トリックは推理されたけど、ターゲットを全員殺すまで止まりませんよ?   作:Distance

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中編

「あ……」

 

 仕事中に婚約者が首を吊ったという連絡を警察から貰い、病院に着くと、そこには小夜の両親が待っていた。

 毒親で今は絶縁している俺の両親と違い、小夜に紹介して貰ってからは実の息子のように可愛がって貰った人達だ。

 

「お義父さん。お義母さん……小夜、は……?」

 

 聞きたくないと思いつつ、聞かなければいけないとうつむいている二人に訊く。

 沈痛な面持ちで二人は小夜が発見された時には既に息絶えていた事を教えてくれた。

 それだけで全身から力が抜けてその場に倒れてしまいそうだった。

 頭の中でどうして? と疑問ばかりが浮かんでくる。

 確かに仕事が上手くいかず、解雇された事を気に病んでいたのは知っていた。

 だけど俺も最近は仕事に必要な資格を取ったりとなんやかんやで給料は上がった。

 だから、これを機にしばらくは心と体を休めればいいと話した。

 二馬力でなくなり、収入が減るのは痛いが、もうすぐ結婚も控えていて、小夜に専業主婦をしてもらうのも悪くないと思っていた。

 娘を支えられなかった不甲斐ない俺に、義両親になる筈だった二人が涙ぐみながらもこんな事になって済まないと謝ってくる。

 その中で信じられない言葉が出てきた。

 

「まさか、お腹の子と一緒に自殺するなんて……」

 

「は……? いや、待って下さい! お腹の子!? 小夜のお腹に!?」

 

「えぇ。私達も今知ったの。明夫君にも話してなかったのね」

 

 お義母さんの言葉を聞きながら俺は頭の中が更に混乱する。

 あり得ない。

 解雇される前まで、小夜は仕事の忙しさからいつも疲れ切っていたし。

 俺も資格の勉強や会社の研修が重なってそれどころではなかった。

 恥ずかしい話、この一年まったくのご無沙汰だったのだ。

 だから小夜が解雇されたと知った時はそういう意味でも都合が良いと感じていた。

 浮気を疑いつつも信じられないまま、小夜の葬儀を終える。

 そこで小夜の後輩の女性が話しかけてきた。

 彼女は新人の頃から小夜が期待していた女性でプライベートで一緒に食事をし、悩みなどを聞くくらいに仲が良かった。

 明夫も何度か会った事がある。

 その子が泣きながら小夜が会社で受けていた扱いについて話してくれた。

 自分の教育係を離れた頃から少しずつ小夜の扱いが悪くなっていったらしい。

 始まりはホンの些細な事だった。

 上司が企画した計画書に重大な見落としがあり、それを指摘したのが始まりだったとか。

 かなり手厳しい指摘で、それを協力会社へのプレゼンの最中にしてしまった為に、上司の不興を買った。

 それからあからさまに過剰な量の仕事を押し付けられるようになり、自然とその上司に目をかけられていた社員も小夜に仕事を押し付けるようになる。

 飲み会などで酒が苦手な小夜に度数の高い酒を無理やり飲ませようとし、周りもそれを止めもしない。

 そもそも、その時期になると、小夜と仲の良かった同僚達とはその子も含めて切り離されていたらしい。

 その上、どう考えても成功する筈のないプロジェクトを強制的に責任者へと任命された。

 ただでさえ難しいプロジェクトなのに、足を引っ張るようなメンツを押し付けられ、更に負担が増える。

 そんな中でも小夜は懸命に会社の為に駆けずり回り、どうにか成功の目処が立ち始めた頃に別の有望株にプロジェクトの責任者が交替したせいで結局プロジェクトは失敗。

 その責任だけを小夜に損害賠償付きで押し付けて解雇した。

 

「ごめんなさいごめんなさい。雨ヶ谷先輩にはたくさんお世話になったのに」

 

