冷蔵庫からタワシまで、家のすべてを「ぬいぐるみ」化するとりもちうずらさん 創作の原動力は「モノを機能から解き放ちたい」
「部屋にあるものを全部、ぬいぐるみにしたいんですよ」
デイリーポータルZライターのとりもちうずらさんは、迷いなく言う。
とりもちさんは、電子レンジや冷蔵庫から、書道セット、Nintendo Switch 2まで、あらゆるものをぬいぐるみ化してきた。
だが、まだまだ足りないそうだ。「ひと部屋にあるものが仮に3000個とした場合、毎日1個作っても300個。10年はかかります」。何部屋分も作るとなると、何十年もかかる。
死ぬまでに完成させられるのかが不安で、毎日作り続けている。完成まで元気でいるために、ジムで毎日運動する。
「ぬいぐるみの家を完成させること」を中心に生きているのだ。
なぜそんなに、ぬいぐるみにこだわるのか。とりもちさんの謎に迫る。
(取材:石川大樹/岡田有花、構成:岡田有花)
「モノを機能から解き放ち、捨てられない存在にしたい」
――「家のモノを全部ぬいぐるみにしたい」のはなぜですか?
物って、捨てられるじゃないですか。家電もiPhoneも……最新のものでも、壊れたら捨てられる。家電を見ると、いつか捨てられる運命が透けて見えるから切ないんです。
でも、機能を捨ててぬいぐるみ化したら、存在そのものを愛してもらえる。だから、役に立たなくすることで捨てられないようにして、ただ存在を愛でたい。機能から解き放って、実用じゃなくしたいんです。
家電に限らず、日用品とか、捨てられるものは全部。
――なるほど……。家電や日用品のぬいぐるみを作り始めたきっかけは?
とりもち: 最初は職場のヒーターでした。職場で、ヒーターの前にいるのが好きで。ヒーターがついてなくても落ち着くから、定位置みたいにそこにいて。あの存在感が家にもあるといいな、夏でもあったらいいなと思って、ヒーターのぬいぐるみを作りました。
――同じ型のヒーターを買って家に置くのではダメだったんですか?
それだと機能があるから。機能があると、壊れたら役に立たなくなって、捨てられる可能性がある。命があるっていうか……。だから、機能がない方がいいんです。ずっと愛でられる。
家電だったら私が死んだあとに捨てられる可能性も高いじゃないですか。でも、ぬいぐるみだったらもしかしたら、かわいがってもらえる可能性があるかなって思うんです。
――永遠の命を与える、みたいな。
そう。
――確かに、ぬいぐるみって、すごく捨てづらいでですよね。「家電をぬいぐるみにする」というシュールな面白さを狙っているのかなって思ってたんですけど、そうではなくて「可愛い」「愛でたい」という感覚。
そうです! 可愛い。
家のモノは全部ぬいぐるみにしたいから、サイズは実物大がいいですね。家電も実物を買って、それをモチーフに作るのが理想。でも、炊飯器とか、ウチに必要がないものもあるので、量販店にメジャーを持っていって実測したりして作っています。
「ぬいぐるみだけの家を作る」夢に向かって
――とりもちさんは1日1個ペースで作られていますし、イベント出演など別の仕事もされていて、すごく忙しそうです。原動力は何ですか?
「ぬいぐるみだけの家を作る」夢があるから、その実現のために作っています。1回決意しちゃえば、実現できるっていう自信があるんです。
ひと部屋の中のモノがどれぐらいあるのか、ChatGPTに一度聞いてみたら「3000個ぐらいって出てきて。全部作らなきゃいけない。毎日1個作っても300個だから1部屋に10年かかる。だから毎日作らないと、80歳ぐらいで完成できるのかなって。だから、ちょっと焦ってるっていうか。
――作りたいのは家の中のものですか? それとも、家の建物までぬいぐるみで?
できたら建物も作れるといいんですが、スペースや材料・空間が必要なので……でもそれさえあれば作れなくはないと。
手で縫うことが一番楽しい
――ぬいぐるみはどうやって作っているんですか?
