美に対する燃え上がる嫉妬心 「金閣寺」(1976年)
【自決50年 令和にみる三島由紀夫の世界】
1970年11月25日、作家、三島由紀夫が東京・市谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺した。あれから50年。なぜ自ら命を絶ったのか。その答えを探すため、映画化された三島作品に触れてみたい。
『金閣寺』は、50年7月2日未明、21歳の僧侶が金閣寺に放火した実際の事件にヒントを得たことは有名。
吃音のコンプレックスに悩む青年・溝口(篠田三郎)はひそかに愛していた有為子(島村佳江)からバカにされ、心に傷を負う。僧侶の父を裏切る母の行為を知り心を閉ざしてしまうも、父は他界、その遺言で金閣寺に預けられた。父が日ごろから地上で最も美しいと言っていた金閣寺。溝口が見たものはまさに比類なき美の象徴であった。そして有為子や同僚僧侶の死を通じて、すべてが無常であると気づき、自分を追い詰めてゆく。
名匠・市川崑監督が58年に『炎上』のタイトルで映画化しているから正しくは2度目。ゆえに何かと比較されるのは仕方がない。人間の掘り下げ方は『炎上』に軍配が上がるが、低予算にもかかわらず、無常感や美意識の描き方はこちらが上というのがもっぱらの評価。当時としては過激な、市原悦子の濡れ場シーンなどエロティックな場面も評判となった。
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