 その子はそう泣きながら頭を下げ続けた。

 それから貯金を崩して興信所を使い、話の裏付けを取らせた。

 小夜への嫌がらせや解雇理由になったプロジェクトの流れ。

 その結果、その問題の上司が小夜を酔わせてホテルに連れ込んでいた事が発覚した。

 たぶんお腹の子は。

 それを興信所の人から聞いた時はその場で暴れ出したいのを必死に堪えた。

 もう少し興信所を頼って小夜にハラスメントをしていた十人を炙り出し、彼らが旅行先としてやって来たこの島で始末しようと決めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜に入ろうとする時間。

 解約してない小夜の携帯を使ってターゲットの一人に電話をかける。

 口元には安物のボイスチェンジャーを当てている。

 コールが三回程なるとターゲットの女が出た。

 

『だ、だれ?』

 

 怯えた声を出す女。

 上司が味方なのを良い事に、小夜に仕事や自分のミスを日常的に押し付けていた女だ。

 相手の声から少し間を置いて指示を出す

 

「窓から顔を出せ」

 

 ボイスチェンジャーの機械的な声。

 

『誰なのよ!』

 

 相手のヒステリックな声に苛立ちつつ返す。

 

「私の電話番号はもう消したのかしら?」

 

『嘘よ! 雨ヶ谷先輩はもう……!』

 

 死んでいると続けようとした相手に俺は続ける。

 

「〇〇と△△と□□は私が殺した」

 

 これまで殺した三人の名前を挙げると、ひぃっと掠れた声が聞こえた。

 

「次はあなたのつもりだけど、私の言う通りにすれば、見逃してあげてもいいわ」

 

『ほ、ほんとう……?』

 

「えぇ。だってあなた、殺される程のことはしてないでしょう? それとも、身に覚えがあるのかしら?」

 

『無い! 無いです! お願いだから助けて!!』

 

 涙ぐみながら訴えてくる女に苛々する。

 例の上司が小夜をホテルに連れ込んだ件、お前も関わってるのは調べがついてんだぞ? 

 

『ならこちらの指示に従いなさい。窓から顔を出して下を見て。そうしたら次の指示が見えるから。従わなければ、判るわね?』

 

 自分も部屋の窓を開けながら電話を切る。

 下がターゲットの女の部屋で、人一人がどうにか通れる窓がある。

 上から女が首を出した瞬間に用意してあった縄を投げて首に括り付けると思いっきり引っ張る。

 そのまま窒息死しろというより、縄で首を落とすつもりで引っ張った。

 たっぷり三十分くらい締めてから確認すると力無く窓にだらりと体を垂らしている女が居た。

 

(死んだよな?)

 

 確認の意味も込めて、俺は四階の窓から飛び降り、二階の窓の凹凸を指に引っ掛けてそこから女の部屋に侵入した。

 死亡を確認してから二階の窓を締め、女の死体をベッドに寝かせてから部屋の鍵を頂戴し、二階の部屋から出て鍵を締める。

 ドアの下の隙間から鍵を蹴って入れれば、なんちゃって密室の完成である。

 後は自分の部屋に戻ればいい。

 

(これで死刑は確定だな)

 

 四人も殺せば死刑はほぼ確定だとテレビで聞いた事がある。

 別に後悔はしていない。むしろ後戻り出来なくなって踏ん切りがついた気分だ。

 

(後六匹か……警察は遅くても今日中には到着する筈だ。それまでに最低三匹は始末したい)

 

 残りが三人なら、警察が居ようが犯人だとバレようが、殺せる自信がある。

 理想は警察が来ようが、全員殺すまでバレない事だが高望みし過ぎだろう。

 

(問題は、あの毛利小五郎か……)

 

 世間で名探偵と騒がれている男だ。

 死体が発見されてからの行動は正直パッとしなかったが、既に犯人が俺だと判っていながら警察が来るまで待っている可能性もある。

 

(頼むからなんにも気付かないでくれよ名探偵)

 

 そう祈りながら俺は部屋へと戻り、無理やり朝まで眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼近くになると、ターゲットグループが深夜に殺した女が起きてこないと異変を感じてフロントからスペアキーを借りて毛利小五郎と一緒に確認して遺体が発見された。

