コートジボワールの国に大使館を置いている国は48カ国。そのうち39カ国に大使が来ている。残りの国は、臨時代理大使や総領事が代表している。新任の大使として、これらの全ての大使や臨時代理大使・総領事たちに挨拶、つまり表敬訪問をしようと決めた。
挨拶が大切なのは、どこの世界でも同じだろう。外交の世界で、とくに気を付けなければいけないのが、挨拶の順番である。各国の大使に、どういう順序で敬意を表するか。その席次が、実は客観的に決まっている。外交の用語で、プロトコール・オーダーという。例えば大使たちが晩餐会などで一堂に会したときに、誰が上席を占めるか、というような問題にも、このプロトコール・オーダーが適用される。
それは旧弊なしきたりなどではなく、無用の争いをさけるための知恵だ。各大使とも、自分の国の名誉を背負っている。理由もなく、他の国と比べて低い扱いを受けると考えるならば、国の威信にかけて抗議をしなければならない。そこで、面倒な外交問題が生じることのないよう、席次について客観的な基準、誰もが異論を唱えられない基準が、国際慣例として確立している。それは信任状捧呈の順番である。
コートジボワールでは、隣国ブルキナファソの大使が13年も勤続していて、他の大使を圧して長老である。だから、ブルキナファソ大使が、当然ながら外交団長、ということになるか、というと、そうではない。何と、バチカン(法王聖庁)大使が、私と一緒に信任状捧呈をして着任したばかりなのに、ブルキナファソ大使を差し置いて、外交団長となるのだという。
どうも、外交関係が欧州のキリスト教世界内だけのものであった頃の名残であろう。着任順といっても、果たしてどちらが第一番に着任したかで、争いが生じることはあったかもしれない。だから誰もが崇敬せざるを得ない法王聖庁を、とにかく第一番に据えるということで、トラブルを避けたのであろう。イスラム教国や仏教国には、知った話ではない。だから法王聖庁が自動的に外交団長になる、という方式を採用していない国もたくさんある。コートジボワールが、欧州のしきたりに倣っていることが興味深い。
そういう次第で、まずは外交団長のバチカン大使を表敬訪問した。バチカン大使はインド出身の司祭。信任状捧呈のときに一緒で、いわば同期生だから、すぐにうち解ける。笑いながら、着任したばかりなのに外交団長としての仕事があるのだ、と言って、私に紙を渡す。一枚は、ここの外交団の名簿で、各国大使の信任状捧呈の年月日が記載されている。私の名前は、一番末席にある。もう一枚は、ここの外交団の活動の内容やルールの説明。諸活動の年会費がいくらいくらだから払え、とも書いてある。最後の一枚には、外交団の中で、役職がある国が書いてある。一応、いくつかの地域グループに分かれており、それぞれの長が決めてある。これは持ち回りだそうだ。日本はアジアグループに属し、その長はパレスチナ。パレスチナ大使にも早く挨拶しておかなければ、ということである。ちなみに外交の世界では、中近東から東は皆アジアとされるので、日本で考えるのとは、ずいぶん感覚が違う。
ところで、バチカンというと日本では「世界で一番小さい国」と思われている。実は、「世界で一番大きい国」とも言えるのだ。ローマの法王庁は、世界中にちらばるカトリック教会すべてを統治しており、その信者11億人の総本山である。外交の世界で侮れないのは、その情報力である。なにせ世界の隅々にある教会から、ローマに向けて情報が上がってくる。それも、市井のきめ細かい情報だ。また、ローマの法王庁での判断や決定は、教会のネットワークを通じて、世界中に伝播する。世界の文化や社会への影響力は大きく、歴史を動かすこともある。だから、ヨーロッパ各国は、バチカンに、一番格の高い経験豊かな外交官を、大使として派遣している。
