“朝ドラ”ヒロインと“大河”女優
朝ドラで注目を集め、後に大河ドラマの主役や、主役の妻を演じてきた俳優は意外と多い。またその逆に、大河ドラマ出演から朝ドラヒロインになった俳優もたくさんいる。ではこれまでどんな方たちが朝ドラと大河ドラマで活躍したのだろうか。その主な顔ぶれを見てみよう。
朝ドラのヒロインから大河の主役へ
大河ドラマ第41作『利家とまつ~加賀百万石物語~』(2002年)では、朝ドラ第54作『ひまわり』(1996年)のヒロイン・松嶋菜々子が唐沢寿明とダブル主演。
くしくも松嶋は、『ひまわり』のクランクアップ記者会見で「今後の目標は?」と聞かれ、「大河ドラマに出たいです(笑)」と答えたが、その目標が主役という形で現実のものになった。
一大ブームを巻き起こした大河ドラマ第47作『篤姫』(2008年)。主役を務めた宮崎あおいは、放送開始当時22歳1か月で、この時点では大河ドラマ主役の最年少記録。
朝ドラ第74作『純情きらり』(2006年)でヒロイン・桜子を演じているさなかに『篤姫』への出演依頼を受けた宮崎は、1年後に大河の主役を務められるほど成長できているのか自信が持てず、出演を迷ったという。しかし、多くの俳優陣に支えられ、日々成長できることに魅力を感じ、出演を決意。朝ドラの撮影を終えてすぐに、大河ドラマの撮影準備に入った。
朝ドラ第84作『おひさま』(2011年)のヒロイン・井上真央は、大河ドラマ第54作『花燃ゆ』(2015年)の主演に。吉田松陰の妹で、伊藤博文、吉田稔麿、前原一誠ら、その後の日本を動かすことになる若者たちが集まった松下村塾を切り盛りし、のちに久坂玄瑞の妻となる女性・文を演じた。井上は大河ドラマ初出演にして初主演。
朝ドラでヒロイン、大河では主人公の妻に
朝ドラの主役を経験した後、大河ドラマで主人公の妻という重要な役どころを務めるケースも少なくない。
以下、大河ドラマの放送順でご紹介しよう。
朝ドラ26作『虹を織る』(1980年)でタカラジェンヌを目指すヒロイン・佳代を演じた紺野美沙子。大河ドラマ第26作『武田信玄』(1988年)では、一転して信玄(中井貴一)との愛情のもつれに苦しむ正室・三条の方を熱演した。
ドラマ史上最高視聴率の62.9%を記録し国民的ドラマとなった朝ドラ『おしん』(1983年)。ヒロイン・田中裕子は、大河ドラマ第28作『翔ぶが如く』(1990年)で西郷隆盛(西田敏行)の妻・いとを演じた。また、このドラマでは、第2部の明治編で、ナレーションも務めている。
朝ドラ34作『澪つくし』(1985年)で一途なヒロイン・かをるを演じた沢口靖子は、大河ドラマ35作『秀吉』(1996年)で「脱優等生を目指します!」と宣言。秀吉(竹中直人)と丁々発止のやりとりをするチャーミングな正室・おねを熱演し、新機軸を打ち出した。
一方、朝ドラ第48作『ひらり』(1992年)でチャキチャキの江戸っ子ヒロインを演じた石田ひかりは、一転して大河ドラマ第37作『徳川慶喜』(1998年)では、慶喜(本木雅弘)の正室で公家出身の美賀という役どころだった。
朝ドラのヒロインから、ほぼ四半世紀を経て大河主人公の妻となったのが、大竹しのぶ。
デビューの翌年、朝ドラ第15作『水色の時』(1975年)の主役・知子に抜てきされた大竹しのぶは、大河ドラマ第38作『元禄繚乱』(1999年)で大石内蔵助(中村勘九郎)の妻・りくを演じた。主役の勘九郎は「大竹さんは僕の初恋の人。夫婦役ができるのがとてもうれしい」と話し、大竹との息もぴったりだった。
2000年以降で、「朝ドラのヒロインから、大河主人公の妻役」は次の2つ。
