モデルでも活躍した朝ドラヒロインたち

朝ドラ(連続テレビ小説)のヒロインというと、オファーを受けて出演する女優もいるが、多くの女性はオーディションを受け、高い倍率の中からたった1人が選ばれるという狭き門だ。それは、駆け出しの若い女優に限らず、経験豊かな女優もである。そして、このヒロインの中には、モデル出身の女優が多数いる。ここではそんなティーン誌や女性ファッション誌、CMやショーなど、モデルでも活躍した主な朝ドラヒロインたちを紹介していこう。

あの大女優も実はモデルだった!

1988(昭和63)年に放送された第41作『純ちゃんの応援歌』は、野球が大好きな小野純子が甲子園球場の近くに旅館を開き「球児の母」と呼ばれる女将さんになる青春奮闘記。本作のヒロインを務めた山口智子は、当時企業のイメージガールやモデルとして活躍しており、演技経験はまったくない新人だった。しかし応募総数713名の中から見事ヒロイン役の座を勝ち取る。

撮影開始にあたり、演出の佐藤幹夫チーフディレクターは「山口さんはこの役のために生まれてきたような人。非常にナイーブで素直で、感性のいい女性です。そうした彼女の魅力が、テレビから伝わるように、ドラマ作りをしたい」(※1)と山口を絶賛し、ドラマ制作に思いを寄せた。

一方、山口自身はヒロインに決定後「今までモデルの仕事だけで演技は初めて。台本を渡されてちょっとお芝居するんですが、『わーどうしよう、こんなところで!人がいっぱい見ていて恥ずかしい、もう帰りたい』って思いました(笑)。ですが実際にやってみると、これが気持ちいいんです!なんともいえない爽快感!」(※1)と女優として第一歩を踏み出す感想を初々しく語っていた。

連続テレビ小説 純ちゃんの応援歌 〈第41作〉
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連続テレビ小説 純ちゃんの応援歌 〈第41作〉

また、1991(平成3)年に伝説的ラジオドラマをテレビ化した『君の名は』(朝ドラ第46作)でヒロイン・氏家真知子を演じた鈴木京香もモデル出身者のひとり。

鈴木は高校2年生からモデルクラブに所属し、企業のキャンペーンガールとして活動後に映画で女優デビューを果たす。『君の名は』では3000人を超える応募者の中から、5次にわたる選考を経てヒロインに選ばれた。鈴木はヒロイン発表会見の席で「前作を意識せず、スタッフの皆さんに教えてもらって頑張ります」(※2)と抱負を語った通り、見事重圧をはねのけて1年間真知子を演じきり、その名は日本中に知られることとなった。

そしてもう一人、忘れてはならないのが、1996(平成8)年放送の朝ドラ第54作『ひまわり』に主演した松嶋菜々子だ。高校生のときにスカウトされモデルとなった松嶋は、本作での主演を機に本格的に女優として活動を開始。まさに『ひまわり』は松嶋にとっての出世作となった。

本作は、松嶋演じる南田のぞみがのんきなOL生活から一転、あることをきっかけに弁護士を志すという平成版サバイバルドラマ。朝ドラでは初めて2週完結(全27週を2週ずつ区切り、連続した12回分を一章と位置づける)のスタイルが取られ、話題を呼んだ。ちなみに『ひまわり』というタイトル決定にあたり、背が高くて明るく元気な松嶋のイメージが一役買ったという。

4月放送分にのぞみと対立する上司役としてゲスト出演した浅野ゆう子も、当時「背が高いことはヒロインを演じるうえでの才能のひとつ」と先輩女優として松嶋のすらっとしたスタイルに太鼓判を押し、「感性も豊かだし、健康美のある女優を目指して頑張ってほしい」(※2)とエールを送っていた。

  • 連続テレビ小説 君の名は 〈第46作〉
    連続テレビ小説 君の名は 〈第46作〉
  • 連続テレビ小説 ひまわり 〈第54作〉
    連続テレビ小説 ひまわり 〈第54作〉

2000年以降、徐々に増えてきたモデル出身者

2003(平成15)年の朝ドラ第68作『こころ』のヒロイン・中越典子は、1998(平成10)年にモデルデビュー。女性ファッション誌やテレビ番組で活躍する傍ら、朝ドラヒロインオーディションに挑戦し続け、5回目にして念願の合格を掴み取った。

