887 クマさん、カガリさんと合流する その2
話を聞いただけでも面倒くさい。
「妖刀を手に入れたら、カガリさんに渡せばいいの?」
「城でも妾でも構わん。城でも対応はできる」
「了解」
「それと妖刀の回収でお主に頼みがある」
カガリさんの話によると、ここに来る間に妖刀らしきものを持っている人物に会ったそうだ。
「少し目を離している隙に森の中に逃げられた」
魔物が現れ、近くにいた馬車が襲われそうになっていたので、助けに向かったそうだ。
そして、魔物を倒して戻ってくると消えていたそうだ。
「難しい判断だったと思います」
「そうっすね」
妖刀を持っている者を捕まえるか、魔物に襲われそうな人を助けるのか、難しい。
どっちが正しいとは言えない。
どちらを選んでも人が死ぬようなことがあれば、間違っていたと思ってしまう。
その馬車だって、実は魔物に襲われなかったかも知れない。
馬車の中に魔物を倒せるほどの強い人がいたかも知れない。
たらればのことを話していても、答えは出ない。
なにが正しいかは選んだ先の未来でしか分からない。
ときと場合によっては魔物に襲われている人を見捨てないといけないこともある。
でも、今回は周囲に人はいなく、妖刀に襲われる人もいなかった。
わたしでも、一人だったらカガリさんと同じ判断をしたと思う。
「それで、わたしに頼みって?」
「お主のクマなら、森の中でも探せるじゃろう」
カガリさんじゃないけど、逃げた方角が問題だ。
探知スキルがあるからと言っても、方角が違ったら見つけることはできない。
右と左を間違えれば、二度手間になる。
まあ、いざとなればくまゆるとくまきゅうで、中央、右、左と3方向に分かれて探す方法もある。
「了解。とりあえず、その森に行ってみるよ」
「すまぬが頼む」
今はできることから、やらないといけない。
「そういえば、ユナって武器は持っているっすか?」
「武器? 武器ならナイフを持っているけど」
ガザルさんに作ってもらったミスリルナイフが。
別名、くまゆるナイフとくまきゅうナイフ。
「そのナイフで戦うつもりっすか?」
「ダメなの?」
「いや、サタケさんとの試合のときは刀と同じ長さの武器を使っていたっすよね?」
木刀を使ったね。
「ダメじゃないっすが、不利じゃないかと思ったっす」
確かに、武器のリーチが全然違う。
距離が離れた戦いなら、長い武器が有利だ。
でも、懐に潜り込めれば短い武器が有利になる。
戦い方が異なるが、単純に考えて、長い武器と短い武器では長い武器のほうが有利なのは間違いない。
「一応、普通の武器もあるよ」
わたしはそう言って、伝説の勇者の剣を出す。
みんなの視線が勇者の剣に集まる。
「木の棒っすか?」
「木の棒ですね」
この世界に来て、一番最初に手に入れた武器だ。
ずっと、クマボックスの中で眠っていた。
ついに役に立つときがきた。
「お主、妾をバカにしておるのか」
「してないよ。ただ、妖刀が自分の力に自信があるなら、木の棒で相手になってあげようかなと思って」
わたしの言葉に3人が呆れた表情になる。
「木の棒で勝てば、実力で勝ったことになるでしょう」
「そんな木の棒なんて、簡単に切られるぞ」
「それはやってみないと分からないでしょう。それに、話を聞いていると、自分たちが選ぶみたいな感じで自意識過剰じゃない」
ゲームや漫画でも剣が持ち主を選ぶ話はいくつもある。
岩に突き刺さっている剣を抜けたら勇者とか、眠っている剣を起こすとか、お前なら自分の力を使えるとか。いろいろとある。
自分が選ばれるのは嫌いじゃないけど、武器のいいなりにはなりたくない。
とくに今回のような妖刀に関しては。
「確認じゃが、お主、人を斬ったことは?」
「ないよ」
隠しても仕方ないので、答える。
この世界の冒険者としては致命傷かもしれないけど、普通に生きていた女の子が人を斬るのは無理だ。
「まあ、普通はそうじゃろう。冒険者とはいえ、人を斬るのは滅多にないことじゃ」
「だから、わたしはこれで戦うよ」
勇者の木を持つ。
「まあ、お主なら大丈夫じゃろう。だが、危険と思ったら、ナイフでもいい。躊躇うことはせず、斬れ」
カガリさんが真剣な表情で言う。
「確認だけど、魔法で倒しちゃダメなの? 話を聞いている感じダメそうなんだけど」
「ユナ、魔法で勝って、妖刀に認められると思うっすか?」
「思わないけど」
普通に考えて、刀相手に拳銃で勝つようなものだ。
漫画なら銃弾を斬ったりするけど、普通に考えたら無理だ。
「でも、魔法で相手を倒して刀を奪い取ればいいだけじゃない?」
「実際のところ、そのあたりの線引きは曖昧じゃ」
「妖刀にも種類があるってことっす。だから、そのあたりの話を聞くために、先日カガリ様のところに尋ねに行ったっす」
もう一度言おう。
面倒くさい。
手伝うって言ったのは早まったかもしれない。
でも、話を聞いてしまったからにはほっとくわけにもいかない。
自分から手伝うと言ったんだから諦めよう。
「まあ、妖刀を盗む輩じゃ、別に魔法で殺しても構わんじゃろう」
「本当に盗んだ人だったらいいっすけど、違ったら大変なことになるっすよ」
犯罪者なら殺すんだ。
やっぱり、2人は人を斬ったり、殺したりしたことがあるのかもしれない。
「そう言うカガリさんはどうやって、戦うの?」
「……魔法で叩き潰す?」
「ダメっすよ」
「冗談じゃよ」
「わたしはともかく、カガリさんは武器、使えるの?」
今までに一度も見たことがない。
「最近は使っておらんが、昔は使っていた。それなりの腕じゃぞ」
「そうなんすか?」
