トリックは推理されたけど、ターゲットを全員殺すまで止まりませんよ? 作:Distance
「小夜……もうすぐだ……」
乗っている豪華客船の自室で俺はもうこの世に居ない婚約者だった女性の写真を眺めていた。
これから向かうのは復讐の為の舞台。
婚約者を自殺に追い込んだ屑共を処刑する為のギロチンの縄を切りに行くのだ。
「その為、このツアーの参加券を手に入れたんだ。後は……」
水を飲んでから島に着くまでの間、出来る事をやろうと部屋を出る。
すると運の悪い事に小学生くらいの男の子とぶつかってしまう。
「いって〜っ!?」
尻餅をついたのは、大柄な体型の子供だった。
「あ、ゴメンよ。怪我してない?」
その少年が答える前に、後からついてきていたそばかすのある男の子が呆れたように返す。
「もう元太くん! だから船内を走っちゃダメだって行ったじゃないですか」
「そうだよ! ほら、元太くんも謝って!」
カチューシャを付けた女の子が謝るように促すと、元太と呼ばれた少年が気まずそうに謝る。
「悪かったよ。ごめん……」
「ううん。怪我がなくて良かった」
ホッとしていると少し離れた位置からついてきていた眼鏡をかけた男の子が話しかけてくる。
「ねぇ、お兄さん、一人でこの船に乗ってきたの?」
「うん。そうだけど、どうして?」
眼鏡の男の子が俺の手を指差す。
「だって薬指に指輪をしてるから、結婚してるんだよね? なのに個室部屋から出てきたから不思議に思って。もしかしてお仕事?」
好奇心旺盛なのだろう。
随分踏み込んでくるなと内心舌打ちする。
「実は、近々結婚する筈だったんだけど、駄目になっちゃってね。ここには傷心旅行で来てるんだ」
この指輪は小夜にプロポーズした後に二人で選んで買った物だ。
それを聞いてカチューシャの女の子が残念そうな声を上げる。
「え〜。フラれちゃったの? かわいそう……」
「カッコわりい……」
「そういうこと言わないの」
最後尾に居た茶髪の女の子が二人を諌める。
(今の小学生ってこんなしっかりしてんの?)
まるで保護者のような茶髪の女の子に内心で首をかしげた。
すると高校生くらいの少女がやってくる。
「あぁ、ここに居た! ダメじゃない勝手にウロウロしちゃあ」
そうちょっと叱られると子供達がごめんなさいと謝罪した。
向こうがこちらに気付く。
「あの、もしかして何かありました?」
「いえいえ。少し世間話をしてただけですよ。それじゃあ私は用事があるのでこれで」
そう行って立ち去ると、子供達が手を振って別れてくれた。
ああいうのを見ると心が和むと同時にこれからやる事の決心が鈍りそうになる。
周囲に誰も居ないのを確認してポツリを呟いた。
「さて……島に着くまでに一匹殺っておくか……」
なにせ、三泊四日で十人殺さなければいけないのだ。
「ふぅ……」
初めて人を殺した。
小夜の名前で釣り、誘き寄せた所を喉を潰してから手足を縛り、海に棄ててやった。念の為重石も付けたから浮き上がってくる心配もない。
船の大きさに比べて客自体は少ないし、誰にも見られていない筈だ。
初めて人を殺した感想としては、特になんにも感じない。
罪悪感を無意識に封しているのか、それとも完全に壊れてるのか。
「どっちでもいいけどな……」
ターゲットを全員殺るまで余計な事を感じない方が好都合だ。そう思う事にする。
喫煙所で煙草を吸っていると、人が入ってくる。
凡そ三十代後半くらいの整った髭を生やした男性。
どっかで見たことがあるような気がしたが、思い出せないのですぐに考えるのをやめた。
その男性は煙草を口に咥えたが、ライターが切れているのか火が出ない。
「火、要ります?」
「あぁ、こりゃどうも!」
愛用のジッポの火を点けると彼は煙草に火を点けた。
大きく煙草を吸い、紫煙を吐き出す。
「最近はどこも禁煙禁煙で、我々喫煙者の肩身が狭くなりましたな」
「まったくです」
男性の愚痴に苦笑で返す。
俺自身、煙草は嗜む程度だったが、小夜を喪ってから明らかに吸う量が増えた。
「それにしても格好良いライターですな」
「ええはい。恋人が私の誕生日にオーダーメイドで作ってくれたんですよ。それからの愛用品です」
デザインが趣味だった小夜が、自らデザインして製作を発注したライターだ。
