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肉汁たっぷり! 外はこんがり、なかはジューシーにお肉を焼く秘訣

noteで人気の料理家、樋口直哉さん(TravelingFoodLab.)による科学的「おいしい料理」のつくり方。6回目のテーマは「お肉の焼き方」です。定番の「ポークソテー」を例に、外はこんがり、なかはしっとりジューシーに仕上げるコツをご紹介します。

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豚肉は生産者の努力のお陰で、昔よりもおいしくなった食材の一つ。品種改良の結果、肉質は緻密になり、脂肪のバランスもよくなりました。また、昭和60年頃からSPF豚(日本SPF豚協会が定めた基準に基づき飼育された、特定の病原体を持たない健康な豚)が普及した影響も大きかったと思います。SPFの目的は豚を健康に育てることでしたが、豚を衛生的な環境で育てることで、特有の臭みが減ることがわかったからです。

おいしい肉は焼くのが一番。昔の豚肉なら生姜焼きや酢豚などしっかりと味付けが立った料理もいいですが、今日は今時のシンプルなスタイルで、おいしい豚肉を味わいましょう。

ポークソテー

材料(2人前)
豚ロース肉 2枚(厚さ1cm〜1.5cm/1枚120g〜150g)
塩     肉の重量の1%
植物油   小さじ1
(市販のガーリックチップス) 適量

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まずは豚の部位の選択から。ポークソテーに使われる部位は一般的にヒレ、豚肩ロース、ロースの3種類。

ヒレ肉はやわらかいですが内臓に近いので特有の匂いがあり、味も淡泊なので今回は除外。豚肩ロースは安価で味も濃く、好きな部位なのですが、やや脂が多いので、今回は豚ロース肉を選びました。スーパーでトンカツ用として販売されているやわらかさと味のバランスがいい部位です。豚には国産と輸入がありますが、おすすめは国産。赤い肉のあいだに細かく白い脂肪が入っているのがおいしい豚肉です。

目指すべきは〈表面はカリッとして、なかはしっとり〉という仕上がり。

「豚肉にはしっかり火を通すべき」

とよく言いますが、実際には焼き過ぎると身が硬くなり、パサパサになってしまうので、火の通しすぎには注意する必要があります。

1.肉は脂身と肉の部分の境目に三カ所程度、包丁を入れる。

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*筋切りは最小限に
肉が薄い場合は筋を切らないと肉が反ってしまい、上手に焼けません。そこで筋を切る必要があります。時々、筋切りをすると肉汁がそこから出ていくのでしないほうがいい、という意見がありますが、肉汁はタンパク質が凝固するに従って、肉の水分が絞り出される現象なので、別に切っても切らなくてもある程度は流出します。肉汁の溶出と筋切りはあまり関係ありません。

とはいえ、必要以上に筋切りすると肉の形が崩れるので、最小限に抑えるのがベター。写真を参考に三ヶ所ほどで十分だと思います。包丁で切れない場合は先が尖った調理用のはさみを使うと簡単です。ポークソテーの定番の下処理には肉をやわらかくするために叩く、という方法もありますが、国産のロース肉の場合は必要なし。輸入豚肉の場合は叩いてもいいでしょう。

2.1%重量目安の塩を両面に振る。

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*塩を振ってから焼くまでの時間
塩を振った後の選択肢は以下の2つ。それぞれにメリット、デメリットがあります。

①塩を振ったらすぐに焼く方法
塩を振ってすぐに焼きはじめると、きれいな焼き色がつきます。焼き上げた肉を噛むと、ふっくらとした印象に仕上がります。デメリットは内部まで塩気が浸透しないこと。

②塩を振って30分以上置いてから、表面の水気を軽くふきとってから焼く。
塩を振ってから10分ほど置くと表面に水分が浮いてきます。そのまま焼くと水分が蒸発するのにエネルギーが使われるので、焼き色がつきにくくなります。

しかし、その状態で15分以上待つと、表面に浮いた水分が次第に肉に再吸収されていきます。塩を含んだ水分が肉に戻ったこの状態で焼きはじめれば、しっとりとした仕上がりになります。塩気が浸透するのもメリット。