そんな中越が演じたのは、江戸から続く老舗鰻屋「きよ川」の一人娘・こころ。こころは医師・朝倉優作と縁あって結婚するが、まもなく優作が不慮の事故死を遂げる。そこでこころは優作と先妻との2人の子どもを引き取って育てながら、「きよ川」の若女将を目指し修業に励んでいく。

クランクアップ後、中越は「こころという女性を通じて、妻・母親・未亡人という異なる生き方を体験できたことは貴重な経験でした」と役どころを振り返りつつ、「私は『こころ』を通じ、ものづくりの苦しさと喜びを知りました。この出会いをステップに女優として経験を積んでいきたいと思います」(※2)と心意気を新たにした。

続いて第70作目の朝ドラ『天花』では、藤澤恵麻がヒロインに決定。藤澤は、2001(平成13)年に女性ファッション誌のモデルオーディションでグランプリを獲得し、専属モデルとして芸能界へ。本作がドラマ初出演・初主演で演技はまったくの未経験という藤澤をあえて選んだ理由について、佐野元彦プロデューサーは「純粋で、すがすがしい魅力が(ヒロインの天花に)ぴったりでした」と当時語っていた。

また、チーフディレクターの長沖渉も「芝居をしたことのない女の子を主役に選ぶのは冒険でしたが、藤澤さんの持つ原石の魅力はドラマの中の天下の純粋性と共通するものでした」(※2)と藤澤と天花を重ね合わせてコメント。まさに藤澤自身の魅力が、天花というヒロインをたぐりよせた。

2007(平成19)年放送の第76作目の朝ドラ『どんど晴れ』では、2作ぶりにヒロインオーディションを実施。その結果、モデルとしてテレビや雑誌で活躍していた比嘉愛未がヒロインの座を射止めた。

劇中で比嘉が演じた浅倉夏美は、盛岡の老舗旅館で女将を目指して奮闘。比嘉自身もハードな収録が日々続くなか「体力をつけるために家で作ったスープを持参してNHKに通っていました。お気に入りのスープは野菜をホールトマトと一緒に煮込んだもの、週末に作って冷凍しておいたものを持っていきます」(※2)と体をこわさないよう、体調の管理に気を配っていたとのこと。韓国俳優・ジュンソ役で出演したリュ・シウォンは、懸命に芝居に打ち込む比嘉を「常に役柄に入り込んでいて一生懸命な彼女の姿を見ていると、自分が新人だったころのことを思い出して応援したくなります」(※2)とあたたかく見守っていた。

そんな『どんど晴れ』から1年後。今度は、ティーン向けファッション雑誌で専属モデルとして活躍した榮倉奈々が、2008(平成20)年放送の朝ドラ『瞳』でヒロイン・一本木瞳を演じることとなった。

この作品は東京の佃、月島界隈を舞台に、ダンサーを夢見るヒロイン・瞳が祖父とともに里子を育てていく…といったストーリー。榮倉は役作りのため、撮影開始3か月前からヒップホップダンスのレッスンに通い、基礎の基礎から猛特訓を重ねたという。

また、榮倉がNHK月曜ドラマシリーズ『ジイジ~孫といた夏』で共演した西田敏行も瞳の祖父・勝太郎役で本作に出演。榮倉は「実は私が女優を志したのは、西田さんとの出会いが大きく影響しています。西田さんは本当に面白くていつも笑わせてもらっているんです。お芝居を観ているだけで勉強になりますし、尊敬しています」(※2)と再共演の喜びをまじえながら、西田への思いを語っていた。

  • 連続テレビ小説 こころ 〈第68作〉
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    連続テレビ小説 こころ 〈第68作〉
  • 連続テレビ小説 天花 〈第70作〉
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  • 連続テレビ小説 どんど晴れ 〈第76作〉
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    連続テレビ小説 どんど晴れ 〈第76作〉
  • 連続テレビ小説 瞳 〈第78作〉
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『あまちゃん』と『ごちそうさん』のヒロインも!