まずウレタンを、作りたいものの形に合わせてカッターで切り、ハサミとかできれいに整えます。その上に布をかぶせて、表から縫い合わせていきます。
表から布を載せるこの作り方は、新卒で働いていた人形劇団で学びました。裏から縫った布を型(綿など)にかぶせる一般的な作り方だと、型紙が必要で難しいんですが、この作り方なら原理的に何でも作れちゃうので、教えてもらったときに感動しました。
――一番楽しい作業はなんですか?
手で縫うことが一番楽しいかもしれない。作業が単純に楽しいですね。完成したら縫えなくなってしまうから、完成が近づくと、「あと3時間ぐらいで楽しい時間が終わっちゃう」みたいな惜しい気持ちになる。布をかぶせる型はまとめて削ってストックしておいて、一気に縫えるようにしています。
ミシンも持っているんですが、ミシンでぬいぐるみを作ろうとすると、型紙がないと難しくて。
――製作過程でいろいろな道具を使うと思いますが、一番気に入っている道具は?
指抜きですね。金属の指輪みたいな形で、手縫いの時に、針の頭を強く押しつつ、針が指に刺さらないようにする道具です。これがないと縫うことがめちゃくちゃストレスになります家用とアトリエ用で1つずつあります。
――作業が快楽なんですね。完成したときの達成感とか、作品の写真がバズったり、記事が読まれたりする喜びより上ですか?
バズったりするのも嬉しいですし、見てくれてる人がいるから作るっていうのもありますが、完成した喜びはそんな長く続かないから、縫っている時間のほうが長いし、楽しいかもしれません。
――嫌いな作業はありますか?
革とか、硬いものを縫うのはちょっと嫌です。あと木を切るのがめちゃくちゃ嫌。疲れるし、家ん中だと音が響くから。
でも締め切り間際で「今日作んなきゃ!」っていう時は、深夜に公園で、人に見つからないように切っています。できれば全部ぬいぐるみで作りたいです。
妖怪はこれからも増える
――とりもちさんといえば「妖怪」のイメージも強くあります。「化けわらじ」や「いわな坊主」のぬいぐるみを作ってイベントに出られていますよね。もともと妖怪好きだったんですか?
いえ。最初は「妖怪コンテスト」に出るために作ったんです。そこから妖怪も好きになって。
――とりもちさんの制作活動の中で、妖怪の割合も大きいそうに見えますが、あくまで制作活動の一つであると。
そうです。でも妖怪は今後も増え続けると思います。いま、自宅の一室の半分くらい、妖怪で埋め尽くされています。妖怪部屋になっちゃってる。
りんたろうくんに妖怪を信じてほしくて
――記事には「りんたろう君」という小さな男の子が時々登場しますね。
もともとは友達の友達の友達のお子さんでしたが、今は友達です。友人がりんたろうくんに会いに行くために滋賀に行った時について行かせてもらったのが始まりです。その時に「妖怪として」会いました。
――なぜ
純粋に、妖怪の存在を信じてほしくて。
――今も妖怪として会ってるんですか?
いえ、人間としても会ってるんで。人間と妖怪の変わり目は一応ぼかしてるんですけど、来年小学生ぐらいなので、分かってきているかも。でも、はっきりとは言ってこないです。
――サンタさんみたいですね
二宮金次郎を背負って外出しても、全く恥ずかしくない
――自撮りにまったく恥ずかしさがないそうですね。
以前は恥ずかしかったかもしれません。新卒で人形劇団に就職した時、「サルの帽子を被って人前に出て」って言われて超イヤでした。でも2年目ぐらいから全然できるようになって。劇団って、前座でちょっとした漫才とか南京玉すだれとかをやらなきゃならなくて、慣れました。
恥ずかしさよりも「無事終わってくれ」って必死でした。急に「尺が15分足りないから、なんとかして」って振られたりして。その時は「U.S.A.」が流行ってて、それをやれば小学生にウケてたから「U.S.A.に頼ろう!」ってなって。「クリスマスソングを弾きたい歌のお姉さん」と「U.S.A.を歌いたい歌のお姉さん」っていうコンビで15分をクリアしたりして。
スベっても何も感じなくなってるっていうか......「無事終わってくれ」の方が強い。
――デイリーの記事でも、二宮金次郎を背負って駅から帰ってたりしていましたが、ああいうのとかも抵抗がない、と。
はい。あまり何も思わず、普通に移動としてやってます。
