「はい、了解っす。ところで話は変わるんですけど、トレセン学園で最近とある事件が頻繁してるのをご存知ですか?そうですか、知りませんか。なら私が教えてあげますよ。そのとある事件っていうのはですね、ウマ娘の"孤独漏らし事件"です。ほら、この時期ってレースがほとんどないからトレーナーさんの出張が増えるじゃないすか?そうすると担当ウマ娘は一人取り残されてしまって、絶望の底に叩き落とされちゃうんすよ。そりゃそうっすよね。出張なんて他の女を見繕いに行く建前のようなもんだし、私達は捨てられたも同然だ。仮に運よくキープ扱いで生き残れたとしても、新しい女といちゃつく姿を砂っかぶりで拝む羽目になる。どっちに転んでも地獄でしかない。今すぐ窓ガラスをカチ割って飛び降りてしまいたい衝動にかられる。けど、それは許されません。担当契約を結んだあの日から私達の身体はもう自分のモノじゃないんす。私達の所有権はトレーナーさんにあるんすよ。だからあなたの許可なしに自分の身体をどうこうすることはできない。自分で自分を傷つける権利すら剥奪されてしまってるんすよ。何を言われようと、何をされようと、私達は笑顔でYESと答えることしかできないんすよね〜。……それをね、頭ではわかってるんすよ?でも、やっぱり、どうしても耐えられない。少しでもトレーナーさんの存在を感じたい。だからトレーナーさんの自宅に潜り込んで、毛布にくるまって匂いを嗅いでみたり枕に色々擦り付けたりしてみるけど、結局はただの独り善がり。今頃他の女とハメ散らかして楽しんでるトレーナーさんを想像しては、また孤独と不安が強くなっていくばかり。そんなこと繰り返してたらあとはもう、心と身体の崩壊っす。蛇口が壊れたみたいに全身の穴という穴からヒリ出せるもん全部ぶちまけ、ひたすら地面をのたうち回る。全てを出し切るまで自分の意思では止められない。時は経ち、出張も終わり新しい女を侍らせながら自宅に帰るトレーナー。玄関を開けるとそこには、(体液で)冷たくなって転がってる元担当ウマ娘の姿が……。これが最近頻繁してる"孤独漏らし事件"の全容です。被害者のウマ娘達は今もトレーナーが付きっきりで看病してるみたいっすけど、心の傷が深すぎて予断を許さない状況らしいです。起きては吐いて、漏らして、泣いて。トレーナーの手を握りしめながら眠りにつく。それをずっと繰り返してます。いつ治るのか見当もつかない。痛ましい事件すよね。初めて聞いた時、私、思わず吐いちゃいましたもん。"これ、私のことだ"みたいな気分になっちゃって、ゲロ以外に涙も鼻水もドバドバ溢れてきました。説明してる今だって身体の震えが止まらないんす。だって、こんなのあんまりですよ。私達ウマ娘はトレーナーさんに全てを捧げてるんすよ?花もはじらう年頃の乙女が毎日毎日死に物狂いでトレーニングして、化粧が落ちるのも構わずいっぱい汗かいて、酢昆布みてぇな匂いプンプンまとわりつかせながら必死に頑張ってるんす。なのにその結果がこれじゃあ、余りと言えば余りな仕打ちですよ。加害者の方々には今一度、我が身を振り返って、真摯に反省して欲しい。そして私達被害者女性の"心"に寄り添った今後の対応を期待します。それにしても私ったら本当ダメダメっすよね。想像しただけで身体が震えるとか、金ピカメンヘラ女に負け続けてた時から全然成長してないや。こんなザマでもし本当に"出張に行く"とか言われたら私どうなっちゃうんすかね?痙攣してカエルみたいにひっくり返るか、もしかしたらその場で息の根止まるかもしんないすね〜。ノーハンドでウマ娘ぶっ倒すとか完全犯罪っすよ。まぁ私のトレーナーさんはそんなことしないって信じてますけどね。だって、もう一度一緒にって。ずっと、ずっとずっと一緒にって。あの時約束してくれましたもんね?ねっ!?言いましたもんね?あの時の言葉信じてますからね?ねっ!?ある程度稼ぎ終わったからって、私からもう搾り取れなさそうだからって、手のひら返したりしませんよね?ねっ!?信じてますよ、私だけのトレーナーさん。ん?あれ?あれれ?どうしたんすかトレーナーさん!?顔色悪いっすよ!こんなに寒いのに額に汗まで浮かんでるじゃないすか!どっかで会話の選択肢でもミスったんすか?