2013(平成25)年、お茶の間に一大ブームを巻き起こした朝ドラ『あまちゃん』。実はヒロイン・天野アキを演じた能年玲奈も、モデル出身だったことをご存知だろうか。 能年はローティーン向けファッション雑誌のオーディションでグランプリを取ったことがきっかけでモデルデビュー。以降、CMや映画、ドラマなど活躍の場を広げていった。

『あまちゃん』といえば、能年演じるアキが祖母・夏(宮本信子)の影響で海女を目指し、実際に海へ潜ってウニを取るシーンも話題に。能年はヒロインオーディション合格後、収録に先立って2012(平成24)年8月から泳ぎと潜水特訓をスタート。最初はプールで素潜りを身につけ、次に伊豆の海で練習。そして9月に岩手県久慈市での水中撮影本番に臨んだという。その時の感想を聞かれた能年は「最初、東北の“いかつい海”を見たときはすごく不安になりましたが、いざ潜ってみるとかわいらしい魚がそよそよと泳いでいるんです!」と意外と楽しんだ様子。また、「東北の海は冷たくて、秋が深まるにつれてだんだん外気も海も“ひょぉぉぉーっ”と寒くなりました(笑)。でもそれで逆にアドレナリンが出ました!」(※2)と気合の入ったコメントも残していた。

そして、『あまちゃん』からバトンタッチを受け、2013年9月30日に放送開始の朝ドラ第89作目『ごちそうさん』。

ヒロインに抜てきされた杏は、モデルとして海外のファッションショーで活躍した経歴の持ち主。2007年以降はドラマや映画に出演する機会が増え、さらにCDデビュー、エッセイ集を出版するなど多角的に活動している。

杏が本作で演じるのは、東京の洋食屋で生まれ育った娘・卵野め以子。め以子は筋金入りの食いしん坊だったが、下宿人・西門悠太郎(東出昌大)と出会い、「食べたい」という気持ちが「食べさせたい」という情熱へと変化。やがてふたりは結婚し、め以子は“食い倒れの街”大阪へと嫁ぐことに。しかし、東京と大阪は“料理の味”や“料理の根本の考え方”が異なるほか、悠太郎の家族も一筋縄ではいかない人ばかりで困難にぶち当たることがしばしば。それでもめ以子は「夫を幸せにするには彼の家族をも幸せにしなくては」と思い定め、奮闘していく。

本作の舞台が大正と昭和、さらに物語の軸が「食」ということで杏は自宅でぬか床を育ててみたり、自炊する際はめ以子と同じく片刃の和包丁を使ってみたりと気合十分の様子で撮影に挑んだ。さらに劇中で袴や着物を着用した際には「機能的でラク、しかも可愛い!」と大絶賛していた。和服を美しく着こなす杏の姿も、見逃せない。

  • 連続テレビ小説 あまちゃん 〈第88作〉
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    連続テレビ小説 あまちゃん 〈第88作〉
  • 連続テレビ小説 ごちそうさん 〈第89作〉
    連続テレビ小説 ごちそうさん 〈第89作〉

小柄ながらも実はモデル!

2015年4月から放送された朝ドラ第92作目『まれ』。能登地方に移り住んだヒロイン・津村希(まれ)が、世界一のパティシエを目指し奮闘する物語だ。横浜でパティシエとして修行したのち、能登に戻り、ケーキ店をオープンさせる。希役に抜てきされたのは、すでに大河ドラマ『龍馬伝』や朝ドラ『花子とアン』に出演していた土屋太鳳。体育大学に進むほど、運動神経がよいことで知られる土屋は、『まれ』のオープニングでダンスを華麗に踊り、存在感を示したが、実は身長は155cmと小柄。しかし、朝ドラに出演する前はジュニアファッション誌の専属モデルを2年ほど務めていた。

連続テレビ小説 まれ 〈第92作〉
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連続テレビ小説 まれ 〈第92作〉

今世紀最高の視聴率『あさが来た』のヒロインも!

