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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

ロベールとキャタピラー(3)

2008-09-29 | Weblog
その後しばらく、あのトラックが出現するまでは、村の生活は平穏だった。ロベールに首都に出かける用事があり、首都で働く弟の家に泊まった。お金を殆ど持っておらず、弟になじられた。「兄貴も、そろそろ責任ある振る舞いをしたらどうだ。両親が遺してくれた森を、自分でしっかり開墾することもなく、ただ売ってしまうなんて。そんなことだから、人にお金をせびるようになる。」

この言葉は、ロベールを傷つけた。村に戻って、モーリタニア商店で煙草を買っていると、1台のトラックが通り過ぎ、砂埃を浴びせていった。
「おい、もし見間違えでなければ、運転していたのはキャタピラーじゃないか。」
そうさ、と傍らの者が答える。
「自分のトラックを持つなんて、どうやってそんなお金を手にしたんだ。」
傍らの者が答える。「知らないのか。あのよそ者たちは皆、泥棒なのだ。どこかで人の金を盗んでいるに違いない。」

それからというもの、トラックが村の唯一の道路を往復するたびに、その騒音がロベールの神経に障るようになった。朝に農作物を満載して町に行き、帰りは商品や酒を満載して村に戻ってきた。州知事や議員たちも、キャタピラーには金を借りていて頭が上がらないのだ、と言われるようになっていた。

ロベールは、村の家々をまわって説いた。あの連中がこの地域のお金をみんなかき集めてしまっている、一方自分たちは貧困のままで、全く馬鹿を見ている。そもそもはじめは、彼らが飢えて死にそうだったので、慈悲で森の一部を耕すことを許してやったのに。今やこの泥棒達は、森を奪い去り、自分たちの親戚縁者に分け与えている。

ロベールの甥が隣町から来て、ロベールの家に寄宿していた。ある日、甥が森に行ってみると、稲田をキャタピラーの若い息子が耕していた。
「おい、そこは俺たちの田圃だ。俺を知らないな。俺は、ゴリラを一撃で倒した英雄の子孫で、この森は全て俺たちの家族のものなのだ。」甥が詰め寄る。
「しかし、お前の伯父貴が、その森を俺たちに売り飛ばしてしまったんだぜ。」
そして言い合いになり、ともに相手を侮辱する表現が出た。ついに殴り合いになった。ゴリラを一撃で倒した英雄の子孫も、毎日勤労で鍛えた腕力には、全くかなわなかった。甥は一発食らって、地面に倒れた。

連絡を受けて、ロベールは、他の村人たちと一緒に、鉈を携えて、キャタピラーのに出かけた。の入口まで来ると、キャタピラーの連中が待ちかまえていた。彼らも鉈を携え、中には猟銃を持っている者もいた。「何しに来たのだ?」
「何しに来たのだと?甥が殺されたので、報復に来たのだ。」怒りで頭がはち切れそうだ。
「お前の甥か?ここにいる」といって、小屋の扉が開けられた。甥が裸の娘と寝ている。キャタピラー一族の娘の一人である。甥は気絶したまま、キャタピラーの村に連れて行かれ、丁重な手当を受けて、あとはよろしくやっていた。

「若者同士のけんかだろう。それで部族同士の抗争にするか?」聞かれてロベールは気持ちが萎える。相手の方が人数が多いうえに、銃まで持っている。怒りは残っていたが、渡されたウィスキー2本を空にすると、皆の気持ちも収まった。さらにワイン一箱を一緒に開けた後になれば、両方の村人達は互いに抱擁して友好を確認した。ロベールは、甥を娘から引きはがして、連れて帰った。

(続く)

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