「大好きな友に『面白い友達』と思ってほしくて、デイリーポータルに記事を書く」佐伯さん
佐伯さんは2022年から「デイリーポータルZ」に参加した、現在27歳のライターです。読者投稿で届いた最初の記事の完成度が高すぎて即採用。「有名なライターが偽名で送ってきたのでは」と編集部が騒然としました。
でも実は、「デイリーに書き始めるまで、文章を発表したことがなかった」そうです。なぜそんなに書けるのか。27歳なのに好きな漫画が「奇面組」なのはなぜ。記事によく登場する友だちの「加藤さん」とは……?
佐伯さんの真の姿に迫ります。
(取材/林雄司、石川大樹、取材・構成/岡田有花)
発信しよう! という社交性はない
林 デイリーを読み始めたのはいつごろですか?
佐伯 もともとWeb記事が好きで、大学生の時に『オモコロ』を読んでいました。デイリーは社会人になってから読んで。社会人になっていっぱいいっぱいだったので、オモコロより胃に優しい感じを求めていたのかもしれません。
林 佐伯さんは、最初から文章がうまくて驚きました。もともとどこかに書いていたのでは?
佐伯 いえ、どこにも書いてないです。発信しよう! という社交性みたいなのはなかったですし、今もそんなにないし……。知ってもらおう、という気持ちがない。
大学を卒業し、社会人になって2年目ぐらいに「社会人は、家と会社の往復が主なんだ」ってふと気づいて、他のこともやろうかなって思ったのが、きっかけの一つではありますね。かといって、やりたい習い事もなかったし、だったら好きなことをやってみようかな、と。
大好きな友だちに忘れられたくなくて書く
佐伯 「友達にウケたい」みたいな気持ちはずっとあって。友達のことがめちゃめちゃ好きで、友達の中で一番面白い友達でありたいみたいな欲は、めちゃめちゃあります。
社会人になって、友だちとあまり会えなくなって、自分の存在を忘れられたら嫌だから、会えていなくても「頑張っていますよ」ってアピールをしておきたいという気持ちはありました。
友達にとって面白い友達でありたいだけで、いろんな人にとって面白くなりたいわけではない。不特定多数にウケたい気持ちはないですね。いろんなが人いますし、誰にとっても面白い存在は、自分じゃなくてもいいかな、って。
林 大好きな友だちは、いつも記事に出てくれる加藤さん?
佐伯 はい、加藤もその一人です。
林 佐伯さんの原稿は自分の視点から発信している。でも「広く伝えたいことはない」とは意外です。
佐伯 矛盾しているとは思います。自分のことを話したいわけじゃないけど、自分のこと以外に話すネタがあまりない。それって、自分を切り売りして先がないんじゃないかとか……。もうちょっとネタを見つける力がある人の方が続けられるんじゃないかなって、若干思いつつ……。これからどうなってしまうんだろうと悩みます。
林 佐伯さんは「紙の本を出したい」という願望はありますか? 昔は「ライターになって、原稿をまとめて商業出版で本を出したい!」っていうギラギラした若者がいましたが、ここ10年ぐらい見ない気がして。
佐伯 商業出版で出したいとかは、ないですね。でもZINEは出してみたいなって思って、この前の文フリで出しました。
林 全編手書きの荒々しい同人誌でしたね。傑作。あれ、クラスの面白い友達が回してくるやつですよね。
奇面組と男性アイドルの共通点
岡田 友だちにうちわを振ってファンサしてもらう企画なんかも、新鮮で面白いですね。
佐伯 オタクの界隈ではよくある発想な気はします。高校生のころから男性アイドルグループが好きで、その渦中で書いたものなので。
私のアイドル好きの根っこには「奇面組」がある気がしますね。5人組とかでわちゃわちゃしている男の子がすごいいい、って気づいたのは、奇面組がきっかけでした。
林 奇面組がアイドル!
佐伯 自分にはそうです。ギャグ漫画としてもすごく好きですが、アイドルを好きになるずっと前から奇面組が好きでした。
小さいころ、流行りの漫画をあまり読ませてもらえなかったんです。テレビやアニメもあまり見られず。私は第一子なので、母も肩に力が入っていたと思います。私は反抗しないし、ダメと言われたら素直に聞いていて。小さいころ見てた世界は狭かったかもしれません。弟は結構テレビを見ていました。
小学校高学年から中学ぐらいで、周りの子たちが読んでた『黒子のバスケ』とか、女性ファンの多い少年漫画の存在に初めて気づきました。その後『ヘタリア』とかにハマって、いわゆるオタクの中学生でした。その後高1ぐらいで男性アイドルにハマりました。
小1でしりあがり寿『O.SHI.GO.TO』読み聞かせられ
岡田 奇面組の漫画はおばあちゃんのお家にあって、小学生のころ読んでいたんですよね。
佐伯 はい、母の実家に途中の巻までありました。おばあちゃんの家って暇なので、「読んでていいよ」と言われて読んで、「こんなに面白い漫画があるのか!」と衝撃を受けました。帰省するたびに2、3冊借りて持ち帰って読み込んで……それを繰り返して、めちゃめちゃ読んでいましたね。
佐伯 母の影響は大きいかもしれません。小1のころ寝る前に、しりあがり寿さんの『O.SHI.GO.TO(オ.シ.ゴ.ト)』という漫画を読み聞かせしてもらっていました。絵本は卒業して、でも漢字は読めないころ。高野文子先生の『るきさん』も読み聞かせてもらった思い出があります。
林 『O.SHI.GO.TO』って読み聞かせできるんだ……。『動物のお医者さん』もリアルタイムじゃないですよね。
佐伯 はい。それも母の実家にあったものを読んで。佐々木倫子さんの漫画は図書館にもあったので借りて読んでいました。でも今は、図書館からなくなってしまって。
肉体を出したくない
岡田 プロフィール写真のオリジナリティがすごいです。顔を隠す方はよくいらっしゃると思いますが、土下座みたいな格好は新しい。
佐伯 顔を出さないのは逃げなんじゃないかなって思いますが……。南池袋公園の芝生の上で、ゴロゴロ寝転がって丸まっていた時に撮ってもらった1枚ですね。プロフィール写真が必要だったので公園に行って、トランシーバーの記事で協力してくれた友達の松田に撮ってもらいました。南池袋公園に行くといまだに、この写真を撮ったときのことを思い出します。
林 佐伯さんの年代だと、テキストのサイトより動画を見る人が多いイメージがあります。佐伯さんはどうですか?