私としては逆に、デイリーの他のライターさんたちが恥ずかしいと思いながらやってるんだということが衝撃で。江ノ島さんも恥ずかしいって言ってて。犬になってフリスビーを取る企画とか、恥ずかしいって思ってやってたらちょっと見方変わってきちゃうな。
でも、ぬいぐるみ制の様子を動画で撮ってYouTubeで上げようと思った時は「はい、じゃあ作っていきます」みたいなことを言うのは、恥ずかしすぎてできなかった。虚空に向かってテンションを上げて喋るのが超恥ずかしすぎてできなくて。今は無音の制作風景にテロップだけ出つけてます。
高卒フリーター、1年で美大に受かる
――美大卒だそうですね。
高3の時にやる気がなくて、受験も就職もしなかったんです。美術部にも一応入っていましたが幽霊部員みたいな感じで。当時の記憶があんまりないんですよね。進学するなら美術系で、着物の染織を学べる専門学校か美大と思っていたんですが、親に「一切お金を払わない」宣言をされて。
何も考えずに卒業して、1年間、病院の調理補助みたいなのをやっていました。早朝に、100人前、りんごをウサギ切りにするみたいな。朝5時から10時ぐらいのバイトで、朝起きるためにこのバイトを選びました。
そのバイトのヘルプで遠く行く機会があってバスに乗った時に、絵画教室のポスターがあって。「美大受験生も募集してます」みたいなことが書いてあって。絵も物作りも好きだったので、バイトしつつ絵画教室に通ってみようと。
美大予備校とかではなく、小学生から年配の方まで通う一般的な習い事教室で、月1万円程度だったのでバイト代でまかなえました。高卒2年目から、朝にバイト、夜に絵画教室に行っていました。毎日。
――すると、1年の受験勉強で美大に受かったんですね。美大の受験は、絵だけですか? 他の科目も?
国語と英語と小論文がありました。絵画教室に通っていた方に英語塾やってる先生がいて、週1とかで、絵画教室行く前にミスドで集合して教えていただきました。激安で。
英語は本当に忘れていて、中1英語ぐらいからやり直しました。センター試験も受けなきゃいけないから、他の勉強も一応しました。小論文は美大予備校の夏季講習だけ行って。美大予備校で、実技をやらずに座学だけ。
1年間、バイト以外やることがなかったので、美大受験を目標にしたら、やることができてよかったです。バイトだけやってる時は、昼に帰ってきて映画とかを見て、図書館に行くみたいな生活だったので。
――美大は学費が高いと聞きます
いろんな人に聞きまくったら、「入学までに100万貯めれば、あとは奨学金とかいろんなルートがあるから、なんとかなる」って言われたんです。じゃあとりあえず100万貯めればいけるって勝手に思って。
繊維系の学部がいいなと思って受験しました。繊維素材は柔らかいから。ガラスとかって割れるし、陶芸家は、投げてバーン! ってやるイメージもあって怖い。金工は、手についたら危険な液体とかを使ったりするから危険。だから、一番怪我をしない布かなって。柔らかくて、ぎゅっと握ったら手の形に沿う柔らかさが魅力的で。
――1年の勉強で2校に受かったそうですね。
多摩美術大学のテキスタイル科と、武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科に受かりましたました。武蔵美を選んだんですが、テキスタイルは多摩美の方がいいと言われていて、倍率も高かった。
両方受かったらみんな多摩美に行くらしいんですが、武蔵美だと、一年生で陶芸とか木工、金工、ガラスとか、色々できるんです。それがすごく魅力的で、そっちを選んでしまった。
1年生の時に、切り株をモチーフに何でも作っていいと言われた時、クラフト紙で壁から出っ張った木を作ったんです。そのとき初めて、立体的なものや舞台美術に近い感じの方が入っていけるなってちょっと思いました。
3、4年は専門分野のテキスタイルをやりました。色の勉強とか染め織り、機織り、友禅染めとかの基礎をやり、その後は自分で作りたいものを作るという感じで。
大学で「ぬいぐるみで遊んでくれる人たち」に出会う
――人形劇サークルに入ったんですよね
大学のキャンパスに、人形を持って歩いてる人がいて。ついていきました。古典や児童文学の人形劇を上演するサークルです。
ぬいぐるみは小学生の頃からめちゃくちゃ好きなんですけど、中学生ぐらいから遊んでくれる人いなくなるじゃないですか。「ぬいぐるみで遊ぶ人いないな」と思って……。
でも人形劇サークルで、また遊んでくれる人たちが現れた。
――え、どういうことですか?