言葉は慎重に選ばないとダメですよ。人生にリセットボタンはないんですから。あ、そうだ。ハンカチもってるから拭いてあげますよ。使用済みのやつだけど……別にいいっすよね?大丈夫、汚いことはしてません。さっきまであなたの指示通り必死こいてトレーニングしてたから、大量の腋汗かいちゃって。それ拭いただけです。まだちょっとグッショリしてますけど、これくらいなら拭けます。……はい、綺麗になりました。じゃあこのハンカチは差し上げますから、私だと思って大事に待っててくださいね?いくら汗臭いからって、酢昆布の空箱と間違えて捨てるとかしたりしないでくださいよ?もし私に万が一のことがあったら、これが形見になる可能性だってあるんすから。その時はこのハンカチの匂いを嗅いで私のことを思い出してくださいね?匂いは一番記憶を想起しやすいんですって。香りが強烈であればあるほど効果覿面なんす!……なんか、急に縁起でもないこと言ってごめんなさい。ただ、ついさっき、トレーナーさんから衝撃的なこと言われたような気がしたんすよ。命の危機に関わるレベルっていうか。例えるなら金属バットをフルスイングで頭に叩き込まれた感じっていえば、分かり易いですかね。あれは確実に"獲り"にきてましたよ。とっさに防衛本能が働いたんで記憶が曖昧になっちゃってますけど、あの時感じた底知れない悪意だけは今も身体が覚えてるんすよ。……なーんて!トレーナーさんが私を傷つけるようなこと絶対言うはずないのにね?考えすぎですよね、私。でも、ほら。備えあれば憂いなしっていうじゃないですか。ヒトの気持ちなんていい加減なもんですし。だから念の為、私の匂いが染み込んだハンカチを渡しておくんすよ。えーっと、それで……何の話でしたっけ?さっき私になんて言ったのかもう一回教えてくださいよ。明日、なんでしたっけ?私を置きざりにしてトレーナーさんはどこに行くんでしたっけ?答えてよ、私だけのトレーナーさん」
「………」
「………」
「えっと……明日、は」
「はい」
「お、お出かけしないかなーって」
「私と一緒にですか?……それとも、他の女と?」
「シオンとだよ!シオンと二人っきりでだ!当たり前じゃないか!」
「ふーん。お出かけはもちろん行きますよ?当たり前っす。……でも、本当にその選択肢でいいんすか?あとで後悔したりしないすか?"やっぱりあの時息の根を止めときゃよかった"ってなっても、もう遅いっすよ?」
「そんな後悔する訳ないだろ!俺は(卒業まで)君とずっと一緒にいるって約束したじゃないか!」
「………なら、トレーナーさんのこと、信じます」
「よ、よかった。」
「でも、あの時の悪意を思い出してまだちょっと心臓がバクバクしてるんすよ。申し訳ないんですけど、気分が落ち着くまで背中をさすってもらえませんか?」
「お安いご用さ。さ、こっちへおいで」
「ありがとうございます。今から上半身裸になるんでちょっと待っててくださいね」
「うん。………え?ちょっと待ってくれ。い、今なんて言った?」
「裸になるって言ったんすよ。直接触ってもらわないと意味ないでしょ?」
「意味はあるだろ!?っていうかさすってもらう為に裸になるとか聞いたことないよ!脱ぐのはダメだ!」
「……なんですか、その言い方。誰のせいでこうなったと思ってるんすか?誰のせいで私が苦しんでると思ってるんすか?今はくだらねぇーこと拘ってる場合じゃないってどうしてわからないんすか?あ、ヤバい。トレーナーさんに否定されたせいで心臓がもっとバクバクしてきた。どうしよう、ヤバい。あっ、あっ!あっあっあっあっあっ!」
「う、うわー!悪かったよ!謝るから!頼むから落ち着いてくれ!」
「はい、了解っす。危うくカエルみたいにひっくり返る所でしたよ。じゃあ脱ぎますね」
「!?……うぐぅ…!」
「まずは背中。それと前もさすってもらいましょうか。今ので新たに精神的苦痛を負いましたから」
「前!?前って、つまり……おい!いくらなんでもそれは!」
「………」
「……シ、シオン?」
「また否定された。……あっあっあっあっあっ!」
「うわー!誰か助けてくれ!」
おわり
ウインバリアシオンの腋に顔を埋めて深呼吸したい。
感想もらえたら嬉シーナ。