/ 5

オルツ会計不正「経営陣関与」 米倉社長辞任、問われる新興の上場審査

(更新)
詳しくはこちら

人工知能(AI)開発のオルツは28日、第三者委員会による調査報告書を公開した。売上高の過大計上による影響額は約119億円にのぼる。同委員会は「極めて不適切な行為。強い非難に値する」とし、経営陣の主体的な関与を指摘した。米倉千貴社長(48)は同日付で辞任した。監査法人やベンチャーキャピタル(VC)も粉飾決算を見逃したとされ、新興市場の上場審査の信頼性が揺さぶられている。

ビジネスTODAY
ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら

米倉氏の後任に、日置友輔・最高財務責任者(CFO、34)が就任する。第三者委の調査結果によれば過大計上による水増し額は最大で公表した売上高の9割にのぼり、日置氏も不正会計に関与していたと指摘する。

米倉氏は「決算の内容を大幅に修正せざるを得ない状況に至ったことを踏まえ、辞任すべきであると判断した」とコメントした。日置氏は「自身の進退を含めた抜本的な組織改革を早急に進める」としており、暫定的な社長就任となる可能性が高い。

有料アカウント、6%どまり

今回公表した報告書では、循環取引の手口や経営状況が明らかになった。オルツは広告宣伝費として広告代理店4社に約138億円、研究開発費として事業者2社に約16億円を支出。その後、広告代理店を経由して「スーパーパートナー(SP)」と呼ばれる販売業者から架空の売上代金を回収する「循環取引」をしていた。

こうした経営手法に頼る一方、主力サービスで稼げていなかったという実態が浮かび上がる。オルツはサブスクリプション(継続課金)型で議事録サービス「AI GIJIROKU」を提供し、2024年12月時点で有料会員数は2万8699件としていた。今回の報告書によれば8万4615件のアカウント数のうち、有料会員数は5170件にとどまり大半が無料会員だった。

オルツの会計監査を22年まで担当していた監査法人は循環取引を指摘していたが、現任の中小監査法人のシドーに交代以降、オルツ側が示した広告宣伝費の発注書などを受けて循環取引を認識できなかった。第三者委は当初担当していた監査法人の社名を明らかにしていないが、大手監査法人の1社とみられる。

オルツ株は28日、値幅制限の下限(ストップ安水準)となる前週末比30円(33%)安の60円まで下げた。オルツは東京証券取引所から、有価証券報告書の虚偽記載や新規上場申請における宣誓事項に重大な違反を行った恐れがあるとして、上場廃止基準に抵触する恐れがある「監理銘柄(審査中)」に指定された。  

オルツは24年10月に東証グロース市場に上場したばかり。新規株式公開(IPO)時に東証などを通じて市場に公開した決算数値のほとんどが虚偽だったことになる。報告書ではオルツが「適切な外形を取り繕うかの対応に及んだ」と指摘し、「資本調達の円滑性にも悪影響を及ぼす。誠に遺憾」と踏み込んだ。

主幹事の大和証券は「一般論として、主幹事を務めた案件については適切な審査手続きを行っていると認識している。依頼があれば各種調査に協力する」としている。

監査法人を指導・監督する立場にある日本公認会計士協会は「不適切会計の報道や開示に注意を払っており、本件についても開示される情報について注視している。状況を踏まえて自主規制機関としての必要な対応をする」とコメントした。

上場経営者として「誠実性が欠如」

オルツを巡って、焦点となるのが新興企業の上場審査への影響だ。業界全体で監査の担い手不足が指摘される中、リスクのある新興企業に対してどこまで深度ある監査を実施できるかが課題となる。特に「SaaS」と呼ばれるクラウドサービスは取引の実態がつかみづらく、契約書や入金実績などの書類が整っていても監査で発見できないリスクがある。

会計や監査に詳しい青山学院大学名誉教授の八田進二氏は「売上収益実現を監査することは一丁目一番地だ。経営者の資質を見抜く内部統制監査も重要だ」と話す。今回の報告書では「米倉氏をはじめとした経営トップにおいて、上場企業の経営者が備えるべき誠実性が欠如している」と指摘している。

新興企業を担当する大手監査法人のパートナーは「オルツのほかにもこうした事例が潜んでいる可能性がある」と指摘する。特に大手に比べて資金や人材が乏しい中小監査法人は「十分かつ適切な監査が実施できない可能性がある」とみる。

企業の質を高めるグロース市場改革に逆行

未上場企業を支援・指導する立場にあるVCのあり方も問われそうだ。オルツに出資しているVC大手のジャフコグループは「法的責任はない」と説明している。一方、オルツには出資していない別の大手VCは「オルツ問題の発生以前から複数の投資先で業績の虚偽報告があった」ことに対応し、毎月の決算書を投資先から入手し、矛盾がないか独自に検証する対策を始めた。

過去にも、半導体製造装置を手がけるエフオーアイは2009年に東証マザーズに上場後、売上高の97%の架空計上が判明し、10年に上場廃止となった。

オルツの上場直後の24年10月に株式を購入した40代男性会社員は「これまでに累計で約1900万円の損失を出した」と語る。「AI銘柄の中でも特に期待し投資したが、売り上げのおよそ9割近くが過大計上とは驚いた。主幹事となった証券会社や取引所は見抜けなかったのか」と憤りをあらわにした。

東証は4月、スタートアップが上場するグロース市場に関し、2030年以降に上場維持基準を「上場5年経過後は時価総額100億円以上」とする案を示した。グロース上場企業の質を高め、海外投資家からも投資を引き出せるような魅力ある市場をめざす狙いだが、オルツの騒動は一連の改革にも逆行しかねない。

日置 友輔(ひおき・ゆうすけ) 京大大学院修了、2016年モルガン‧スタンレー‧ビジネス‧グループ入社。21年にオルツCFO。大阪府出身。34歳
BUSINESS DAILY by NIKKEI

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら
ビジネスTODAY

ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
エラー
操作を実行できませんでした。時間を空けて再度お試しください。

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_