525ヘクタールというから、代々木公園の10倍ある。それだけの広さに、オレンジ、ベルガモット、シトロンなどの柑橘類の木々が、見渡す限り並んでいる。柑橘類は、食べるためではなく、果実の皮から香料のエッセンスを取るために、植えられている。ここは、ギトリー町のさらに西、バボコン村(Babokon)にある、「アグリランド」農園。
農園で収穫された果実は、農園附属の工場に集荷され、機械にかけられてエッセンスが抽出される。フランス人で、香水抽出の専門家であるジャックさんは、90年代にフランスの経済協力で技術指導に来て以来、この「アグリランド」農園の経営と工場の運営にかかわってきた。2年前からバボコン村に移り住み、今やコートジボワール人の所有者から全てを任されている。ジャックさんの案内で、香料エッセンスというものがどうやって生産されるのかを、見せてもらった。
柑橘類の果実というと、普通は実を食べるのであるが、エッセンス抽出の場合は、実ではなく果皮が主役である。集荷された大量の果実は、水を張ったプールに入れられて、表面の汚れを洗い落とす。そのまま、長さ10メートル、高さ3メートルほどある、大きな機械の中に送り込まれる。轟音を立てる機械の中では、水を噴霧器で掛けながら、果実どうしを激しくこすり合わせ、香料分を水に移す。果実は、表面の緑色が削げ落ち、一方で水は抹茶のようになる。この抹茶を真空蒸発機にかけて濃縮したあと、蒸留して香料エッセンスが出来上がる。
何も添加したりしない、果実だけを原料とする。1トンの果実からエッセンスを取って、わずか3.6キロ。1日の処理量は、50トン。この果実を、午前中から午後にかけて、ひたすら洗い、こすり合せて、抹茶水を作った後、夕刻に蒸留にかけてエッセンスに仕上げる。これを毎日繰り返す。エッセンスは、香水や石鹸などの香料、料理用の添加物などに使われる。少し紙片に付けて嗅ぐと、素晴らしい匂いが広がる。いわゆる柑橘系の香り。紙片を手帳に挟んでおいたところ、匂いはそれから数日以上も残っていた。かなり強力である。
柑橘類の農園では、緑の果実がたわわに実っている。一切の農薬を使わない。だから、ここのエッセンスは、化粧品や食用にも安心して使える。コートジボワールには、こういう香料用の農園がもう1つ、ササンドラ地方(西部の大西洋岸)にあるが、海岸地方なので害虫が多く、農薬を使わざるを得ないという。この「アグリランド」農園は内陸にあり、害虫被害が少ない。多少の害虫が出ても、農薬は使いませんよ、それがうちの売りですからね、とジャックさんは言う。
コートジボワールの商品作物は、カカオでもコーヒーでも、原料としてほぼそのまま袋詰めにして輸出する、というものが殆ど全てだ。その中で、この柑橘類は、香料エッセンスという製品に加工して、つまり地元で付加価値をつけた上で、欧州などの消費地に出そうというものだ。しかも、この製品は濃縮されて嵩が小さく、保存がきくものであり、困難な輸送にも堪えうる。これこそ、コートジボワールの地方の産業として、うってつけではないか。工場に勤める労働者たちも、ジャックさんの薫陶を受けて、意気軒昂に働いている風である。是非、今後も成功することを期待したい。ところが、こうした香料は、化粧品会社が調合する香水などの必要に応じて、専門業者が買い付けに来るので、需要はその時により変動する。だから、売上は必ずしも安定はしていない。
ここで作っているのは、なんといっても純正の天然香料である。自然食ブームのなかで、香水以外にもいろいろな需要があり、買いたいと思う会社などがあるのではないかと思うが、そうした会社や市場との中継ぎをしてくれるような人もいない。わが国だと、総合商社があるし、日本貿易振興会(JETRO)などがあるのだが。私の心は、いつのまにか大使の職務を離れて、商社マンになっていた。
運ばれてきた柑橘類を洗う。
柑橘類は機械に流し込まれる。
「アグリランド」の工場内
柑橘類を入れた容器を激しく撹拌し、水を噴霧する。皮どうしが摩擦して、香りが水に溶け出す。
溶液は抹茶色の水になっている
溶液から水を飛ばして、濃縮する装置。
香りの原液
原液を蒸留器にかけて精製すると、香料エッセンスが仕上がる。
香料エッセンスの見本。左から、生姜、シトロン、ベルガモット。
香りを掲載できないのが残念。
去年の10月、11月にコートジボワールに滞在していました。
香料エッセンスの仕事をしている友人がたいへんこのジャックさんのアグリランドに関心を示しています。輸入もできたらと考えています。
何かこのジャックさんと連絡を取る方法はございませんでしょうか? 仏語サイトで検索しても情報が得られないので困っています。
ジャックさんは、今年1月に引退し、南仏に戻りました。後の仕事を引き継いだ、ジャン・ベルナールさん(フランス人)とも連絡があるので、取り急ぎコンタクト先を調べてご回答します。
お忙しいところ恐れ入ります。助かります。
コートジボワールと日本がこういった素晴らしい産業でつながることができれば、とワクワクします。
お返事、たいへん楽しみにお待ちしております。
「アグリランド」の香料エッセンスは、最近、ミュンヘンの見本市に出品したところ、多くの引き合いが来て、けっこうその対応に追われていると言っていました。フランスの著名な香水ブランドとも商談が成立したと言っていました。でも、日本とも商売をしたいので、連絡をとってゆきたい、とジャン=ベルナールさんは言っていました。
また、最近は柑橘類の香料だけでなく、生姜や、カカオの香料など、新製品の開発を試みているということです。生姜の香料をかいでみると、あの寿司に付いている生姜の香りとは異なり、驚くほど甘い、良い香りです。
それで、個別のやりとりについては、とりあえず、このブログのメールアドレス(zoge1@mail.goo.ne.jp)にご連絡ください。今週の木曜日に、私自身がバボコン村に出向く予定なので、その時にさらに話をしてみます。結果などは、メールにてお伝えすることとします。
「アグリランド」好調なようで、嬉しいです。
私はチョコレートに取り組んでいますが、カカオ以外の産業でコートジボワールが潤うのはとても歓迎すべきことですよね。
さっそくメールお送りします。
立派な工場ですね。
想像よりもずっと設備が整っていて驚きました。
これが、アビジャンではなく村にあるなんて。
この香料が世界の市場にたくさん出て行けばいいなと思います。