有権者登録に訪れた人は、第一番目の机で、係官に、持参した出生証明書などをもとに、自分の名前や誕生日、出身地などを、専用の書式に記入してもらう。それが済んだら、第二番目の机に移る。コンピューターが一台置いてあり、別の係官が、書式に記されたデータを入力する。コンピューターには、前回2000年の選挙人名簿のデータベースが入っているので、その人がその選挙人名簿にすでに登録されている人かどうかが参照できる。登録されていなければ、新たに登録する。
そして第三番目の机である。ここに、小さな旅行トランクのようなものが置いてある。これがこの度の有権者登録作業の秘密兵器、フランスの専門会社から調達した「生体認証データ記録機」である。左右に開いたトランクの中から、アームが伸びていて、写真機が取り付けられている。まずこの写真機で、顔写真を撮る。次に、トランクの本体部分で、指紋データを採る。まずは、右手の5本の指を一つずつ。それが済んだら、左手の5本の指を、また一つずつ。写真と指紋のデータは、トランクの内部にある機械にデータ保存され、有権者登録作業が終わった段階で、中央の選挙管理委員会に届けられる。
日本では、指紋による個人認証は、少なくとも選挙のためには行わない。欧州諸国でも、そういうことをしている国があるだろうか。指紋の採取、しかも10本の指全部。有権者登録とは、そこまできめ細かく個人の認証を取らないと、出来ないものなのだろうか。
11月30日に大統領選挙を行うためには、9百万人といわれる有権者の登録を今月(10月)末までに終えなければならないが、どうもそれは難しい、という話になりつつある。9月15日に、有権者登録作業開始が宣言された。しかし、全国では殆どどこも、すぐには登録所が開かなかった。アビジャンでさえ、開き始めたのは10月に入ってからである。その大きな理由の一つは、この秘密兵器のトランクを、全国1万1千カ所の登録所に届ける準備が間に合わなかったから。さらに、これだけの手間暇かけた登録である。一人あたりの時間が、相当かかることになる。もっと単純なやり方で進められなかったものだろうか。
「そういうことになるのは、欧米諸国が、机の上だけで考えて、アフリカの現実にあわない要求水準やシステムを、コートジボワールに押しつけたからじゃないのか。」
ある中東の国の大使が、私に言う。
「アフリカにはアフリカの、選挙のやり方があるだろう。どこの国だって、それぞれのやり方で、皆が納得できる選挙を行っている。こんな複雑な方式、指紋認証など大げさなものを持ち込まなくても、多くのアフリカ諸国でちゃんと選挙を行っている。コンゴ民主共和国でも先頃、大統領選挙を、特に問題もなく行った。コートジボワールに比べて、道路や通信などのインフラがはるかに劣っている国々で、行政制度も整っていない国々で、ちゃんと出来ていることが、なぜコートジボワールでは出来ないのだ。」
ガーナ大使に聞いてみた。お隣の国ガーナも、今年12月に大統領選挙を控えている。
「ガーナでは、出生証明書か、運転免許証か、何でもいいから、自分の名前が書いてある紙を投票所に持っていけば、投票できるよ。選挙当日に、その場で選挙人名簿との照合をするだけだ。」
たとえば、私がかつて勤務したインドでは、実に見事なやり方で、民主選挙を実現していた。この混沌の大国には、実にさまざまな階層、さまざまな生活を営む10億の民がいる。かなりの部分の人々が、住所もない、税も払っていない、出生登録さえしていない、つまり行政当局に捕捉されているとは思えない人々である。スラムに住む人々、道路脇に寝ている人々、一族で各地を転々とする人々、文字の読み書きの出来ない人々。しかし、そういう人々をも投票所に呼び、一人一票で確実に選挙を行う方法を、この民主主義の大国は編み出していた。
そして第三番目の机である。ここに、小さな旅行トランクのようなものが置いてある。これがこの度の有権者登録作業の秘密兵器、フランスの専門会社から調達した「生体認証データ記録機」である。左右に開いたトランクの中から、アームが伸びていて、写真機が取り付けられている。まずこの写真機で、顔写真を撮る。次に、トランクの本体部分で、指紋データを採る。まずは、右手の5本の指を一つずつ。それが済んだら、左手の5本の指を、また一つずつ。写真と指紋のデータは、トランクの内部にある機械にデータ保存され、有権者登録作業が終わった段階で、中央の選挙管理委員会に届けられる。
日本では、指紋による個人認証は、少なくとも選挙のためには行わない。欧州諸国でも、そういうことをしている国があるだろうか。指紋の採取、しかも10本の指全部。有権者登録とは、そこまできめ細かく個人の認証を取らないと、出来ないものなのだろうか。
11月30日に大統領選挙を行うためには、9百万人といわれる有権者の登録を今月(10月)末までに終えなければならないが、どうもそれは難しい、という話になりつつある。9月15日に、有権者登録作業開始が宣言された。しかし、全国では殆どどこも、すぐには登録所が開かなかった。アビジャンでさえ、開き始めたのは10月に入ってからである。その大きな理由の一つは、この秘密兵器のトランクを、全国1万1千カ所の登録所に届ける準備が間に合わなかったから。さらに、これだけの手間暇かけた登録である。一人あたりの時間が、相当かかることになる。もっと単純なやり方で進められなかったものだろうか。
「そういうことになるのは、欧米諸国が、机の上だけで考えて、アフリカの現実にあわない要求水準やシステムを、コートジボワールに押しつけたからじゃないのか。」
ある中東の国の大使が、私に言う。
「アフリカにはアフリカの、選挙のやり方があるだろう。どこの国だって、それぞれのやり方で、皆が納得できる選挙を行っている。こんな複雑な方式、指紋認証など大げさなものを持ち込まなくても、多くのアフリカ諸国でちゃんと選挙を行っている。コンゴ民主共和国でも先頃、大統領選挙を、特に問題もなく行った。コートジボワールに比べて、道路や通信などのインフラがはるかに劣っている国々で、行政制度も整っていない国々で、ちゃんと出来ていることが、なぜコートジボワールでは出来ないのだ。」
ガーナ大使に聞いてみた。お隣の国ガーナも、今年12月に大統領選挙を控えている。
「ガーナでは、出生証明書か、運転免許証か、何でもいいから、自分の名前が書いてある紙を投票所に持っていけば、投票できるよ。選挙当日に、その場で選挙人名簿との照合をするだけだ。」
たとえば、私がかつて勤務したインドでは、実に見事なやり方で、民主選挙を実現していた。この混沌の大国には、実にさまざまな階層、さまざまな生活を営む10億の民がいる。かなりの部分の人々が、住所もない、税も払っていない、出生登録さえしていない、つまり行政当局に捕捉されているとは思えない人々である。スラムに住む人々、道路脇に寝ている人々、一族で各地を転々とする人々、文字の読み書きの出来ない人々。しかし、そういう人々をも投票所に呼び、一人一票で確実に選挙を行う方法を、この民主主義の大国は編み出していた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます