大阪市の小さな建物。真っ暗な空間に赤い衣装に身を包んだ小柄な男性の姿が浮かび上がる。ごろごろと床を転がる音と息遣いが聞こえてきた。障がい者による表現を追求するパフォーマンス集団「態変（たいへん）」の稽古だ。

（共同＝植田千晶）

＊写真・記事の内容は、２０２４年５月までの取材を基にしています。

稽古する下村雅哉さん（右）と渡辺綾乃さん＝２０２４年５月１２日、大阪市（共同）

 

「態変」を主宰する金滿里さん。３回目の上演となる「ヴォイツェク」を「社会の最下層で起きていることを表現している」と評する。「ウクライナやガザで戦争や虐殺が起きている中、そこでより傷つくのは力の弱い女性や子どもたち。それを私たちの視点から表現したい」と語った＝２０２４年５月５日、大阪市（共同）

 

　幼い頃にポリオにかかり重度の身体障がい者となった主宰者の金滿里（キム・マンリ）さんが「障がい自体を表現力に転じ、未踏の美をつくり出す」と旗揚げ、大阪を拠点に活動している。

　ユニタードに包んだ身をくねらせ、床をはい、舞台を縦横無尽に動く。「態変」の表現について金さんは「世界のどこに行っても驚かれるくらい最先端」と自信を持つ。
　６月上旬に行われた公演「ヴォイツェク」は下級軍人が不倫した愛人を刺殺した実際の事件が題材。「戦争や貧困で苦しむ最下層の人々を描いた今こそやるべき作品」と力を込め今日も稽古に励む。

下村雅哉さん（５６）は脳性まひがある。表現では「かっこよく見られたいのではなく、ありのままで」と考えている。「健常者の世界にいると一般的な障がい者のイメージに自分の価値観を合わせてしまうことがある。そこにあらがいたい」＝２０２４年５月１２日、大阪市（共同）

 

井尻和美さん（６０）。「態変」に参加後、恥ずかしいと感じていた脳性まひの自分の姿が唯一無二だと自信が持てた。「言語障がいのため伝わらない心の叫びをこれからも表現していきたい」と自身の携帯電話に打ち込んでくれた＝２０２４年５月３日、大阪市（共同）

 

池田勇人さん（４７）は参加をきっかけに、脳性まひ特有の意思とは無関係に体が動いてしまう不随意運動が嫌いで、惨めに感じていたことが分かった。「自らの障がい者性をいじめていたことに気がついて、もっと自分を愛したくなった」＝２０２４年５月５日、大阪市（共同）

 

小泉ゆうすけさん（５３）は三十数年前から所属し、今では制作にも携わる。表現を続けるうちに「健常者の社会の中では分からなかった自分が何者か分かった気がする」と振り返る。「これからも自分の身体性を追求していきたい」＝２０２４年５月５日、大阪市（共同）

 

渡辺綾乃さん（２８）は障がい者はできないことが多いという偏見によく遭遇するが、「態変」は「障がい者も健常者もみんな平等な場所。この活動を長く続けていきたい」と意気込んだ＝２０２４年５月３日、大阪市（共同）