部室に人形やぬいぐるみが置いてあるので、普段の会話でも、そこに人形があったらそっちでしゃべってくれたりとか。本当にずっと遊んでくれるんですよね。
――ちなみに、卒業制作は?
卒業製作は、綿の布をポリエステルの糸で刺し子みたいにいっぱい縫って、綿だけが焦げる液体を塗って焦がしてボロボロにして、ポリエステルの糸だけ綿と一緒にちょっとずつ残るみたいな、ボロボロの布みたいな作品を作りました。
就職先はスリッパ占いで決めた
――人形劇団に就職したんですよね
就職をどうしようとなった時、歌舞伎の小道具の会社と人形劇団の内定を4年の夏ぐらいにもらって。めちゃくちゃ迷ってたんですよ。3月末まで半年ぐらいずっと。
歌舞伎の方は、舞台用の軽いヨロイを作る仕事で魅力的でした。生活は最低限はできる給料はもらえるけど、月に2日、徹夜があるって言われ、それが嫌すぎて。人形劇団は人形づくりから役者、営業も全部やる。楽しそうだけど、じり貧生活になることが分かっていた。
最終的にはくじで決めました。スリッパを投げて。
――どんな仕事でしたか?
事務所に毎日行って、人形を作ったり、上演の稽古をしたり、小学校や幼稚園、劇場での上演に行ったり。
――忙しそう。徹夜もありそうですね。
そうなんです。「本番1週間前に一切何もできてない」なんて時もあり……仕事は決まっているけれど、台本も上がってなくて美術も何もできてない、みたいな。そういう時はずっと作り続けつつ、稽古もして。
大変だったけど楽しかったですね。大学のころは趣味、サークルでやっていたことが仕事になったというのはすごい嬉しくて。好きでやってたことでお金もらえるのは。わずかな給料ですが。就職して、途中までは実家から通い、途中から一人暮らしになったんですけれど、一応暮らせました。
近所の人に来てもらうお正月公演があり、近所の人とも仲良くしていて。劇団が貧乏なのは近所の人も分かっているので、いろんなものくれるんです。大量の唐揚げや、ごはんを持ってきてくれたり。あと、劇団のファンの方たちが服をくれたりとかするんですよ。
「お金ないだろうな」って思われてるのか、選挙のうぐいす嬢のバイトを近所の人があっせんしてくれたり。その日は劇団の休みの日じゃなくても、「うぐいす嬢バイトに行っていいよ」って会社もいってくれて。副業OKです。
劇団のころは「馬車馬時代」と呼んでいます。 馬車馬時代、3年続きました。で、ちょうどコロナの時に、めっちゃ暇になって。その直前に「大学の助手の席が空くからやらないか」と、母校から連絡をいただいて。2020年の4月から大学に行くことになりました。
大学の教員経験も
コロナでちょうど仕事なくなるタイミングだったんで、「じゃあ行きます」って言って。コロナの間、劇団は何も仕事なかったみたいです。暇すぎて、マスク作って売ってたらしい。
――大学の助手っていうのはどういう仕事をするんですか?
