夏だよな。
生まれて65度目の夏だ。
俺も齢くったもんだ。
この若いあんちゃんは俺
の娘の一学年上の男だ。
だが、年齢差を超えてい
ろいろとつきあってる。
新婚のあんちゃんの奥方
の自動二輪はうちに置い
てあり、あんちゃんが忙
しい仕事の合間を縫って
直しに通っている。旧車
なのでいろいろ手直しし
ないとならないコンディ
ションだからだ。
彼は分らない事も自分で
調べまくったり、私に助
言を求めたりしながら自
分の力で努力して整備を
完遂しようとしている。
若者がそうした姿を見せ
ているので、私も出来る
限り協力したい。
フローとツリーを整理し
て問題点を突きとめて手
直しすれば、必ず二輪は
何とかなる。修理や整備
の途中で心が折れなけれ
ば。
腕の良いバイク屋に頼む
のも一つの手ではあるが、
不調の二輪を自分で直す
事にもバイクの楽しみの
一つがある。
四輪車と違ってオートバ
イというのはよく壊れる
し不具合を起こすから。
彼は不具合が連続発生し
ていても、それを苦境と
は捉えずにその楽しみを
味わっているようだ。
「なかなか落ちない女み
たいでやりがいがある」
なんてバイク男みたいな
事も言っている。
奥方バイクが直るまでの
中継ぎとして、可愛いか
みさんには、俺の古い友
人から原付スクーターを
譲ってもらったようだ。
バイク生活が中心の仲だ
が、何かとプライベート
面でも相談してきたりす
る。
息子と呼べる齢の差があ
るが、一度単車に跨って
スロットルを握れば同列
だ。モーターサイクルに
は年齢も性別も国籍も出
身地も育った土地も社会
的地位も肩書も一切垣根
はない。水平線や地平線
のように真っ平。
地球は丸いのでほんとの
横一直線ではなく円弧だ
けどさ(笑
モーターサイクルがもた
らす人間と人間の関係に
は他であまり見られない
目に見えない関係性が築
かれる。
それはどの者たちであろう
と、同一地平線上に立って
いる、というウルトラ完全
平等な世界が広がっている
事だ。
モーターサイクルは素晴ら
しい。