 ここまでくれば向こうも自分達がターゲットだと完全に察しただろう。

 面白いくらいに動揺していた。

 それから毛利小五郎による取り調べが始まり、ホテルの従業員も協力するように呼びかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ども」

 

「あぁ、あなたは火を貸してくれた」

 

「はい、春日井明夫です」

 

 取り調べが自分の番まで回り、困った笑みを浮かべて、用意されていた椅子に座る。

 そこで気になっている事を先に質問した。

 

「なんで子供が居るんですか?」

 

 昨日危ない事をしていたのを助けたコナンとか言う名前の子供が手帳を片手に毛利探偵の横に座っていた。

 毛利探偵は大きな溜息を吐く。

 

「コイツのことは気にしないでくたさい。何度注意しても聞かんのです」

 

「は、はぁ……」

 

 訝しんでいると、コナンくんが、だって〜と発言する。

 

「事件のこと、僕も気になるんだもん! それに僕、おじさんの助手みたいなものだしね!」

 

「誰が助手だ! やっぱお前、蘭のところへ行ってろ!」

 

 そんな親子みたいな会話をした後に色々と質問された。

 この島に訪れた理由。

 船内やこの島に来てからの行動。

 昨夜は何処に居たのか、など。

 嘘と真実を織り交ぜながらどうにか乗り切る。

 

「お兄さん! 僕も聞きたい事があるんだけど」

 

「え? なに?」

 

 子供の探偵ゴッコに内心でウンザリしながら質問を促す。

 それにしてもこの子、場慣れし過ぎではないだろうか? 

 

「うん。殺された女の人の携帯の通話履歴の一番上の時間が深夜一時頃でね。雨ヶ谷小夜って名前が在ったんだけど、この名前に覚えない?」

 

「うん。知らないね」

 

 動揺を表に出さずにそう返した自分を褒めてやりたい。

 小夜の名前が出た瞬間に思わずコナンくんの首を絞めそうになったのを抑えたのも含めて。

 あの女を殺した時に、通話履歴を消さなかったのは思った以上に心が逸っていたようだ。

 

「それじゃあ失礼します。犯人を捕まえるの、頑張ってください」

 

「えぇ。この毛利小五郎が全力で犯人を挙げて見せます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この島はまだ、開発が中途半端な事もあり、人の目が届かない穴場が幾つかある。

 そのひとつにターゲット二匹を小夜の携帯で呼び出した。

 何やらナイフで武装している二匹に、隠れていた俺は全速力で走り、背後から体当たりをして一匹を崖から落とす。

 学校の屋上くらいの高さはある崖から落ちた屑は、そのまま頭をぶつけて死んだ。

 

「誰だテメェはっ!?」

 

 ナイフをデタラメに振って威嚇してくる男の手首を掴んで地面に押し倒す。

 

「誰でもいいだろ」

 

 ナイフを奪い取り、ゆっくりと男の後ろ首に当てる。

 

「ヒィ! アンタ、雨ヶ谷の身内か!? お、俺は殺される覚えなんてねぇぞ!」

 

「柿山栄太。今崖から落とした屑二匹で小夜を酔わせ、顔にモザイクをかけてたとはいえ、アイツの下着姿をふざけた誘い文句と一緒にSNSにアップしただろ? 覚えてないとは言わせねぇよ」

 

 少しナイフを落として血が垂れると、怯えた様子で弁明を始める。

 

「ホ、ホンの冗談のつもりだったんだよ! それにアレならもう消し────っ!?」

 

 地面に思いっきり顔を叩きつけてやると前歯が折れ、痛みで声を出す。

 

「こっちが知りたいことは全部知ってる。聞いてやる命乞いなんてひとつもねぇんだよ」

 

 そう言って俺は、柿山の頸動脈にナイフを突き立てて、仲間と一緒の崖に落として置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 そこからホテルに戻ると、警察が到着していて、警察がホテルを包囲する前にホテル四階分をロッククライミングの要領でよじ登り、自分の部屋まで戻ると着替えてから袖に血がついた服を仕舞う。

 

「後四匹か……微妙だな……」

 

 今犯人だとバレて残りを始末出来るか? 