教授の補佐みたいな感じで、朝行って、学生が来てるか出欠を取って、授業のモチーフを準備したり、モデルさんを手配したり、授業を円滑にする仕事です。
学生に「あと1回休んだらやばいよ」「この講義、再履修はないからね」とかちょっと脅す感じでいさなきゃならないこともあったけれど、キリッとするのが苦手で。笑わないで怒るっていうのが難しかったです。
でもコロナで大学も休講になっちゃって。1年間、授業準備しつつも、実際の授業はできないみたいな。夏過ぎぐらいからオンライン講義が始まるんですが、それまでは私も研究室にいて、棚とか見てた。みんなパニックだから仕事もそんなに振ってもくれないし。で、暇すぎてブログ(note)を始めました。
乙幡さんみたいになりたくて、デイリーに参加
デイリーポータルZを知ったのは、劇団時代に、ライターの乙幡啓子さんの本「妄想工作」を読んだことがきっかけです。これ(工作)を仕事にしてる人がいるんだって、衝撃だったんですよ。すごい憧れて、私もこういう感じになりたいって思ったんですよね。
それから職場のお昼休みに毎日デイリーを見てたんで、投稿のコーナーがあるのも知っていて。コロナのころにせっかくブログを始めたので、その記事を投稿したっていう感じですね。
最初に書いたのが「石を展示すると価値が生まれる」。拾ってきた石を美術館のように展示したり、木箱に入れて出土品みたいにしたりする記事を書いて。それが入選して、Webマスターの林さんが「また書いてくれますか」ってコメントをくださったんで、それ鵜呑みにして、また書いて、ずっと投稿していました。
そのころは(ブログ記事などの投稿で)5回入選したら、デイリーの記事を1つ書けるというルールだったので、それを目指して10回とか投稿して、5回入選して、デイリーのライターになりました。
5回入選すると記事を執筆できる仕組みだったため、それを目指して1年ほど投稿を繰り返して、正式にライターとして執筆を始めました。投稿していたころは、毎週水曜午後4時に入選が作品が発表されていたので、毎週楽しみにしてずっと待っていましたよ。4時1分ぐらいに「まだ上がってない!」とか。
――遅れることもあって、すみません。
毎日ジムに行っている
――制作量もすごいし、寝る暇もなさそうに見えますが。
めちゃくちゃ寝てますね! 作る以外のことはしていないから。でも毎日ジムには行っています。
昼ぐらいに起きて、夜9時まで制作して、その後はジムに行く。ジム友達がいるんで、行かなかったら怒られる! ジムに行ってると、同じレッスンを受けてる方と友達になって、年配の方なんかも普通に話しかけてくれて。お土産とかくれるんです。
ジムに1人で行ってトレッドミルで3km 走るだと意味わかんないじゃないですか。でも、みんなでノルマ的な感じで、監視されてると走れるから。部活みたいです。
ジムの後のサウナもすごい苦しみだと思っているけど、健康にいいから入りたい。 1人だと5 分も無理だから、一緒に入ってくれる人がいると頑張れます。で、帰って寝るのが 3時とかになっちゃってるから早寝早起きには憧れています。
金曜日はプールに行っています。フリーランスになってから、健康は大事だなと思って。健康を維持できないと怖い。80歳ぐらいまでは生きて、ぬいぐるみの家を完成させたいですから。
――Webマスターの林さんが「ご飯ちゃんと食べてますか?」って心配してました。
食べてます! 食にこだわりがないタイプと思ってたんですけど、最近、まずいものに鈍感だって気づきました。だいたいのものが美味しいんですよね。
こだわりある人って、「あの肉は固くて悲しかった」とかおっしゃるんですが、私はそういう経験がないんです。一般的にまずいと言われるものもおいしいと感じる方なんだと思います。
だから食レポがすごく難しい。いろんなライターさんに相談してるんですよ。ちょっと苦手意識があります。
どんな仕事を受けても「絶対に間に合う」自信だけはある
――とりもちさんの記事は毎回なにかを作っているし写真も多いし、すごく手がかかってますよね。どれぐらい時間をかけていますか?
物によります、すぐにできるやつは2日ぐらいでできるのもある。今は同時進行で何個か一緒に作っています。
モノを作ってから文章を書いています。毎回締め切りがあるから、強制的に書かざるを得ない。昔は1500字の短い記事を3日かけて書いてたんですが、今は1日で書くようになりました。
――どういう風にスケジュールを立てていますか?
全然決めてないですね。決意さえしちゃえば全部間に合ってきたんです。だから「絶対に間に合う」っていう自信だけはある。どんな仕事を受けても大丈夫って思ってます。
1週間で言うと、一応、水曜は書く日として決めていて。月火で作って、水で書いてる感じですね。木金は、他で依頼されているものや自分のイベントで販売するぬいぐるみをゆるく作ったりして。
――今はフリーランスのアーティストですよね。あの、たいへん失礼なのですが、生活は大丈夫ですか?
大丈夫な月と大丈夫じゃない月があって。
いわな坊主のイベントとか、ぬいぐるみ販売イベントなど、イベントが3つぐらいある月は大丈夫。普通に暮らせます。暮らせなくても、貯金が尽きるまではいいかなって思ってます、私。
この4月から完全フリーランスになり、4月は赤字でしたが5月は黒字でした。
作るものの幅を広げたい
――作るものは依頼ベースですか? それとも思いつきベース?
