「誰が自民を駄目にした」世論頼みの首相、旧安倍派を逆手に打開狙う

森岡航平

 自民党内の「石破おろし」が加速するにもかかわらず、石破茂首相(自民党総裁)の続投への意欲が衰えない。25日には両院議員総会を求める署名が必要な賛同数に達し、党青年局も最後通告を突きつけたが、首相は野党党首らとの会談の場で「辞めません」と明言した。熱を帯びる首相の発言に側近は「総理はものすごく使命感に駆られている」と驚く。何が首相を突き動かすのか。

憤る石破氏「でたらめをやられてたまるか」

 「首相が退陣の意向を固めた」との一部報道が伝えられた23日夜、首相は周囲に「古い自民党には戻したくない」と強い口調で語った。

 首相が「古い自民党」として強く意識するのが、「石破おろし」を主導している面々だ。首相は「石破おろし」は本来は解散しているはずの派閥単位による政治行動であり、とりわけ派閥の裏金問題の震源地だった旧安倍派が活発に動いているとみているからだ。

 首相は周囲に「こんなでたらめをやられてたまるか。だれがここまで自民党を駄目にしたんだ。自分のことしか考えていない」と強い憤りを見せる。

 党内でリベラル寄りとみられる首相は、参院選で参政党が台頭したことも強く懸念しているという。側近は首相の「使命感」の一つとして「総理が今、危機感をもつのは、参政党が伸びるような社会状況だ」と解説する。

「党内世論と本当の世論は全く別」

 また、首相周辺によると、首相は衆参両院で少数与党に転落した今、自分こそが野党連携を実現できるリーダーだと考えているという。自民を飛び出した経験のある首相は、野党議員らとの人脈があり、とくに立憲民主党の野田佳彦代表、日本維新の会の前原誠司共同代表との個人的な関係は深い。首相は周囲に「野党に頭を下げて、予算や法律を成立させられる人がほかにいるのか」と語る。

 党内で四面楚歌(しめんそか)の首相だが、期待しているのが、世論の動向だ。首相はもともと、世論に強い関心を寄せる政治家人生を送ってきた。自身が立ち上げた派閥が雲散霧消し、非主流派に甘んじながらも、5度目の挑戦で首相の座を射止めた胆力の源は、「次の首相」のトップとして自身に期待してくれた世論にあった。首相はよく側近議員に対し、「党内世論と本当の世論は全く別ものだ」と語る。

 昨秋の衆院選の大敗後の報道各社の世論調査では、内閣支持率が落ち込む一方、6割超が「(首相は)辞任する必要がない」と答えた。日米関税交渉がまとまったことも重なり、同様の傾向をたどるのではないかとの読みもある。

 とはいえ、昨秋の衆院選に続き、今回2度目の国政選挙で与党が大敗した最大の責任は、与党を率いる首相自身にある。23日には、歴代首相経験者の麻生太郎、菅義偉両元首相、岸田文雄前首相の3氏と会談し、「石破おろし」の沈静化を図ったが、逆に麻生氏からは「石破首相では選挙に勝てないという民意が示された」と追及され、3氏からは続投を容認する意見は出なかった。

 党内では、中堅・若手による両院議員総会を求める動きが活発化し、各地の地方組織からも連日のように引責辞任を求める動きが相次ぐ。党外でも、首相に野党協力を引き出す求心力はとぼしく、野党側からは「首相がいつまでに辞めると明確になれば、野党間のいろんな連携を加速することはあり得る」(野田氏)との意見すら出ている。

 かつて首相と政治行動をともにした閣僚経験者はこんな嘆きを語る。

 「首相も、辞めさせようとする側も、責任を押しつけ合っている。有権者から『自民はやはり変わらない』と言われることがなぜ分からぬのか」

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この記事を書いた人
森岡航平
政治部|首相官邸担当
専門・関心分野
国内政治
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    河野有理
    (法政大学法学部教授=日本政治思想史)
    2025年7月25日22時51分 投稿
    【視点】

    党内世論に抗して一般「世論」を味方につけて状況を打開しようとするのは、かつての小泉純一郎政権がとった手法であった。あの時の悪者は経世会であったが、今度は清和会を標的にして同じ構図の再現を狙ってるのかもしれない。 だが、あの時との最大の違いは選挙で示された民意の結果である。小泉氏は選挙に大勝して党内世論とは異なる一般「世論」の存在をいわば証明してみせた。だが、石破政権にはすでに審判が下されており、そこで示された民意は石破政権にとってあたたかいものとは到底言い難い。ネットや官邸前のデモでの「石破辞めるな」の声を首相は頼りにしているのかもしれないが、それを党内世論に抗する一般「世論」の声と見なすのは、やや心許ないのではなかろうか。

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    中北浩爾
    (政治学者・中央大学法学部教授)
    2025年7月25日23時14分 投稿
    【視点】

    旧安倍派に対する批判を向けるのであれば、石破総理は就任直後の衆院選の際、小泉純一郎首相ばりに「古い自民党をぶっ壊す」と叫んで、一定金額以上の「裏金」議員をすべて非公認にした上で「刺客」候補を送り込めばよかったと思います。また、選択的夫婦別姓制度に賛成である以上、法案を提出し、反対する「保守派」の議員と一線を交え、離党に追い込めばよかったと思います。そういうことをせずに、この期に及んで「使命感に駆られている」とは、笑止千万です。 また、「参政党が伸びるような社会状況」に危機感を持っているといいますが、石破総理の何をやりたいかという打ち出しの弱さが、自民党を敗北に導き、参政党を伸ばしたんじゃないでしょうか。石破総理が総理の座にしがみつけば、しがみつくほど、参政党が伸びる恐れがあります。 色々な理屈はあるかもしれませんが、参院選で「必達目標」と自らが設定していた自公50議席を割り込んだ以上、退陣すべきです。自分の言葉には責任を持つというのは政治家として当然です。

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