佐伯 動画の方が見ますね。
林 そうなんですね。動画じゃなくて文字を書こうと思ったのはなぜですか?
佐伯 あんまり目立ちたくないのと……動画だと生々しい気がして。肉体を出したくなくて。あと、私あんまりアドリブが効かないので……。動画はある程度台本を作ったとしても、アドリブが必要で、後から作り込みができないですよね。テキストだったら、作り込んで完成させたものをお出しする形なので、アドリブもいらない気がして。
岡田 自分自身を出したくない気持ちが強いのはなぜですか?
佐伯 なんだろう……インターネットはちょっと怖い、っていう気持ちはあります。みんな最近、全然顔出ししてますけど、なんで怖くないんだろうと思うことはありますね。
林 顔を出して「佐伯さん面白いですね!」ってみんなに言われたいわけじゃない。
佐伯 言われたら嬉しいけど、でも、友達一人に面白いねって言われた方が嬉しいです。顔の見えない不特定の何十人、何百人に「面白いですね」って言われるよりも、「自分がこの人すごく素敵だな!」って思う人……友達に面白いって言ってもらえた方がいいから。
岡田 友だちだけに直接文章を届けるのではなくて、デイリーポータルという場で不特定多数に公開しているのはなぜでしょう。
佐伯 そこは唯一、我(が)が出た部分なのかもしれない。一人にだけ見せればいいけれど、いろんな人に見せた方が、「次も書こう」っていう気持ちにはなるんですかね。締め切りがあったりとか、「月1で書きましょう」っていう約束があることによって書き続けられてる部分はめちゃめちゃあると思うので。
岡田 書き続けたいっていう気持ちも同時にある。
佐伯 書き続けたいけど、いつまで楽しいのかわからないなあ、突然嫌になったらどうしよう、みたいな。常に不安はあります。
全てにおいて、破壊衝動じゃないですけど、「突然今、机をひっくり返したらどうしよう」みたいな、「突然嫌になっちゃったらどうしよう」みたいな。
岡田 不安感で砂丘に逃げてましたもんね。
「本当に自分が書くんだろうか?」といつも思う
岡田 書くときに悩むことはありますか?
佐伯 まず「本当に自分が書くんだろうか?」っていうところから始まって……自分のことが基本的にあんま信じられないので、「どうしよう」って思いながらとりあえずやって、「本当に自分が書いたんだろうか?」って思うところまでが、毎回のワンセットなので、
林 「これ私がやるんだ?」って疑問に思うんだ。
佐伯 そうですね。「本当に私に言ってる?」みたいな。昨日の自分と今日の自分が同一人物だと思えないみたいな感覚って、よくあるじゃないですか。それに近い感じで。「ほんとに自分がキーボードを叩くんですか?」って毎回思っています。
林 「デイリーポータルで書いてるって、嘘でした」って急に言われたら、はいそうかと思える、みたいな。
佐伯 はい。毎回記憶もないし、実感を伴ってないから、褒めていただいても、本当に自分のことなのかな、って。褒めてもらった箇所も、どうやって書いたかあんまり覚えてないから、「次またそういう感じでやろう」みたいなふうにもなれないし、あまり積み重ねがなくて。
林 「前みたいなやつでお願いします!」って言われても……。
佐伯 それを書いたのは私じゃないかもしれない。どうやって書いたんだろうって……。
石川 確かに、佐伯さんの原稿を見ていて、毎回違う感じはあるんですよね。
佐伯 皆さん、どうやってるんだろう、どういう心境で書いてるんだろうって思っています。
最近、会社が潰れて求職中
林 ふだんはどんなお仕事をされているんですか?
佐伯 それが……最近会社が潰れちゃって。お洋服を売ってたんですけれど、いまは求職中です。「お店、けっこう暇だな」って思っていたら、潰れちゃいました。
岡田 そ、そうですか! ではこの機会にいっぱい記事を書いてはどうでしょうか。
佐伯 記憶がリセットされる前に書く……。やったことがないですけど、確かにそうかもしれないですね。
岡田 仕事をしている記憶はあるんですよね。
佐伯 はい。記憶はありますけれど、休みが続くと忘れちゃいますよね。3連休の後「本当に私が行くんですか? なんで?」って、記憶喪失みたいになって。私が売るの? みたいな……。私が働いてたなんて、本当に信じられないと思います。
岡田 リセット力が高いですね。
佐伯 みなさん書き方は忘れないんですか?」「どうやって書いてたんだろう」ってなりません?
岡田 そうですね……確かに、月1の連載だと書き方を忘れて、前の記事を見に行くことはあります。
佐伯 そうですか! よかった。