まずは、シングルマザーの子育て奮闘記を描いた朝ドラ第62作『私の青空』(2000年)のヒロイン・なずなを演じた田畑智子は、大河ドラマ第43作『新選組!』(2004年)で近藤勇(香取慎吾)の妻・つね役を好演。新選組ゆかりの地・京都出身ということで、大河への出演に意欲を見せていた。
そして、朝ドラ69作『てるてる家族』(2004年)で主役の冬子を演じたすぐ次の年、大河ドラマ第44作『義経』(2005年)で静役を務めた石原さとみ。
大河ドラマへの出演について「時間をかけてじっくり役と向き合えるのが幸せ。朝ドラでは自分が役にどんどん近づいていく感覚があって、静役でもそんな経験ができることを期待しています」と話した。
朝ドラ出演から、大河主人公と大河主人公の妻役へ
『てるてる家族』(2003年)でヒロインの姉役として注目された上野樹里は、2011年の大河ドラマ第50作『江(ごう)~姫たちの戦国~』の主役・江を演じた。江は浅井長政と信長の妹・お市の方の三女として生まれ、後に二代将軍・徳川秀忠の正室となる女性。上野は『てるてる家族』では四姉妹の三女、『江(ごう)~姫たちの戦国~』では三姉妹の三女という役柄だった。
第87作『純と愛』(2012年)で朝ドラに初めて出演し、第90作『花子とアン』(2014年)ではヒロイン安東はなの妹・かよを演じた黒木華。黒木は、大河ドラマ第55作『真田丸』(2016年)で主人公・真田信繁の最初の妻(身分違いのため側室)・梅や、第57作『西郷どん』(2018年)で主人公・西郷隆盛の3番目の妻となった岩山 糸を演じている。
大河ドラマ出演から朝ドラヒロインの逆パターン
貫地谷しほりは大河ドラマ第46作『風林火山』(2007年)主人公・山本勘助の妻・ミツ役で大河ドラマ初出演。その年の10月から放送された朝ドラ第77作『ちりとてちん』ではヒロイン・和田喜代美役を射止めた。また、堀北真希は大河ドラマ第47作『篤姫』(2008年)和宮役で出演。4年後の2012年、朝ドラ第86作『梅ちゃん先生』ではヒロイン・下村梅子を演じた。
杏の大河ドラマ初出演は第48作『天地人』(2009年)愛姫役。3年後の第51作『平清盛』(2012年)では北条政子を演じ、その翌年、朝ドラ第89作『ごちそうさん』(2013年)でヒロイン・卯野め以子に選ばれた。
永野芽郁は大河ドラマ第52作『八重の桜』(2013年)で山川常磐役、第55作『真田丸』(2016年)は千姫役で出演し、2018年の朝ドラ第98作『半分、青い。』のヒロイン・楡野鈴愛役を務めた。
永野はヒロイン決定会見にて「祖父がすごく“朝ドラ”が好きだったので、いつか出たいと思っていました。学校の友達も見ていたので、朝のひとつの習慣になっているものなのだと思います。これから私が誰かの習慣になるドラマに出演できるというのは不思議な感じがします。ただそういう機会をいただいたので、自分らしく楽しくできたらいいなと思っています」と意気込みを語った。
第51作『平清盛』(2012年)で平清盛の長女・平徳子役、第53作『軍師官兵衛』(2014年)では豊臣秀吉の側室・淀(茶々)役、第57作『西鄕どん』(2018年)では、西鄕吉之助の2番目の妻・愛加那役で出演した二階堂ふみ。
大河ドラマで主人公の娘や妻、物語に大きく関わる人物を演じてきた二階堂は、2020年の朝ドラ第102作『エール』でオーディションを受け、主人公の妻でありヒロインでもある関内音役を射止めた。朝ドラ初出演の二階堂はヒロイン発表会見で、「きのう(会見前日)、結果を聞いたばかりなので、本当なのかな、噓なんじゃないかなと思っていたんですけど、この場に立って皆さんにご挨拶できて、本当にこの作品に携われるのだとわかり、うれしい気持ちでいっぱいです。窪田(正孝)さん演じる(古山)裕一さんを明るく元気に支えていけたらと思います」と、喜びいっぱいの笑顔で語った。
