特定抗争指定暴力団・絆会の本部事務所(主たる事務所)について、国家公安委員会が新たに大阪府寝屋川市香里北之町の建物と認定したことが16日、分かった。絆会の本部事務所を巡っては建物の解体や売却によって流転を繰り返してきた。指定暴力団として規制するには本部事務所の特定が必要で、警察当局が新たな本部事務所の特定を進めていた。
捜査関係者によると、新たに本部に認定された建物はもともと傘下組織の事務所。警察当局は組員の動向を見極めた結果、本部事務所として使用していると判断、今後暴力団対策法に基づく事務所の使用制限などを検討する。建物は住宅街の一角にあり、今後、近隣住民の代理として「暴力追放推進センター」(暴追センター)が事務所の使用差し止めを求める訴訟を起こす可能性がある。
絆会(金禎紀=通称・織田絆誠=会長)は平成29年4月、特定抗争指定暴力団・山口組から分裂した同・神戸山口組からさらに離脱する形で、「任俠団体山口組」(当時)として設立された。
神戸山口組とともにそれぞれ山口組と対立し、抗争状態にあるが、本部事務所の認定を巡っては流転してきた。
当初は平成30年2月、兵庫県尼崎市のビルが本部事務所とされた。これを受け、暴追センターが使用差し止めを申し立て、同9月に神戸地裁が使用を禁じる仮処分を出した。結局、民間事業者がこの土地を購入、令和3年12月に建物は解体された。
5年7月に大阪市中央区のビルが新たな本部事務所と認定されたが、このビルについても同様の動きがあり、昨年12月に民間へ売却。警察当局が新たな本部事務所の特定を進めていた。
警察庁によると、令和6年末時点で絆会の構成員と準構成員は計140人。
施行から30年超…暴対法も想定外か
特定抗争指定暴力団・絆会の本部事務所が新たに大阪府寝屋川市の建物と認定されたが、平成29年の結成以来、公的な認定と使用実態が必ずしも合致しない状態が続いてきた。拠点の流動化は、本部事務所の特定を規制の前提としている暴力団対策法の「網」からこぼれかねず、専門家からは同法を見直すべきだとの指摘も上がる。
暴力団対策法は平成4年に施行。当時は暴力団が事務所を公然と構えていることが一般的だった。しかし、現在ではスマートフォンなどの通信機器が発達し、ある捜査関係者は「事務所を持つメリットが薄れている」と話す。
社会的な暴排機運の高まりや平成27年の山口組分裂に伴う取り締まりの強化も、約30年前が想定した状況との「乖離」を生じさせている。
25年施行の改正法で、近隣住民に代わって各地の暴力追放運動推進センターが事務所使用禁止の仮処分を裁判所に求められる「代理訴訟制度」が設けられた。事務所周辺住民が、この制度を利用することは珍しくない。
また、山口組分裂後、神戸山口組や絆会なども含めて4団体が特定抗争指定暴力団となっているが、特定抗争指定暴力団の場合、公安委員会が定める「警戒区域」内では組事務所への立ち入りが禁じられる。
こうした“二重の規制”を背景に、本部事務所の流転は絆会以外でも起きている。神戸山口組は平成27年の設立以来、当初の兵庫県淡路市から神戸市中央区、そして現在は同県稲美町と2度にわたり本部事務所の認定が変わっている。
福岡県警本部長などを歴任した京都産業大の田村正博客員教授(警察行政法)は「(暴対法制定時は)暴力団としての組織実態はありながら、事務所だけが無くなるという事態を想定していなかった可能性がある」と指摘。「時代の変化に柔軟に対応し、本部事務所が流動化している状況では組長の住居を本部とみなすといった規定を新たに加える法改正も検討すべきだ」としている。