参政党の支持者はどこから来たか?

横浜商科大学 田中辰雄

出所明示すれば無断転載自由です
追記:2025/7/27 22:00 分布グラフをカーネル形式に差し替え、それに伴い文章を微調整 


 2025年の参議院選挙では参政党が躍進を見せた。本稿の目的はその支持者がどこからきたかを探ることである。手法はアンケート調査である。昨2024年の衆議院選挙の時に一度アンケート調査をした相手に再度調査を依頼し、2393人(有効回答2041人)から回答を得た。1回目の調査日は2024年10月16日で衆議院選挙の時、2回目の調査は2025年の7月20日の今回の参議院選挙の時である。同じ人に聞いているので変化の過程を見ることができる。調査会社はFreeasy、対象者は20歳~79歳までの男女である。なお、以下で投票はすべて選挙区事情の影響がない「比例区」での投票をさす


1. 参政党支持者のプロファイル

まず、よく言われるように参政党の支持者は若年層である。最近の政治運動の集会は高齢化が著しいが、参政党の集会には若い人が多いと言われる。実際、参政党に投票する人の中心は、20代から40代である。図1は年代別の比例区の得票率で、参政党が若年層を中心に支持を広げていることがわかる。国民民主党も同様の傾向にあり、自民党は20代と30代では比較第一党ですらない。

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 年齢以外では特に参政党の支持層に特徴は見らない。男女比率は他と同じくらいであるし、学歴でも収入でもそして世帯所得でも他の政党と有意な差は見られない。
 表1はこのことを確かめるため、デモグラフィックな特性が参政党への投票に影響したかどうかをロジット回帰で示したもので、統計的に有意なものは色つきにしてある。比較のために自民党、国民民主党、立憲民主党の結果も記した。参政党は年齢の係数がマイナスで有意なので、年齢が上がるにつれて投票者が減っており、若年層の支持を得ていることがわかる。しかし、他の変数は有意にならない。すなわち、女性か男性か、所得の大きさ、大卒かどうか、既婚未婚の別、そして、子供の有無は参政党への投票に影響を与えていない。自民党と国民民主党は女性の投票者が少なく、やや男性の党である。立憲民主党は(意外なことかもしれないが)高所得者の投票者が多く、どちらかといえば収入の多い人の党である。これに対し、参政党にはこれといった特徴がない。

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 世上では参政党は、女性を家庭に入れたがっているので男性の党だという人がいるが、投票者が男性に偏っているということはない。また、公約であげている政策に穴が多いので、政策を理解できない低学歴層の党だという揶揄もあるが、これも事実ではなく、大卒かどうかは参政党支持と無関係である。格差問題を強調するので低所得者の党かというとそういうわけでもない。これらのデモグラフィックな特性は参政党を特徴づける要因ではない。参政党を特徴づける要因、それは政治傾向が強い保守であることである。

2. 参政党の保守的性格

 政党は強い保守的性格を持つと言われる。これが本当かどうか確かめるため、投票者の保守リベラルの政治傾向を見てみよう。そのためには、保守リベラルの政治傾向の度合いを測る指標が必要である。
 以下に示すのは筆者が使っている保守リベラルの測定のための問いである。10個の政治課題を並べて、それへ賛成か反対かを5段階でのべてもらう。「そう思う」を2点、「ややそう思う」を1点、「あまり思わない」を-1点、「思わない」を-2点、それ以外は0点として合計する。ただし、問によって保守側の意見かリベラル側の意見かが異なるため(CとLで表示してある)、保守側が正の値になるように符号を変換する。なお、すべての項目に「わからない」と答えた人を政治的無関心層として除いておく。

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 こうして得られた合計点はその人の保守・リベラルの度合いを示す指数となる。平均が0、標準偏差が1になるように標準化したものを政治傾向と呼ぶことにし、そのグラフに描いたのが図2である。右に行くほど保守的、左に行くほどリベラル的である。中庸の人の数が多く極端な意見の人は少ないので、分布は山形をしている。頂点が0点になっておらず、左右が非対称なのは設問の作り方の“癖”のためで、特に意味はない。



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 この政治傾向の分布の図が、投票政党別にどう変わるか見てみよう。図3は、今回の参議院選挙の比例区で自民党、立憲民主党、国民民主党に投票した人の政治傾向の分布である。黒い実線が自民党で、黒の点線が国民民主党、青い実線が立憲民主党である。まず立憲民主党は左寄りに、自民党は右寄りに分布しており、保守リベラルの予想通りの配置が得られる。立憲民主党の平均値は-0.52、自民党の平均値は0.18である。興味深いことに点線で表された国民民主党の投票者の分布は自民党と似ておりやや保守よりである。

