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蓮舫氏がXアカウント名を「投票日に変更」は誤報 公選法違反疑惑の記事で産経新聞が訂正

楊井人文弁護士
産経新聞の訂正記事(2025年7月26日)

 産経新聞は7月27日朝刊で、SNSを使った公職選挙法違反疑惑について報じた記事について、参議院選挙の投開票当日に自身のXのアカウント名を「【れんほう】2枚目の投票用紙!」に変更したと報じたのは誤りで、選挙中に使っていたアカウント名が投開票日もそのままになっていたと訂正した。

 オンライン版でも同様の記事を配信していたが、訂正した。投票日当日に変更したかどうかは記事の根幹部分に当たるが、記事そのものは削除しておらず、誤解に基づく情報の拡散が続いているようだ。

 訂正自体に不十分な点が残り、公選法について誤解を招く恐れがある。投票日前に選挙運動目的で発信した情報は、投票当日に削除等をする必要はないが、訂正記事はそのような補足情報が入っていなかった。

産経新聞7月27日付朝刊(5面)に掲載された訂正記事。オンライン版にあった「おわび」の言葉は消えていた
産経新聞7月27日付朝刊(5面)に掲載された訂正記事。オンライン版にあった「おわび」の言葉は消えていた

 7月25日にオンライン版で配信された記事は、X上で爆発的に拡散した。リポストが1.8万件、いいねが6万件超、表示回数は1200万回を超えている。ほぼ同じ内容の記事が7月26日付朝刊(東京本社版)にも掲載されていた。

 当初の記事では「公選法では投開票日当日の選挙運動を禁止している。蓮舫氏のアカウント名変更は、自身への投票を促す事実上の選挙運動に当たるとの指摘がある」と記していた。

 訂正後、この箇所は「公選法では投開票日当日の選挙運動を禁止している。蓮舫氏のアカウント名は、自身への投票を促す事実上の選挙運動に当たるとの指摘がある」に修正されている。

 だが、投開票前日までに、選挙運動として投稿済みのものは、投開票当日にそのまま残していても、公職選挙法上、問題はない。総務省は、次のように説明している。

 ウェブサイト等に掲載された選挙運動用文書図画は、選挙期日当日もそのままにしておくことができます(改正公職選挙法第142条の3第2項)。
 ただし、選挙運動は選挙期日の前日までに限られており、選挙期日当日の更新はできません(公職選挙法第129条)。

総務省のウェブサイト[2025年7月27日確認]より)

 ネット上で掲載済みの情報をそのままにしておくことが許されているということは、有権者が投票日当日に、候補者が選挙運動目的で発信済みの情報をネット上で閲覧できる状態にしておいても何ら問題がないということだ。

 このような公職選挙法の規定からすると、投票前日までに設定したアカウント名が、選挙運動を目的とした情報発信であっても、投票当日にそのままにしていたこと自体は、公選法違反になる可能性はないと言って差し支えない(それが違反になるなら、他の発信済み情報も全て違反になってしまい、公選法第142条の3第2項が意味をなさなくなる)。

 したがって、産経新聞が訂正後に記載した「蓮舫氏のアカウント名は、自身への投票を促す事実上の選挙運動に当たるとの指摘がある」という一文は、公選法上のルールについて誤解を与える可能性がある。

 もっとも、今回、蓮舫氏は投票日の7月20日に、自身の顔写真とともに「おはようございます!夏空、広がってますね。」と投稿した。自身への投票を促す文言は含まれていないが、表示されたアカウント名が「【れんほう】2枚目の投票用紙!」のままであったため、SNS上で疑義の指摘が広がったということだ。指摘を受けてアカウント名を現在の「れんほう 蓮舫」に修正したとみられる。

 では、この投稿が「選挙運動」に当たるとみなされるかどうか。

 投票呼びかけの文言を含むアカウント名を当日に設定変更すれば、新たな情報発信行為(更新)とみなされ、違法な「投票当日の選挙運動」と指摘されても仕方がないが、今回はそれに当たらない。

 新たに投稿された情報が投票の呼びかけの文言を含まず、それを意図するものでない限り、投票日前に発信した情報が付随的に表示・閲覧されたに過ぎず、投票の呼びかけを促す「新たな発信行為」ではないと解釈することは十分可能と考えられる。

 ただ、アカウント名の変更履歴は、SNSの仕様上、一般の利用者には分からない。たとえ投票前日までに設定済みであっても、新たな投稿を見た利用者が投票当日にアカウント名を変更したと誤解する可能性はある。そうでなくても、新たな投稿行為によって、意図的に投票呼びかけメッセージを拡散させたと受け取られる可能性はある。

 今後、候補者が投票日に何らか(選挙運動に当たらない内容の)投稿をする場合は、選挙運動のメッセージを含むアカウント名は、たとえ投票前日までに設定していたものだとしても、変更しておく方が無難だと言えるだろう。

 公選法のルールも、SNS時代に即したものに改正していくことが望まれる。

X上で拡散した産経新聞の記事投稿

 産経新聞の報じ方には他にも問題がある。「違反なら公民権停止」というセンセーショナルなタイトルをつけていたが、これは修正されていない。

 実際に公民権停止になるのは捜査機関によって起訴され、裁判を経て有罪判決が確定した場合だ。捜査も行われておらず、違反の嫌疑が定かでない段階で「違反なら公民権停止」とわざわざ強調するのは極めて異例で、常軌を逸している。

 7月27日現在、産経の公式アカウントから訂正の告知はなされておらず、サイトのトップページにも訂正したことを読者に伝える情報は掲載されていない。

産経新聞オンライン版記事の訂正文

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ありがとうございます。
弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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