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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

トーゴへの信任状捧呈(1)

2008-10-27 | Weblog
「大銀河に輝く星の一つにはなれずとも、君の光はトーゴを照らせる。」
青年スポーツ省の壁に大きく書かれた標語である。青年の大志を鼓舞するにはずいぶん謙虚だが、たしかにトーゴくらいの規模の国であれば、自分の力でも何かが出来ると思えるだろう。トーゴは、面積6万平方キロというから、北海道より一回り小さい。人口640万人、これも埼玉県ほど。先週22日から、そのトーゴに出張して、信任状捧呈の儀式を行ってきた。これで、コートジボワールについで、トーゴの大使としても仕事ができるようになったわけである。

そのような小さな国でも、アフリカの他の国々の例に漏れず、長く政治的混乱のもとにあった。38年間、独裁を続けたエヤデマ大統領が、2005年に逝去した後、子息のニヤシンベ氏が混乱の中、軍部に推されて大統領就任を宣言、国際社会の反発を受ける。その後改めて選挙で大統領に選ばれるも、この選挙を不服とする野党支持者が、警備隊と衝突して、多数の死傷者を出す事態となった。

欧米諸国をはじめ多くの援助国が、どうにもならないトーゴの政治に、殆ど愛想を尽かしていた。ところが、独裁政権を世襲したニヤシンベ大統領が、俄然、国家の再建に取り組み始める。42歳、イェール大学MBA卒の若い大統領は、国民和解にむけて主導権を発揮。コンパオレ・ブルキナファソ大統領の仲介も得て、政府と主要野党とが和平合意に達した。両勢力の間で国民和解内閣をつくり、昨年10月には国民議会選挙を実施した。民主化と自由化を経て、国際社会のトーゴに対する見方は、大幅に改善しつつある。

とはいえ、永年の政治の混乱は、経済を荒廃させている。独裁政権の時代、その人権抑圧を咎めて欧米諸国は援助を停止。わが国も事実上援助を停止していた。その結果、一人あたりGNPは、わが国国民の百分の一(350ドル。わが国は3万9千ドル:2005年)。最貧国の一つとなっている。経済だけでなく、行政機構、教育制度、公共サービス、すべてを荒廃させた。政治の安定に目処が立った今、いちはやく経済を上向きにして、国民に希望を与える必要がある。ニヤシンベ大統領は、国際機関等で経験のある優秀な人材を、どんどん閣僚に登用し、国際的水準に照らしつつ自国の開発戦略を立てようとしている。

首都のロメに到着した私は、信任状捧呈に先立って、当地駐在の何人かの各国大使から話を聞いた。日本が、この国の国家再建を手伝うとして、どういう分野でどういう協力が可能だろうか。ある大使が言う。
「ニヤシンベ大統領の努力は真摯なもので、彼を支援すべきだ。首相はじめ閣僚たちも、若くて多くはテクノクラート出身であり、真剣に何とかしたいと考えている。しかし、彼らにとって不幸なのは、およそ何から手をつけていいのか分からないほど、医療、保健衛生、教育、給水、道路、人々の基本生活にかかわる社会・経済インフラが荒廃していることである。それ以上に重症なのは、それを整えて維持管理していくための行政組織が惨憺たる状態になっている。」
「そうすると、日本がやるべきは、行政官僚の研修や養成といったことですか。」
「いや、官僚の研修もいいが、そもそも事務所にコンピューターがない状態なのだ。もちろんインターネットも無い。これでは、研修を受けた官僚が帰ってきても、仕事にならない。」
別の大使も言う。「私が出向いたある役所では、コピー機さえなかった。」
たしかに、昔ならいざ知らず、現代の官庁に、コンピューターとコピー機がなければ、仕事にならないであろう。

とにかく、中央官庁がそのような状態であるというならば、他は推して知るべしである。私は明日の信任状捧呈を終えた後、首相はじめ主要閣僚を訪ねて回る予定である。おそらく、先々で道路が欲しい、病院が欲しい、いや車だパソコンだ、という話になるのではないか。しかし、10年来経済協力が中断してきているトーゴである。まだまだ、日本として本格的な援助の再開に応えられる段階ではない。そうした物品供与や建設案件を求められても、日本として出来ることは殆ど無い。

ところが、実際に大統領はじめ閣僚たちに会ってみると、彼らの口から出てきたのは、全然違う視点からの話であった。そういうモノの要望では無かった。私の予想は、いい意味で裏切られた。

(続く)

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