「知らなかったです」
シノブとサクラも知らなかったみたいだ。
「最近は大蛇の封印の管理をしていたから武器を持って戦うこともなかった。魔物が現れても、魔法で倒せばいいだけじゃったからのう」
確かに、わたしも武器で攻撃するより、魔法を使って倒すことが多い。
魔法って便利なんだよね。
「でも、そんな子供の姿で武器が扱えるの?」
「まあ、戦えないことはないが、武器はあれを使うか」
カガリさんは少し考えて、答える。
「じゃが、飛んで海を渡るのは面倒じゃな。ユナ、くまゆるを貸してくれ」
「くまゆるを?」
「島にある妾の刀を回収してくる」
くまゆるを貸し出すと回収も面倒くさいし、どんな武器なのか気になるので、わたしも一緒に行くことにした。
「兎にも角にも情報が足らぬ。妖刀右京に関しては妾が対処する。スオウ王の奴にも情報が入り次第、サクラに伝えるように言っておいた」
「わたしですか?」
サクラが少し驚く。
「そう言えば、わたしたちもそうっす。サタケさんから妖刀に関する情報はサクラ様に伝えてほしいとお願いしたっす」
「たまに情報の確認しに来る」
「分かりました。みなさんのお手伝いができるなら、お任せください」
「それじゃ、ここは捜査本部だね」
「捜査本部ですか?」
「情報が集まってくる場所で、みんなで話し合う場所だから」
「ふふ、こんなことを言ったらダメですが、楽しいです」
サクラは微笑む。
「シノブが怪我とかして、大変だったからね」
「そういえば、お主が怪我をしたとスオウ王からも聞いたのう」
カガリさんにシノブの怪我のことを話す。
それとサタケさんの情報も共有したわたしたちはぞれぞれ動くことになった。
城下街を出たわたしはくまゆるとくまきゅうを召喚し、カガリさんはくまゆるに乗り、わたしはくまきゅうに乗って、出発する。
海岸に向けて走り、海の上を走る。
「やっぱり、空を飛ぶより楽じゃのう」
「空を飛ぶのって、疲れるの?」
「走り続けることを考えてみよ」
想像してみる。
走り続ける。
……クマ装備がなかったら、100mも走れないかも。
「まあ、走り続けるよりは楽なのはたしかじゃが、魔力次第ってところじゃな。走り続けるのも体力次第じゃから、同じようなものと考えてよい」
そう考えたら、くまゆるとくまきゅうの体力って凄い。
そのくまゆるとくまきゅうに乗って、大蛇が封印されていた島にやってきた。
「今はどうなっているの?」
「壊された建物は撤去され、新しいのが建っておる」
「もしかして、カガリさんが住むために」
「住まぬよ。大蛇が討伐された日を忘れないために、年に一度、国王や関係者たちが集まる場所になるそうじゃ」
時間が経てば人の記憶から消えていくものだ。
それを忘れないようにするためらしい。
「ちなみに、お主が作ったクマも祀られておるぞ」
「えっ」
「なにが『えっ』じゃ。しかも、妾の狐も一緒じゃ」
思い出した。
大蛇を倒すときに口に放り込んだクマの岩を放置してしまったため、クマ伝説が作られそうになって、慌てて狐の置物を作ったことがあった。
嫌な思い出だから、忘れていた。
カガリさんが住んでいた建物の場所にくると、立派な新しい建物が建てられていた。
大きな神社風の建物だ。
その建物の入口の左右には、クマと狐が置かれている。
「壊してもいい?」
「やめぬか。諦めろ。英雄に祀られなかっただけでもよかったと思え」
そうなんだけど。
このクマがずっと残り続けると思うと、なんとも言えない気持ちになる。
すでにミリーラの町にも残っているし、わたしは諦めることにした。
説明したことがたくさんあって、グダグダ感があって申し訳ありません。
※次回の投稿は5日後の8月2日にさせていただきます。
※22時頃に投稿させていただきます。
※くまクマ熊ベアーコミカライズ外伝4巻の発売日が来週の金曜日の8月1日です。
よろしくお願いします。 詳しいことは活動報告にてよろしくお願いします。
※くまクマ熊ベアー10周年です。コミカライズを描いてくださっているせるげい先生のイラストとコメントをいただきました。
可愛いので見ていただければと思います。
リンク先は活動報告やX(旧Twitterで確認していただければと思います。)
※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。
※祝PASH!ブックス10周年
くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。
詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。
※投稿日は4日ごとにさせていただきます。(できなかったらすみません)
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)
お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。
【くまクマ熊ベアー発売予定】
書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)
コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)
コミカライズ外伝 3巻 2024年12月20日発売しました。(次巻4巻、2025年8月1日発売予定)
文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。