットルを提供している。」
なんと激しい驕りたかりである。私は、その市長から警護の申し出があり、かえって迷惑したと話した。ジャックさんが、解説してくれる。
「それは、手ぶらで行ったからだな。自分には邪魔が出来るのだぞ、ということを示したのだろう。」
ここの役人は、ほとんどが腐っている。地元のためになる話を持ってくる人があっても、役人が最初からむしり取ろうとするので、皆逃げてしまう。日本大使の来訪というと、これはこれは立派な牝牛が来た、と思ったことだろう。そこから乳を搾り取ることしか考えない。ここでは、どんな善良な意志も、行政の汚職の前に挫けるのだ。ジャックさんは、そう言って、眉をひそめた。
ジャックさんは、夫人と二人暮し。奥さんの素晴らしい手料理をいただく。ワインを傾けながら、このように芝生の美しい庭で、静かな夜を過ごすと、本当に別天地。まるで楽園ですね。そう私が言うと、ジャックさんは、楽園ねえ、と戸惑い気味に笑う。
「この間も、部下がお腹に誤ってトゲを刺し、激しく膿んだので、自分がナイフで切り取ってやった。」
麻酔もなしですか。そんなもの当然ない、消毒と縫合はちゃんとしたけどね、とジャックさんは笑っている。医者は居ないのですか、と聞く。
「町に一人居る。でもね、薬よりもアルコールが好きで、朝から酒に酔っている。」
それはひどい、そんな医者は追い出してしまえば。
「本当のところ、彼が悪いわけではない。彼もここに来た当初は、やる気があるいい医者だった。でも、ここには医療用具も設備もない、医薬品の補充もない、何の治療も出来ないのだ。ここから50キロのディボ(Divo)にある病院まで行かないと、医療らしいことは何も出来ない。そのディボの病院でも、血液検査さえ出来ないのだ。検査にはアビジャンまで行け、という。こんな現実なので、医者もやる気を失ってアル中だ。ここではちょっとした病気でも、たちまち命に関わる。」
それがこの楽園の現実だ。村は医療に見放されている。下手に病気も出来ない、厳しい生活環境である。
医療のみならず、道路の整備といい、学校の建設といい、行政は何もしないという。あれそういえば、この村に来る前に、立派な制服を来た市長さんに会いましたよ。彼は一体、何をやっているのか。
「ああ、あいつか。難しい奴だ。」とジャックさん。
「市長だからね、事業を経営していくうえで、仲良くしてはおかなければならない。2年前にこちらに落ち着いた後、彼をこの自宅に招待して、食事を振舞った。彼は、さんざん飲み食いした後、自分の執務室に冷房がない、と言い出した。冷房を入れてもらわなければ。次の日に、役所から正式の書簡が来た。冷房機2台を要請する。そう書かれてあった。」
冷房は取り付けてやった。そうしたら、今度は、役場と警察に、1台ずつ四駆が必要だ、という。役所や警察の関係者の機嫌は損ねてはならない。だから、何とかやり繰りして、1台ずつ提供した。
「半月くらいしたところで、ガソリンが切れた、と言う。ガソリンぐらい自分で調達してくれ、と言ったら、車を提供しておいてガソリンの面倒を見ないとは、無責任だという。仕方ない。それ以来、役場と警察にそれぞれ毎月60リットルを提供している。」
なんと激しい驕りたかりである。私は、その市長から警護の申し出があり、かえって迷惑したと話した。ジャックさんが、解説してくれる。
「それは、手ぶらで行ったからだな。自分には邪魔が出来るのだぞ、ということを示したのだろう。」
ここの役人は、ほとんどが腐っている。地元のためになる話を持ってくる人があっても、役人が最初からむしり取ろうとするので、皆逃げてしまう。日本大使の来訪というと、これはこれは立派な牝牛が来た、と思ったことだろう。そこから乳を搾り取ることしか考えない。ここでは、どんな善良な意志も、行政の汚職の前に挫けるのだ。ジャックさんは、そう言って、眉をひそめた。
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