基本は私が作りたいものにしてもらっています。一度、飼い犬をぬいぐるみにして欲しいって言われて挑戦したんですが、難しすぎて1年以上待たせてるんです。 足が難しすぎて。
家電や日用品は、カチッとしてて動かないからすごく作りやすいんですけど、犬のいろんな向きの写真が10枚ぐらい送られてきて「この座り方で作ってください」って言われた時にめちゃくちゃ難しいんですよね。
――とりもちさんはネットですごく認知されてるし、個展もできるし、Xに作品を投稿したらバズったりもするから、個人で作品を発表するだけでも十分にやっていけそうに見えていて、デイリーに文章を書いていただけてるのはなぜだろう? という気持ちが編集部にはあります。
デイリーの締め切りのおかげで、人としての生活を維持できているというか…… ジムに通う、みたいな。
それから、自分が作らなそうなものを作れたりとかするし。自分だけでだと木工作品は作らないですけど、「カインズで売っているものを作って」という依頼があれば、いつもと違う素材を使うことができる。
――作りたいものだけを作っていたいわけではなく、広げながらやっていきたいと
むしろ、指定してほしいです。「これ作って」というお題とかあったら楽しそうだなって思います。締め切りがあると頑張れるし。
今は、ぬいぐるみと電子回路を組み合わせるみたいなのにちょっと憧れています。でも勉強系が発生するからなかなかちょっと踏み込めない。教えてもらえるといいんですけど、自分で学ぶハードルが高い。
――ぬいぐるみをベースにしつつも、あらゆる物作りに興味があるんですね。
そうですね。例えば、着ぐるみを作っている会社だと、私と違う作り方なんだろうなと思って、潜入したいんですよね、
私の作り方を着ぐるみを作ってる人に説明したら「なんでここをミシンで縫わないの?」って言われたことがあって。ミシンできれいに立体を作る方法が多分ある。知りたいですね。
デイリーの記事で、美術を面白がってほしい
―― 文章を書くことは好きですか?
はい。めちゃくちゃ好きです。将来は文章を書く仕事か、物作りがやりたいと思って、就活では出版社も受けていました。暇だったコロナの時とか、オンラインで文章講座も受けていました。ショートショートを書く講座とか。
――じゃあ、文章も書けてモノも作れるデイリーは完璧な場ですね。
そうなんですよ。理想的。しかも、作ったもの拡散してもらえるから、めちゃくちゃありがたい。記事は、(担当編集の)石川さんにウケるためだけに書いています。
――文章にも思い入れがあるんですね。
美大で受験で小論文が必要で、不思議な題が出るんですよね。「青と赤、どちらが美しいか」とか。私が受験した時は、私のヒーローかヒロインというテーマで400字、みたいな感じ。そのトレーニングとしてお題に応じて毎日400文字書く訓練をしたんですが、その時から書くのがすごい好きでした。
――とりもちさんの作品は単体で成立していて、力がある。その製作過程をデイリーの記事にするには、完成した作品に文章を書き足すことになる。作品に対して、蛇足的な文章を追記することを強要してしまっているのかな……と編集部は心配しています。
いえいえ。作品だけだとプロセスが見えないじゃないですか。だからプロセスを見せられるっていうのはいいですよね。
美術を見るのって、難しくないですか? だから、テキストサイトでプロセスを見ると、すごく見やすくなる。アート作品の解説キャプションって、結構ポエムっぽいっていうか、かっこつけてるものが多い。デイリーの記事で面白く読んでもらえつつ、作り手の意図も伝わればいいなと。
――美術に造詣がある尖った人、「分かる人に分かればいい」ではなくて、もっと広い人に楽しんでほしいと
そうです。それに、記事に載せている作品は、記事を書く前提で作っているから、作品だけ作るよりも勇気を出して動けるかもしれないですね。自分だけだったら、出せない1歩を踏み出せるかもしれない。作っている最中に「何か起きてくれ」って思う。
例えば、二宮金次郎の像を作っても外に出る必要はないけれど、記事のためなら「持って外に出ようかな」と思える。それによって記事も面白くなるし、何か変なことが起きるかもしれない。
とはいえ、あんまり深く考えず、読んだ人に普通に面白いと思ってもらえればいいなって思ってます。