塩が浸透するとタンパク質の一部が溶けます。それが肉汁を抱え込むのでやわらかく、ジューシー感も出ます。ただ、塩を振らない状態と比べると食感が変わり、やわらかいのですが若干、繊維感のある仕上がりになります。ハムの食感を想像してもらうとわかりやすいと思います。その他のデメリットは①よりも時間がかかること。今回は時間と食感を優先して、①の方法を採用しました。

3.植物油小さじ1を敷いた冷たいフライパンに脂身を下にした豚肉を置き、弱火にかける。脂身を焼く目安は5分。

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*脂身は火の通りが遅い
脂身の部分は肉よりも調理に時間がかかるので、先に焼くのがポイント。脂を落とすことで、仕上がりもさっぱりします。また、溶け出した脂がフライパンと肉のあいだに入り、焼き色も均一になります。

火加減は弱火です。強い火で加熱すると脂の内部まで火が通る前に、表面が焼けてしまうからです。

4.脂身に焦げ目がついたら最終的に表になる側から焼きはじめる。ここで火を中火に強める。

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*メイラード反応が進む温度がポイント
焼きはじめるとフライパンの表面温度が下がります。豚肉からパチパチと音がするのは水分が蒸発している証拠なのですが、水分は蒸発する際に周りの熱を奪っていく(気化熱=夏場の道路に打ち水をすると涼しくなる原理です)からです。

弱火のままだと表面の水分が蒸発されずに煮た状態になってしまい、その水分が飛んで焼き色がつく頃には豚肉に火が入りすぎてしまいます。ソテーした豚肉のおいしさはカリッと焼けた部分のメイラード反応。そこで、フライパンの表面温度をメイラード反応が進む177℃前後以上まで上げるために、火を中火にします。

きれいな焼き色がつく表面温度の目安は180℃から200℃。温度計がなくてもジュージューと美味しそうな音が出て、きれいな焼き色がつけば適温とわかります。時間の目安は2〜3分程度。煙が上がるようであれば温度が上がりすぎなので、火を弱めましょう。

5.焼き色がついたら裏返し、火を弱める。

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*裏側はよく焼かなくても大丈夫
裏返したら火を弱めます。裏側は1分ほど焼くだけで、あまり焦げ色をつけなくても大丈夫。両面に焦げ色がついた頃には豚肉に火が通り過ぎ、水分が飛んでしまってジューシー感がなくなります。

焼き加減の判断は指で触ってみて、生肉とは違う弾力があること。トータルの焼き時間は10分未満のはずです。焼きすぎにはくれぐれも注意してください。

6.バットにうつして、アルミホイルをふんわりとかける。

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*予熱を使って中心温度をコントロール
火からおろした後も表面の熱が内部に伝わるので、加熱は続きます。予熱を使ってゆっくりと温度を上げるのも火を通しすぎないコツ。

ただ、アルミホイルで完全に包んでしまうと蒸らされた状態になってしまい、表面のカリッとした感じがなくなるので注意。あくまでふんわりとかけて、蒸気は逃がすようにしましょう。

焼き上がったばかりの肉を落ち着かせることで肉の保水力が上がり、切り分ける時の肉汁の損失量も減ります。

7.切り分けて、皿に盛り、ガーリックチップスを添える。

今日は包丁で適当な大きさに切り分けました。食べる人が切る形でもいいのですが、豚肉は牛肉と違って肉汁が流れやすいので、包丁で切ってしまったほうが、おいしく食べられると思います。もちろん、よく切れる包丁を使うのがベター。

ちなみに肉を休ませた時に肉汁が出ているはずです。これは極上のソースになるので決して捨てないようにしてください。ソースとしてかけるか、後ほど紹介するトマトソースに入れます。

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肉は常温に戻す必要はない?

さて、あらゆる料理本には「肉は焼くまでに常温に戻しておく」と書いてあります。僕自身も色んなところで書いたり、話したりしてきましたが、実は最近、これくらいの厚みの豚肉には必要ないのではないか、と思っています。

根拠は以下の通りです。

肉を室温に出しておく目的は『生焼けを防ぎ』『加熱ムラをなくす』の二つ。今回、冷蔵庫から出したての豚肉の中心温度を計ってみると6℃。多くの料理本が「20分前に肉を出しておく」ことを推奨しているので、10分間隔で肉の中心温度を確認しました。

