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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

マラリアと蚊帳

2008-09-24 | Weblog
マラリアは、熱帯地方に住む人々にとって、大変な脅威である。ハマダラカという蚊に刺されることにより、マラリア原虫が体に入り込む。原虫は肝臓で増殖し、赤血球を破壊する。40度におよぶ高熱を繰返し、体力が無い場合には死に至る。世界で毎年3~5億人が発症、百万人以上が命を落としているとされる。その約9割はアフリカのサハラ砂漠以南の地域、サブサハラで発生、そして犠牲者の多くは、5歳以下の乳幼児である。相手が原虫でウィルスではないから、いわゆるワクチンは作れない。とにかく蚊に刺されないようにするしかない、厄介な病気である。アフリカの発展のために、エイズ、結核とならんで、マラリアへの対策が大変重要だ。

さて、ここに日本のハイテク技術が登場する。蚊帳である。何だ蚊帳か、といって馬鹿にするなかれ。蚊帳の網目に防虫剤を練りこみ、蚊が触れたら死んでしまう、しかし人間には安全という蚊帳を、日本の化学会社が開発したのだ。名前を、「オリセットネット」という。これを大量に作って、アフリカの村々に配り、蚊の出没する夜に子供達の寝床にかけてやればいい。日本の化学会社は、技術開発しただけではなく、タンザニアに生産工場をつくって、増産体制を整えた。

日本が、ただ資金を出すだけでなく、その知恵と技術でアフリカの問題に取り組むという、ユニークな協力の余地が出てきた。日本政府は、「保健と開発のイニシアティブ」と名付けて、途上国に対する総合的な感染症対策を進めることとなった。折しも、ここコートジボワールの保健省が、国連児童基金(ユニセフ)と協力して、「感染症予防計画」を実施しようとしている。日本がこの「オリセットネット」に抗マラリア薬等を併せて準備する、保険省はユニセフと協力して、これを村々に配る、という協力計画が練りあげられた。

前置きが長くなったが、この蚊帳と薬が届いたのである。蚊帳25万張と抗マラリア薬3百万個である。今日(24日)は、その引き渡し式を行うので、新任の日本大使から是非挨拶がほしい、という。喜んで出席しよう。

会場に出かけると、コートジボワール政府からレミ保健相をはじめ、保健省の担当者、医療関係者たちが来ている。ユニセフの現地代表も、もちろん来ている。司会者から促され、日の丸とコートジボワールの三色旗が飾られた演題に立って、用意した演説を読む。
「本年5月のTICAD横浜会議がうたい上げたとおり、アフリカは“希望と機会の大陸”です。福田総理は、2012年までにアフリカへのODAを2倍にする、と述べました。」

どのような機会であれ、機会を見つけては日本の前向きな政策を売り込むのが、大使の仕事である。日本のアフリカへの貢献、コートジボワールへの協力がいかに重要で意義の高いものであるか、蚊帳と薬の話はそっちのけで、大いに宣伝する。なんと言っても、テレビカメラがこちらを向いている。
引き続き、蚊帳の包みを、レミ保健相に手渡す儀式だ。またテレビカメラが向いている。手渡して握手をする。レミ保健相と並んで、蚊帳を広げたり、匂いをかいだりしてみせる。絵になる光景を作って、テレビカメラに撮らせる。これで、今夜のニュースに流れるだろう。

ただ単なる保健・医療関係の協力案件というのではない。「魔法の蚊帳」の話だ。人々は、日本の技術力に感嘆する。現場の必要にあわせて蚊帳を開発し、生産ラインまで作ってしまう本腰に、日本の開発問題への真剣さを読みとる。日本の協力は、他の国とはひと味もふた味も違うのだ。これが、日本の存在感というものであろう。

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