コートジボワールにも、約280万人のカトリック信者がいるという。首都のヤムスクロには、ローマのサンピエトロ寺院をそっくりそのままコピーし、そのうえ一回り大きくした、世界最大の教会寺院がある。カトリックの影響力は、ここでも大きいのである。
挨拶が大切なのは、どこの世界でも同じだろう。外交の世界で、とくに気を付けなければいけないのが、挨拶の順番である。各国の大使に、どういう順序で敬意を表するか。その席次が、実は客観的に決まっている。外交の用語で、プロトコール・オーダーという。例えば大使たちが晩餐会などで一堂に会したときに、誰が上席を占めるか、というような問題にも、このプロトコール・オーダーが適用される。
それは旧弊なしきたりなどではなく、無用の争いをさけるための知恵だ。各大使とも、自分の国の名誉を背負っている。理由もなく、他の国と比べて低い扱いを受けると考えるならば、国の威信にかけて抗議をしなければならない。そこで、面倒な外交問題が生じることのないよう、席次について客観的な基準、誰もが異論を唱えられない基準が、国際慣例として確立している。それは信任状捧呈の順番である。
コートジボワールでは、隣国ブルキナファソの大使が13年も勤続していて、他の大使を圧して長老である。だから、ブルキナファソ大使が、当然ながら外交団長、ということになるか、というと、そうではない。何と、バチカン(法王聖庁)大使が、私と一緒に信任状捧呈をして着任したばかりなのに、ブルキナファソ大使を差し置いて、外交団長となるのだという。
どうも、外交関係が欧州のキリスト教世界内だけのものであった頃の名残であろう。着任順といっても、果たしてどちらが第一番に着任したかで、争いが生じることはあったかもしれない。だから誰もが崇敬せざるを得ない法王聖庁を、とにかく第一番に据えるということで、トラブルを避けたのであろう。イスラム教国や仏教国には、知った話ではない。だから法王聖庁が自動的に外交団長になる、という方式を採用していない国もたくさんある。コートジボワールが、欧州のしきたりに倣っていることが興味深い。
そういう次第で、まずは外交団長のバチカン大使を表敬訪問した。バチカン大使はインド出身の司祭。信任状捧呈のときに一緒で、いわば同期生だから、すぐにうち解ける。笑いながら、着任したばかりなのに外交団長としての仕事があるのだ、と言って、私に紙を渡す。一枚は、ここの外交団の名簿で、各国大使の信任状捧呈の年月日が記載されている。私の名前は、一番末席にある。もう一枚は、ここの外交団の活動の内容やルールの説明。諸活動の年会費がいくらいくらだから払え、とも書いてある。最後の一枚には、外交団の中で、役職がある国が書いてある。一応、いくつかの地域グループに分かれており、それぞれの長が決めてある。これは持ち回りだそうだ。日本はアジアグループに属し、その長はパレスチナ。パレスチナ大使にも早く挨拶しておかなければ、ということである。ちなみに外交の世界では、中近東から東は皆アジアとされるので、日本で考えるのとは、ずいぶん感覚が違う。
ところで、バチカンというと日本では「世界で一番小さい国」と思われている。実は、「世界で一番大きい国」とも言えるのだ。ローマの法王庁は、世界中にちらばるカトリック教会すべてを統治しており、その信者11億人の総本山である。外交の世界で侮れないのは、その情報力である。なにせ世界の隅々にある教会から、ローマに向けて情報が上がってくる。それも、市井のきめ細かい情報だ。また、ローマの法王庁での判断や決定は、教会のネットワークを通じて、世界中に伝播する。世界の文化や社会への影響力は大きく、歴史を動かすこともある。だから、ヨーロッパ各国は、バチカンに、一番格の高い経験豊かな外交官を、大使として派遣している。
コートジボワールにも、約280万人のカトリック信者がいるという。首都のヤムスクロには、ローマのサンピエトロ寺院をそっくりそのままコピーし、そのうえ一回り大きくした、世界最大の教会寺院がある。カトリックの影響力は、ここでも大きいのである。