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 この図を踏まえて参政党の場合を見よう。図4は参政党の場合で、比較のために自民党のグラフを再掲した。オレンジの線が参政党である。参政党のグラフは自民党より右側に位置していることがわかる。図で参政党投票者では右端の点線の部分にこぶができている。参政党の分布の平均値をとると0.49であり、自民党の0.18より大きい。参政党の投票者は現在の自民党への投票者よりも保守的であり、世上の参政党は強い保守政党であるという評価は正しい。


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 図5は他の政党も含めて、平均値をプロットしたものである。図5の(a)は今回の参議院選挙の時の投票先別の投票者の政治傾向である。すでに述べたように参政党の政治傾向は0.49で、自民党は0.18であり、参政党へ投票した人の保守思想の度合いは強い。

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 この参政党の支持者はどこから来たのだろうか? これに応えるヒントは図5(a)の自民党投票者の政治傾向が0.18と保守としては弱いことである。平均値の0に近く、国民民主党と維新の会と大差がない。実際、4年前と比べると大きく値を減じている。図5(b)は4年前の2021年の時の衆議院選挙の時にどこに投票したかを尋ね、それに応じて政治傾向を計算してプロットしたものである。これを見ると、4年前の衆議院選挙の時に自民党に投票した人の政治傾向は0.37あり、今回よりもずっと保守度が高かった。この二つの図(a)(b)を見比べると、自民党から参政党に強い保守層、いわば岩盤保守が移ったという仮説が考えられる。以下、この仮説を検証しよう。


3.参政党の支持者はどこから来たか


 参政党の支持者は自民党の強い保守層、いわば岩盤保守から来たと言ってよいだろうか。
 まず、すでに昨年の2024年の衆議院選挙のとき、自民党から強い保守層が離れてしまったことを示すデータがある。 図6は、昨年の衆議院選挙の時、前回は自民党に入れたが今回は入れなかったという自民党離脱者の政治傾向の分布を描いたものである。赤い線がそれで、比較のためにこの衆議院選で自民党に入れ続けた人の政治傾向を黒い線で描いた。この二つのグラフのずれから、どのような政治傾向を持つ人が自民党を離脱したかがわかる。
 #24年衆議院選挙、自民党敗北の一因――強い保守層の離脱02


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 右の点線の円でかこったところで赤線が黒線を上回っており、離脱が起きたことがわかる。保守度は2を越えており、かなり保守色の強い人々が自民党から離脱していることがわかる。自民党は保守政党であるにもかかわらず、強い保守層が離脱しているのである。

 この離脱した人々が参政党に合流したのだろうか。これを直接確かめるため、今回参政党に投票した人が、前回、前々回の国政選挙でどこに投票したかを聞いてみよう。これによってもとはどこに投票していた人が参政党に移動してきたかがわかる。
 図7がそれである。今回の調査サンプルで参政党に投票した人は201人いた。彼らが昨年2024年の衆議院選挙の時に投票していた先がどこかを示しているのが上のバーで、4年前の2021年の衆議院選挙の時に投票していた先が下のバーである。昨年2024年の時はすでに自民党からの離脱が起きているので、参政党支持者がもともとどこからやってきたを知るためには、4年前の2021年を見たほうが良い。2024年の投票先はいわば経由地である。

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 2021年の投票行動を見ると、自民党に投票していた人が32.3%、そもそもどこにも投票をしなかった人が32.8%で、この二つが主要な供給源である。すなわち、これまで自民党に投票していた人と、どこにも投票していなかった人の2類型が参政党の支持者の供給源である。 

 順に見て行こう。まず、32.3%の元々自民党を支持していた人は岩盤保守層と言ってよいだろうか。彼らの政治傾向を見てみる。2021年の衆議院選挙で自民党に投票した人は588人おり、そのうち65人が今回の選挙で参政党に投票した。図8のオレンジの線は彼らの政治傾向である。サンプル数が二けたと少ないためグラフの両端が切れるのはご容赦願いたい。黒の線はこのときの自民党に投票した人の政治傾向である。比較すると、自民党から参政党に移動した人は、明らかに政治傾向が自民党支持者の中でもより保守の人たちである。平均値で見ると0.83と非常にこれまになく保守度が高い。自民党から参政党に移動していった人たちは強い保守層であり岩盤保守層だったと言ってよいだろう。


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 参政党の支持者の供給源はこれだけではない。もう一つの供給源は図7の32.8%の「これまで投票所に来なかった人たち」である。参政党は投票所に足を運ばなかった人を動員したというのは古谷氏が観察によって述べていたことで、それが半分は正しかったことになる。[1] 
 なお、彼らの政治傾向も保守である。図7の投票所に来なかった32.8%の人たちについて政治傾向を描くと図9のようになる。2021年の衆議院選挙で投票しなかった人は678人おり、そのうち66人が今回の選挙で参政党に投票した。彼らの政治傾向は図9のオレンジの線で表されており、やはり保守的である。投票にいかなかった人全体は黒の線で、平均値は-0.12でややリベラル寄りであるが、2025年に参政党に投票した人だけに限ると平均値は0.28と保守的になる。投票所に行かなかった、いわば無関心層のうち、保守的な人の動員に参政党は成功したのである。