それから僅かばかりの雑談をする。
「申し遅れました。わたくし、探偵の毛利小五郎と申します」
その名前に俺は目を見開く。
最近有名になってきた名探偵。
たまにテレビに出た際に、トークが面白かったので思い出した。
「あの有名な……!」
俺の驚きをどう受け止めたのか、毛利小五郎はスーツを着直して笑みを深めた。
「はい。以後お見知り置きを」
殺人を終えたばかりの俺は内心冷や汗を流しつつバレないようにポーカーフェイスを心がけて名乗りを返す。
「春日井明夫です。整備士をしています」
尤も、今回の殺人計画を実行を決意して、仕事は辞めてしまったが。
そこから一言二言交わして別れた。
これからもっと慎重に動く必要があるだろう。
それから俺が殺した奴が見つからないとちょっとした騒ぎになったが、その間に船は目的の島に着く。
最近開発されたばかりの島で、ここなら警察もすぐにはやってこれない。
夕食を摂った後、遠巻きにターゲットの集団が建物の中にあるバーで酒を飲んでいるのを眺める。
先に部屋に戻ろうとする二人の後をつけて殺害した。
遺体は明日の朝に発見できる場所に放置して、戻る時に防犯カメラを掻い潜る為に廊下の天井の僅かな窪みを利用して天井に張り付いて部屋に戻った。
やっぱり最後に物を云うのはフィジカルだなと確信。
翌朝、殺した二人の遺体が見つかった。
騒ぎになり、素知らぬ顔で野次馬というか、部外者に徹していると昨日船内で会った眼鏡の男の子が高い所に登って何かを調べている。
「ちょっと君、なにしてんの! 危ないだろ!」
「えっ!? わぁっ!!」
俺がその子を呼ぶと、ビックリしてバランスを崩して落ちようとしていた。
「やべ!?」
全速力で走って落ちるその子を抱き止めた。
「あ、ありがとうお兄さん……」
お礼を言えるのは偉いがこっちは本当に心臓に悪かった。
一緒に居た子供達や高校生の少女が慌てて駆け寄ってくる。
「コナンくん!!」
そこから高校生の少女に叱られたり、毛利探偵に頭を小突かれたりしていた。
これなら自分が叱る必要はないだろう。
コナンと呼ばれた少年がもう一度お礼を言ってくる。
「それにしてもお兄さんすごいね。あんな距離からボクを受け止めるのに間に合っちゃうなんて」
確かに普通なら間に合わないよな。
「あぁ。運動にはちょい自信があるんだ。もうあんな危ないことしちゃ駄目だぞ」
「うん」
これ、反省してないな。
そう感じたが、監視は保護者の仕事だと判断してそれ以上言うのをやめた。
部屋に戻るフリをしてこの騒動に集まった"彼ら"を見る。
仲間を殺されて怯える表情。
あぁ、それで良い。
小夜を自殺に追いやったこいつらが少しでも恐怖に震えてくれるように願っている。
逃がす気はない。ホンの些細な時間だが。それがせめてもの慰めだ。
小夜が自殺したのは会社の人間達によるハラスメントだった。
パワハラセクハラアルハラ。その他諸々。
部下の尻拭いと無能な上司のミスの理不尽なクレーム対応。
それなりに仕事が出来たのを理由にどう考えても無理なプロジェクトを押し付けられて失敗。
出世街道から外されるだけならまだしも、多額の賠償責任まで負わされる始末。
その時に負わされた賠償の金額に絶望して自ら命を絶った。
戦う方法や逃げ道はきっとあった。
だけど精神を擦り減らしていた小夜にはまともな判断能力もなく、俺に相談もせずに自殺という解決策を選んでしまった。
「ばかが……」
相談してくれたなら、きっとその賠償金を一緒に背負うなり戦うなりしただろう。
小夜の葬儀で彼女と仲の良かった同僚が泣きながら教えてくれた。
念の為興信所にも依頼して調べた。
結果は小夜の同僚の教えてくれた通りだった。
興信所の人は裁判で争い、小夜の名誉の回復をするように勧められたが、彼女が死んだ後にそんな事をして何の意味がある?
小夜を追い込んだクズ共は残り七匹。
「絶対にぶち殺してやる……」
彼女がくれたライターを手の中で弄びながら呟いた。
コナン視点(大雑把)っている?
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要る
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要らない