中居正広に国分太一、相次ぐ元ジャニーズタレントの不祥事…隠蔽されてきた「虐待の連鎖」という可能性

ジャニーズ問題で見落とされてきたこと

私は、1990年代に週刊文春とジャニーズ事務所が争った、いわゆる「ジャニーズ裁判」の当事者でした。性加害が最高裁でも認定されたにもかかわらず、捜査機関も、メディアもまったく動かなかったこと、そして、いまでも、実は、メディアも人々も真剣に向き合っていないと考えています。

しかし世の中、ジャニーズ問題は終息したと受け取っているようです。その証拠に、7月18日『ラストインタビュー 藤島ジュリー景子との47時間』(早見和真著・新潮社)が刊行されました。最後に藤島ジュリー氏がかたるのですから、彼女の中でも、あるいは、当然出版を知っている事務所も、基本的に「終戦処理は終わった」と考えたのだと思います。しかし、実態はまったくちがうことに、私は最近気付きました。当時の連載や、その後のジャニーズ記者会見に対する自分の記事でも、まったく考えてこなかった問題にようやく気付いたのです。

それは、「虐待は世代を超えて連鎖する」という、もはや精神医学界の常識となっている事実を、ジャニー喜多川の性加害について誰も論じていないし、調べてもいないという問題です。調査によって数値は異なりますが、一般的に、虐待の連鎖は、相当な確率で発生します。その中で虐待をうけた者が、性加害の虐待に走る確率は1割以上あるというのが公的な調査として公表されているのです。

ジャニー喜多川による被害者のみ詳しく調査はしても、それ以外の関係者への調査や、「虐待の連鎖」への対策をしていないことは、今後もジャニー喜多川による性加害の犠牲者たちが、虐待の連鎖の結果、さらなる虐待を起こす可能性がきわめて高いということに気付いたとき、自分の迂闊さを自ら責めると同時に、ジャニーズ問題解決のため設立した「特別再発防止チーム」はなにをしていたのか、と調べる必要を感じました。

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「虐待の連鎖」への対策はあったのか

「特別再発防止チーム」はフジテレビが設立した第三者委員会の様な弁護士だけによるチームではなく、弁護士(林真琴・元検事総長)と精神科医(飛鳥井望氏)そして、臨床心理士(斎藤梓氏)を中心として、弁護士6名が調査補助をしました。

精神科医と臨床心理士がチームにいる以上、当然、虐待の連鎖症状が起きていないか、危険性のある人物はいないかという調査はしたはずではないかと思ったのです。

委員会による報告書(公表版)をみると(HPで公開されているので、興味のある方は読んでください)被害者の詳細な体験談と、その後の被害者たちを襲ったトラウマ体験も具体的に公表されています。

しかし、そのトラウマによって虐待の連鎖に近いことが行われたという記述はありません。専門家なら当然予想すべき、行動のはずですが,、被害者への補償問題を前提とした調査のため、その質問を避けたのか、あるいは事実は掴んだが一般人には公表しなかったのか、その事情はわかりませんが、この報告書で「虐待の連鎖」の可能性や対策をきちんと報告しておけば、その後のジャニーズ内部やメディアの対策も変わった可能性は、かなりあります。

現役タレントには被害者はいない、という認識

さらに、重大なことは、現役タレントたちには、ヒアリングはほとんど行われず、事務所関係者、幹部クラスなど18名程度で調査がすまされたことです。

その結果、確率的にはありえない、現役タレントに被害者はいないという認識がまかり通ってしまうことになってしまいました。以下、報告書を引用します。

<特別チームは、合計 41 名の関係者のヒアリングを実施した。その内訳は、被害者等が23名、ジャニーズ事務所関係者等が18名であった。

ア 被害者等のヒアリング

報道機関を通じてジャニー氏からの性加害を公表した被害者や下記(3)の「専用窓口」等を通じて被害申告を行ってきた被害者等のうち、本件調査への協力に承諾した者のヒアリングを実施した。ヒアリングは、ヒアリング協力者の状況や希望に応じて、対面、Zoomを利用したWeb会議方式、電話又はメールにより、特別チームの委員又は事務局が出席の上で実施した 4。ヒアリングは、ジャニーズ事務所関係者の同席なく実施された。>

<2023 年6月26日から同年8月22日までの間に、合計23人の被害者等のヒアリングを実施した。そのうちジャニーズ Jr.の経歴のある者は 20 名であり、他の3名は、ジャニー氏から幼少期に性加害を受けたA氏とB氏、および新芸能学院在籍時に性加害を受けたC氏である。

イ ジャニーズ事務所関係者等のヒアリング

また、ジャニーズ事務所の関係者等についても、特別チームの委員又は事務局が対面でヒアリングを行った。ヒアリングは、当該ヒアリングの対象者以外のジャニーズ事務所関係者の同席なく実施された。ジャニーズ事務所関係者等に対するヒアリングについては、ジュリー氏(2回 )、 代表取締役副社長白波瀬傑氏(以下「白波瀬氏」という。2回)ら役員のほか、元ジャニーズ事務所取締役、部長、チーフマネージャーなど合計18名に対して実施した。>

つまり、「特別再発防止チーム」は、現役タレントにはほとんど調査をしていなかったと報告書には記していることになります。

私は取材過程で現役タレントにも被害者がいることを知っていましたし、むしろ、いい役柄をとるために自ら身体をジャニー氏に提供した少年が存在したことも知っています。

私や週刊文春チームの取材結果だけでなく、公的機関の調査でも、虐待事件や幼児の性加害から、虐待の連鎖がおこる確率がきわめて高いことは判明しています。旧ジャニーズ事務所には、現役タレントは、ジュニアを含めると 270名近くが在籍しているとされています。

270名ものタレントに誰一人として、犠牲者は存在せず、被害者は現役以外で申告した者だけで2024年の時点で、993人(そのうち、事実が確認された423人に対して補償金が支払われ、審査の結果、補償の対象外とされた人数は126人とされていますが、まだ未確定です)。このあまりにアンバランスな数字に疑問をもつべきなのに、そこに、深入りした調査報告もありませんでした。

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