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 まとめると自民党から岩盤保守層が抜け出して参政党を支持し、これまで投票しなかった無関心層の中の保守的な人も参政党を支持した。いずれも政治的には“事件”といってよいだろう。いずれもこれまでになかったことだからである。

4.なぜ岩盤保守層が自民党から離れたのか


 岩盤保守層が自民党から離れた理由はなんだろうか。それは、岸田政権以降、自民党がリベラル寄りの路線をとったからと思われる。もとより日本には緩やかな保守化傾向があり、保守票が増える傾向にあった。たとえば現時点でも自民党、参政党、維新は保守側であり、国民民主党もリベラルとは言えないので、足し合わせれば保守票は増え続けている。このような緩やかな保守傾向があり、それに乗ったからこそ安倍政権は選挙で連勝をつづけたと考えられる。
 岸田政権以降は路線の修正がはかられ、リベラル色が強まった。国民の保守化傾向が続くなかでリベラル色を強めるのは奇妙に思えるかもしれないが、これは支持者の幅をひろげるための方法で、自民党がこれまでにもよくやってきた戦略である。公害問題や福祉など最初はリベラル陣営が取り上げた問題を、自民党は左にウイングを伸ばすかのように政策に取り入れて、政権を維持してきた。右へ左へと振り子のように政権の方針を変えて延命を図るのが自民党の政権維持の要諦である。
 ただし、このようなリベラル的政策の取り込みは自民党の右側に別の保守党がいないというのが前提である。岩盤保守層は、自民党がリベラル的な政策を取りいれたことに不満を感じたとしても、自民党の右側に政党がない以上、自民党に投票せざるを得ない。それがわかっているからこそ自民党内左派は安心してリベラル側に歩み寄ることができた。これまではこれで事が済んでいた。
 しかし、今回、事態が変わった。LGBT法案の受け入れ、選択的夫婦別姓の取り上げ、中国への融和的態度などで、岩盤保守層の不満は閾値に達していたと考えられる。特に総裁選で高市氏が敗れた時の失望は大きかったようである。直後に行われた総選挙では図6でみるような岩盤保守層の離反が起り、自民党は大敗する。今回、参政党という自民党以上に保守の有力政党が登場したのであれば、彼らがそこに投票しない手はない。

 以上述べた理解が正しいかどうかの傍証を得るために一つ変わった問いをたててみよう。それは次の文章に同意するかどうかである。

「もし高市さんが自民党総理だったら、私は自民党に入れていたと思う」

 自民党から岩盤保守層が離れて参政党をはじめとする他の党に移動しているのなら、彼らはこの言葉に反応するはずである。それ以外の理由、たとえば裏金問題やガバナンス問題などで自民党から離れているのなら反応しないだろう。この言葉に対し、自分にあてはまるかどうかを4+1段階で答えてもらう(あてはまる、ややあてはまる、あまりあてはまらない、あてはまらない、わからない)。ここで「あてはまる+ややあてはまる」と答えた人の比率を示したのが図10である。

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 自民党に投票した人以外すべて(棄権者も含む)の場合で15.4%、維新投票者で17%、国民民主党への投票者で23.1%、参政党の投票者では27.4%が、高市総理なら自民党に投票していた可能性があると答えている。この手の突拍子もない設問では面白がってあるいはふざけて回答する人もいるので、ある程度割り引いて、たとえば5%程度は割り引く必要があるだろう。しかし、それを割り引いても高い。参政党にいたっては4人に一人である。
 通常このようなことは起こらない。「仮に橋下徹氏が維新の党首に返り咲いたら・・」「○○が立憲民主党の党首になったら・・・」などで他党支持者の投票行動が大きく動くことはありえない。そのあり得ないことが起きている。この異例な現象は、自民党から離れた岩盤保守層があちこちに散らばっていると考えるしかないだろう。
 そして、これを察知してか、少なからぬリベラル側の論客が石破政権の存続を願うという発言を行っている。強い保守政権を望まないリベラルからすれば、現状が続いてくれた方がありがたいからであろう。石破政権がたおれれば、再編が行われて岩盤保守層が再結集して強い保守政権ができるかもしれない。それは避けたいので、そのためには石破政権が続いてくれた方が良い。野党から存続してほしいと願われる与党政権というのも異例な話である。

 これは”ねじれ”現象である。このような“ねじれ”現象はいずれ解消されるはずである。しかし、どう解消されるかは現時点ではまったく見通しがつかない。(了)


[1] 古谷経衡、2025/7/16,「参政党研究」の第一人者・古谷経衡氏が語る“支持者の本質” 「大半は人生で初めて投票に行く“無関心層”だが300万〜500万票は動く」

https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/dot/nation/dot-260957?redirect=1

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