10分経過……中心温度10℃
20分経過……中心温度13℃
30分経過……中心温度16℃

料理本で推奨されている20分では温度の変化は7℃ほど。室温が20℃前後と仮定すれば、これ以上置いても20℃までしか上がりません。20分常温に置くことで、中心温度60℃を目指す場合、加熱時間を10%ほど短くできる計算ですが、逆に言えばトータルの焼き時間が10分だとするとたった1分の違いです。

さらに中心温度6℃の肉と16℃の肉を同時に焼いてみると、「中心温度は両方とも73℃」でした。計算では10%ほど長く焼かなければ同じように焼けないはずですが、差はほとんどないという結果です。

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加熱ムラについても差はほとんどなく、同じような仕上がり。最初の室温に戻す温度上昇分よりも、後からの加熱の影響のほうがずっと大きいのです。結論としては1〜1.5cmの豚ロース肉の場合、常温に戻しておく必要は特になく、そのまま焼きはじめても特に影響はないと言っていいでしょう。

肉の塩気を和らげるフレッシュトマトソース

今回は肉の重量に対して1%の塩を振りました。塩気がやや強めに感じられる人もいるかもしれませんが、塩味は「ジューシー感」に影響するので控えすぎるのも注意。

食品科学の世界ではジューシーさは2つの段階に定義されます。一つ目は「食べ物を口に入れた瞬間に感じる水分」です。これは肉自体に含まれる自由水の量に影響されます。二つ目は「噛むほどにあふれ出てくる水分」。こちらは肉の脂肪と風味が唾液の分泌を刺激することによって生じます。

二つ目の段階で鍵になるのがメイラード反応と塩の量です。低温で焼いた肉よりも高温で焼いた肉は、水分蒸発量が多くなりますが、それでも高温で焼いた方がジューシーに感じられるのはメイラード反応がより起きているからですし、塩は唾液の分泌をうながすので、よりジューシーに感じられます。同じ牛肉を使ってもローストビーフよりも焼肉のほうがメイラード反応がより起きます。つまり、焼肉のほうがジューシーというのは体感として理解しやすいと覆います。

肉の塩気が強いと思ったら、塩気を控えるよりもそれを和らげるソースを添えるのがおすすめ。次に紹介するのは今の時期にぴったりのフレッシュトマトソース。

フレッシュトマトソース

材料(2皿分)
トマト  2個
酢(ワインビネガー又は米酢)  小さじ1
パセリのみじん切り  適量(又はバジルのみじん切りや大葉のみじん切りでもOK)

作り方は簡単。まずはトマトのへたをとります。トマトのへたを取るときは、包丁の先を差し込み、トマトを回すようにします。

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へたをとったトマトを8等分の櫛形に切ります。

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さきほどの肉を焼いたフライパンの脂を捨ててから、トマトを加え、中火で加熱していきます。あまり長く火にかけると崩れるので注意。トマトが温まり、表面が少し溶けるくらいが目安です。トマトが甘いので酢の酸味を少し加えてバランスをとります。肉に塩気があるので、塩は不要。

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仕上がりにパセリかバジル、大葉のみじん切りで、緑の香りと色を添えます。できたらさきほどの肉を休ませている時に出てきた肉汁も加えます。

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肉にかければ出来上がり。夏の時期ならではのフレッシュ感がうれしいソースです。柚子胡椒で辛みを加えてもおいしいです。

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リブ側の肉を焼いたときのことは別のnoteに書いています。ガーリックチップスの作り方も紹介しているので、参考にしてください。

いろんな産地の日本の豚肉を食べてますが、どこも美味しいですよね。輸入の豚肉も安全性などを含めて優秀なのですが、どうしても国産贔屓になってしまいます。値段もそれほど変わらなくなってきているので、試してみてください。

ちなみに現在一般的な豚肉はLWDという3元交配をされたものが主流ですが、

僕が好きなのは岩手県のアーク牧場の豚肉です。ここで育てられている豚肉は​バブコック・スワインという種類の豚で、これが抜群においしい。機会があったら食べてみてください。

参考文献

マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで- ハロルド・マギー著 香西みどり他訳 共立出版
『豚の改良増殖をめぐる情勢』(農林水産省生産局畜産部畜産振興課)

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樋口直哉 作家・料理家 主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)料理本『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)など。新刊は『料理1日目』です!
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