 そんな事を考えながら部屋を出ると、コナンくんの友達と遭遇した。

 

「あれ? お兄さん、この部屋だったんだ?」

 

 歩美ちゃんというらしい、カチューシャの女の子が話しかけてくる。

 

「うん。警察が来たみたいだし、ちょっと様子を見にね」

 

「今までずっと部屋に居たんですか?」

 

「そうだよ。だって殺人犯が居るの恐いからね」

 

「情けねーなぁ、大人のくせに」

 

 光彦という子の疑問に答えると、呆れられた。

 いや、君たちはなんで平気なの? 保護者とか出歩くの止めないの? 

 疑問を持ちながら、子供だけだと危ないからと一緒にロビーへ行くと、ちょうど警察がさっき殺した二匹の遺体を発見したところだった。

 発見早いな、と他人事のように思いながら、これからどうするか考える。

 煙草吸いてー、とポケットの中のジッポを握る。

 目暮、という名の刑事だか警部だかが明日帰りの船が来るまで不審な行動は控えるように呼びかける。

 今回は客が少ないとはいえ、ホテルの従業員も含めて全員を安全な所まで運べる手筈は用意してなかったらしい。

 それだけは好都合だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから夜になると、突然警察に呼ばれ、ロビーに集められた。

 既にロビーには警察と子供達を除く今回のツアー客。そしてこのホテル従業員が揃っている。

 ロビーにあるソファーには、眠るように座る毛利小五郎がいた。

 

(そういや、眠りの小五郎とか言われてるんだっけ?)

 

 本当に眠ってるみたいだな、とこれから推理を始めようとしている名探偵を見る。

 そこからまるで見ていたかのように犯人()の行動を言い当てていく。

 まだ見つかってない客は船旅の時に殺され、海に捨てられたのだろう事。

 この島に着いて最初の犠牲者二人の殺人。

 深夜に(おこな)ったなんちゃって密室。

 そして警察が来る直前に更に二名を殺害した事も。

 本当に見てきてかのように言い当ててきた。

 

「それらはおそらく、被害者達が務める会社の元社員であり、パワハラで自殺した雨ヶ谷小夜さんの仇を討つ為。このツアーに参加すると知り、殺人を計画した」

 

「誰なんだね毛利君! その犯人は!」

 

 この現場の責任者の警部が続きを促すと毛利探偵は高らかに犯人の名を告げる。

 

「このツアーで六人もの人間を殺害した犯人。それはあなただ、春日井明夫さん!」

 

 名を呼ばれて俺の周囲にいた人達が怯えた表情で距離を取る。

 

「あなたが子供達に言っていた婚約破棄となった女性とは亡くなった雨ヶ谷小夜さんのこと。違いますか?」

 

 確認する口調だが、もう確信しているのだろう。

 俺は近くの椅子に腰を下ろす。

 

「名探偵なんてのが乗ってた時点で嫌な予感はしてたんだよなー。素人の連続殺人なんて、場数の踏んだプロには通じねぇか」

 

「犯行を認めるのかね?」

 

「こうまでピタリと言い当てられたらね。どんな言い訳しても、カウンターされそうですわ」

 

 両手を挙げて降参のポーズを取る。

 

「しょうがねぇ。本当にしょうがねぇよなぁ……」

 

 諦めた様子で項垂れる俺に警部さんが近付く。

 

「春日井さん。あなたには船が来るまで我々警察が監視させていただきます」

 

 そう言って懐から手錠を取り出し、俺の手にかけようとする。

 

「しようがねぇから、ここであと四匹殺っちまうか」

 

 弾かれるように走り出した俺は、背中から用意していた小さな鉈を取り出し、一番近かったターゲットの頭に鉈を振り下ろして頭をかち割る。

 頭から血が噴き出し、それが顔にかかった。

 突然の俺の行動に警察を含めて唖然としている。

 こっちは復讐しに来てんだぞ。探偵に犯人を言い当てられたくらいで逮捕されてやると本気で思ってんのか? 

 

「あと、三匹……そこから動くなよ?」

 

 

 

 

 




次回が完結にして本番です。

コナン視点(大雑把)っている?

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