杉咲花の朝ドラ初出演は第94作『とと姉ちゃん』(2016年)。ヒロインの妹役だった。2019年には第58作大河ドラマ『いだてん』に出演。オリンピック出場の夢を抱くシマと、シマの娘・りくという二役を演じた。その翌年には朝ドラ第103作『おちょやん』(2020年)でヒロイン・竹井千代を熱演。
そして、2021年後期朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のヒロインは、上白石萌音と深津絵里、川栄李奈の3人。上白石は、大河ドラマ第50作『江~姫たちの戦国』(2011年)、第57作『西鄕どん』(2018年)、第60作『青天を衝け』(2021年)に出演。深津は、第37作『徳川慶喜』(1998年)に出演。二人とも『カムカムエヴリバディ』が朝ドラ初出演でヒロインを演じることになる。一方、川栄は、『とと姉ちゃん』で朝ドラ初出演をはたし、大河ドラマ『いだてん』(2019年)、『青天を衝け』(2021年)の出演を経て、朝ドラヒロインを務めることとなった。
【アカイさんの一言】
大河ドラマでヒロインを演じた後、連続テレビ小説で重要な役を演じた女優も多い。
藤村志保は、大河ドラマ第3作『太閤記』(1965年)で秀吉(緒形拳)の妻・ねね、第5作『三姉妹』(1967年)で岡田茉莉子、栗原小巻とともに主役を演じたあと、朝ドラで『ハイカラさん』(1982年)、『ひまわり』『てるてる家族』『だんだん』(2008年)など数多くの作品に参加している。
ほかに、大河ドラマ第10作『新・平家物語』(1972年)で平清盛(仲代達矢)の妻を演じ、後に『すずらん』(1999年)で朝ドラ初出演を果たした中村玉緒。また、大河ドラマ第15作『花神』(1977年)で主人公・村田蔵六(中村梅之助)の妻役だった加賀まりこが、『私の青空』(2000年)でヒロインの母親役を好演したのも印象に残っている。
9本の大河ドラマ出演経験があり、中でも第23作『春の波濤』(1985年)で主役を務めた松坂慶子は、2010年第82作『ゲゲゲの女房』で朝ドラ初出演。松下奈緒が演じるヒロイン・村井布美枝を温かく見守る貸本屋の女将を演じた。さらに第99作『まんぷく』(2018年)では安藤サクラ演じるヒロイン・今井福子の母、鈴役も。「わたしは武士の娘です」という口癖と、口うるさくもかわいらしいキャラクターが話題になった。
第58作『天うらら』(1998年)が朝ドラ初出演の仲間由紀恵は、大河ドラマ第39作『葵 徳川三代』(2000年)、第42作『武蔵MUSASHI』(2003年)を経て、第45作『功名が辻』(2006年)で山内一豊を演じる上川隆也とダブル主演。一豊の妻・千代を演じた。その後、仲間は2014年の朝ドラ『花子とアン』でヒロインの腹心の友・葉山蓮子を演じ話題に。2022年の第106作『ちむどんどん』ではヒロインの母・比嘉優子を演じる。
第56作『おんな城主 直虎』(2017年)の主人公を演じた柴咲コウは、2020年第102作『エール』で朝ドラ初出演。ヒロイン・音に影響を与えるオペラ歌手・双浦環を演じ、劇中美しい歌声を披露した。
このように、朝ドラと大河ドラマに出演した俳優たちが、デビュー間もないころから徐々に経験をつんで熟練した俳優へと変わっていく姿を見返してみるのも楽しい。
※NHKアーカイブスブログ(2010年4月2日)より転載、加筆、写真追加
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