旧厚生省が「虹波」治験関与 医系官僚、療養所選び命令 陸軍と「実験の秘密協定」
太平洋戦争中に旧陸軍が開発し、国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園(熊本県合志市)の入所者らに投与されて副作用を伴う死亡例が確認された薬剤「虹波[こうは]」について、全国の国立療養所を所掌していた旧厚生省が治験に関与していたことが24日、分かった。医系官僚幹部の勝俣稔技監が対象施設を選んで研究を命じていたことが療養所関係者の会議録に記録されていた。
陸軍が解体された戦後に、厚生労働省の前身の厚生省が主導して国立療養所で虹波治験が続けられたことを裏付けた。戦時中に陸軍と厚生省が結んだ「使用実験の秘密協定」に触れた学会誌も新たに見つかった。国は虹波治験を積極的に検証する姿勢を示しておらず、対応が問われそうだ。
会議録は菊池恵楓園所蔵の「昭和二十一年一月十七日 所長会議」。厚生省医療局長官室であった療養所関係者の打ち合わせ内容が手書きで記録されていた。横浜市の元高校教諭出岡学さん(60)が菊池恵楓園に情報開示請求し、熊本日日新聞が提供を受けた。
会議録によると、出席者から虹波の治験を進める療養所の選び方を問われた浜野規矩雄・厚生省病院課長が「虹波と(新薬の)セファランチンのグループをつくったのは、厚生省の勝俣技監が命じたもの」と発言。一部の出席者は対象施設をさらに拡大するよう求めていた。
長野県出身の勝俣氏は、ハンセン病対策を担う予防局長を経て1942~46年に厚生技監を務めた。多磨全生園(東京)の林芳信園長が記した「回顧五十年」によると、勝俣氏は虹波開発を担った旧第7陸軍技術研究所(7研、東京)に協力し、「ハンセン病治療」の研究班をつくっている。
秘密協定については、林園長が学会誌「レプラ」(60年)への寄稿で、44年2月に7研と厚生省が「療養所で使用実験する協定を結び、研究は秘密事項として扱われることになった」と記載。「化学療法研究所彙報」(62年)は菊池恵楓園の宮崎松記園長の論文を引用し、「7研が44年1月、厚生省を通じて国立療養所3施設に虹波の追試を依頼した」と記していた。
秘密協定の存在は、明治学院大国際平和研究所(東京)の松野誠也研究員(日本近現代史)の調査で判明した。松野研究員は「会議録は、厚生省の関与を記した論文を裏付ける貴重な内部資料。発見の意義は大きい」と指摘する。(髙宗亮輔)
虹波開発 極寒地作戦における兵士の耐寒機能向上を目的に旧陸軍が進めた軍事研究。対ソ連戦が念頭にあったとみられる。旧熊本医科大(現熊本大医学部)の波多野輔久教授が7研嘱託となり主導。旧満州(中国東北部)に展開し、極秘裏に人体実験をしたとされる陸軍731部隊の関与も判明している。7研の活動を記した「状況申告」(1943年2月)は、虹波の開発目的にハンセン病治療を挙げていない。
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