『まれ』に続く朝ドラ第93作目『あさが来た』は2015年9月末から放送。銀行、保険会社、女子大学を作るなど、幕末から大正にかけて、大阪を拠点に活動した企業家・広岡浅子の生涯を描いた。ヒロイン・浅子役には、女優の波瑠。デビュー後、映画やドラマに出演はしていたが、ティーン誌で専属モデルになり、そのティーン誌を卒業すると164cmのすらっとした体型を生かし、女性ファッション誌の専属に。その人気のまま『あさが来た』のヒロインを射止め、その演技力と透明感のある美しさで女優としてさらに注目を集めた。

連続テレビ小説 あさが来た 〈第93作〉
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連続テレビ小説 あさが来た 〈第93作〉

4作あいて、久しぶりのモデル出身ヒロイン

2018年4月から放送された朝ドラ第98作目『半分、青い』のヒロイン・楡野鈴愛(にれのすずめ)役は、2366人の中からオーディションで選ばれた永野芽郁。子役としてデビューしたあと、ファッション誌で専属モデルを務め、当時、現役高校生ながら映画やドラマに次々と出演。カメラテストで彼女を見た瞬間、脚本家の北川悦吏子は「ヒロインを見つけた」と思ったそうだ。左耳を失聴しているヒロイン・鈴愛(すずめ)が漫画家の道に挫折しながらも「ひとりメーカー」としてやがて家電業界に新風を巻き起こしていく姿を、永野が持ち前のポジティブさで演じ、多くの話題を呼んだ。

連続テレビ小説 半分、青い。 〈第98作〉
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連続テレビ小説 半分、青い。 〈第98作〉

記念すべき朝ドラ100作目もモデル出身ヒロイン

2019年4月にスタートする第100作目『なつぞら』は、戦災孤児となったヒロインの奥原なつが、北海道の開拓者精神を受け継ぎ、上京後、アニメーターとして活躍していく姿を描く。このヒロイン・なつを演じるのは、制作サイドから指名された広瀬すず。広瀬は、朝ドラ第97作『わろてんか』(2017年後期)に出演した姉の広瀬アリスとともにティーン向けファッション誌の専属モデルで人気を集め、朝ドラオファーより以前から多くの映画やドラマで主演を務めている。

10代にしてすでに女優として経験をつんでいる広瀬について制作プロデューサーは、「この年齢でありながら幅広い作品に出演し、巧みな演技力で光るお芝居で返している。彼女ならこの作品を成功できると思いました。広瀬さんのまだ未知数な部分も楽しんでいただけるように制作していきたい」と語った。一方、広瀬もヒロイン決定会見にて、「100作目ということにプレッシャーを感じています。私に手をさしのべてくださった方々を裏切らないように、新しい風を吹かせることができたらいいなと思います。自分にとって朝ドラは日常の朝の一コマなので、その中に自分が入るというのは想像がつかないですし、不思議なのですが、皆さんにとってもこの作品がそのような存在(日常の一コマ)になっていただけたるようがんばります」と、意気込みを語った。

本文中出典
※1 『グラフNHK』
※2 『NHKウィークリーステラ』

モデルでも活躍した主な朝ドラヒロインたち

  • 第41作『純ちゃんの応援歌』
  • 山口智子 1988(昭和63)年
  • 第46作『君の名は』
  • 鈴木京香 1991(平成3)年
  • 第54作『ひまわり』
  • 松嶋菜々子 1996(平成8)年
  • 第68作『こころ』
  • 中越典子 2003(平成15)年
  • 第70作『天花』
  • 藤澤恵麻 2004(平成16)年
  • 第76作『どんど晴れ』
  • 比嘉愛未 2007(平成19)年
  • 第78作『瞳』
  • 榮倉奈々 2008(平成20)年
  • 第88作『あまちゃん』
  • 能年玲奈 2013(平成25)年
  • 第89作『ごちそうさん』
  • 杏 2013(平成25)年
  • 第92作『まれ』
  • 土屋太鳳 2015(平成27)年
  • 第93作『あさが来た』
  • 波瑠 2015(平成27)年
  • 第98作『半分、青い』
  • 永野芽郁 2018(平成30)年
  • 第100作『なつぞら』
  • 広瀬すず 2019(平成31)年

 

※NHKアーカイブスブログ(2013年9月27日)より加筆・転載

みんなのコメント

  • 藤澤恵麻さん演じる天花が大好きでした。 再放送してくれないかな…。あーちゃんさん
  • 『純ちゃんの応援歌』のときの山口智子はかわいかったな〜。くまじん2222号さん
  • やっぱり「昭和」は遠くなりにけりなのねぇ~(しみじみ) 「昭和」のヒロインは却下かな(笑) 「ハイカラさん」の手塚理美さんとか、「虹を織る」の紺野美沙子さんもモデル(っていうかキャンペーンガール?)の括りやと思うのだが、まいっか。更紗さん
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