参院選「SNSのロシア介入疑惑」分析から見えたもの

投開票日を4日後に控えた7月16日。Xで5つのアカウントが突然、凍結されていた。

あるニュースのまとめサイトの記事などを拡散させていた匿名のインフルエンサーのアカウントで、どれも、政府批判を繰り返していた。

この事態に「ロシアからの選挙介入」を疑う指摘がネットで広がり、一部の国会議員などから調査や対応を求める声が上がった。

いったい何が起きていたのか。分析を進めると、自動的に投稿を繰り返す「ボット」の存在も浮かび上がってきた。その背景に迫った。

政府批判を拡散させ…

「日本のニュースと日本人の反応をまとめたサイトです」

そのまとめサイトは、政治を中心に、事件事故や国際情勢など幅広いテーマを扱っている。

注目されたある「まとめサイト」

NHKが分析ツール「BuzzSumo」で調べたところ、確認できるだけで、23年11月以降およそ1万1700本の記事を掲載。

このうち多く拡散されていたのは在日外国人に関するものや、社会保障費やこども家庭庁に関するもの、政府や与党議員らを批判する内容のものだった。

一方、記事を拡散していたインフルエンサーは匿名アカウントで、多いものではフォロワーはおよそ26万人。少ないものでも、9万人にのぼった。

今回凍結された4つのインフルエンサーアカウント

政治に関するテーマを幅広く取り上げていて、特に政府を批判する投稿や移民に反対する投稿の発信が多くなっていた。

まとめサイトと関係性を示す「バッジ」がアカウントのプロフィールにつけられていた。

そして、サイトとインフルエンサーのいずれもが、不正確な情報や誤情報をこれまでに複数拡散させていたことも、NHKの分析で確認できた。

「ロシア」関与の疑いも?

まとめサイトの記事には、ロシア国営メディア「スプートニク」の記事を引用しているものもあった。

記事で引用されていたスプートニクの投稿の一部

また、インフルエンサーのうち2つのアカウントは、アメリカのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」の「DFRラボ」による分析で、「親ロシア」的なアカウントであると分類されている。

ロシアを支持する投稿を多くしていたアカウントがあることも確認できた。

こうしたことから、参院選の期間中に、このサイトとインフルエンサーについて、「ロシアによる関与」を疑う指摘がネット上で拡散。

海外ではロシアがSNS工作を通じて選挙に介入しようとする事例が起きていることもあり、閣僚や国会議員から、調査や対応の必要性を求める声もあがった。

一連のアカウントはそうしたなかで、凍結された。
詳しい理由はわかっていない。

「ロシア関与」サイト側は否定

実態はどうなっているのか。

NHKの調べでは、このまとめサイトが「スプートニク」を引用している記事はサイト上で確認できるだけで27件だった。

タイトルを分析すると、国内政治や在日外国人に関するものが多数を占めていた

また、タイトルに「ロシア」や「プーチン」を含むものはそれぞれ44件、12件あった。

「日本」(3795件)「石破」(797件)と比べても、1万1700本の記事のなかでは少数だと言える。

まとめサイトの運営者はNHKの取材に対し、メールで回答し、ロシアによる関与を否定した。

「個人でやっているまとめサイトです。個人のまとめサイトにロシアが接触してくると思いますか?常識的に考えて。ロシアの介入かなんだか知りませんがほんといい迷惑です。スプートニクはたまたま目に入ったからじゃないですかね。特に意識していません」

また、政権に批判的な記事が多いことについては「現政権が日本にとってよくない方向に向かっていると思っているからです。サイト運営の目的は、私が重税や政策に否定的だからで、もちろん記事作成に時間をかけているので広告収益があればうれしいですね」と回答。

そのうえでアカウントが凍結されたことについて「日本も言論統制社会だなと思いました」とした。

一方、凍結された一部のインフルエンサーとみられる人物は、別のアカウントから、「ロシアとは何の関係もない」などと、疑惑を否定する投稿をしている。

分析から見えてきたこと

NHKは、東京都内のセキュリティー会社「コンステラ セキュリティ ジャパン」の協力を得て、さらに分析を行った。

担当した陶山航シニアアナリストは、まとめサイトは収益目的で運営されていた可能性が高いと指摘する。

まとめサイト自体に広告がたくさん掲載されていたことに加え、同じ広告掲載料の振込先が使われているとみられる別のウェブサイトについても、収益目的とみられたという。

また、まとめサイトの作りには、過去のロシアによる工作で使われていた手口が明確には見られなかったという。

一方、インフルエンサーアカウントのひとつに関連して不自然な点も見つかった。

「ボット」の存在だ。

凍結されたインフルエンサーの投稿は参院選のさなか、およそ3300万という大きな閲覧数を集めることもあった。

閲覧数の増加の推移を見ると、投稿された直後に急増していた。

そして、こうした投稿の拡散に関わっていた別の複数のアカウントを専用のAIツールを用いて調べると、一部がボットであることが確認できた。

選挙に関する「ボット」のイメージ

ボットとは、特定の投稿に対して、「いいね」やリポストをしたり、同じような内容の投稿を自動で生成したりするものだ。

こうしたボットを用いれば、特定の主張がより多くの支持を得ているように見せかけることができる。

参院選でもボットが…

さらに分析を進めると、今回の選挙期間中、こうしたボットが関わる多数のアカウントが活動していたことがわかってきた。

たとえば、ある特定の政党を支持する投稿を次々にリポストしているアカウントや、反対に、特定の政党を批判する投稿を行っているアカウントの中にボットが含まれていた。

ある政党を支持する内容を投稿していたボットとみられるアカウント

プロフィールの画像や自己紹介文は設定されておらず、短時間で大量の投稿が行われているもの、同じような内容の投稿が規則的に繰り返し行われているものもあった。

陶山シニアアナリスト
「『ボット』は本来、マーケティングの分野で認知度を高めるためなどに使われていたものだが、こういった『ボット』が選挙で使われると、特定の政治的な主張を拡散することができてしまう」

分析を進めると、特定の主張をしているアカウント群では、特に「ボット」の割合が高くなっていることも判明した。

この画像は、ある政党について言及したアカウントを結び付きの強さごとに大きな円で囲んだものだ。

小さい点はアカウントを示していて、赤い点が「ボット」と判定されたアカウント。

その政党に批判的なグループや、熱烈に支持するグループなどに分類され、それぞれでは似たような主張が投稿されていた。

ボットの割合は全体では4%程度だったが、画像の下の部分にある円、この政党を熱烈に支持していたグループでは、「ボット」の割合は9%だった。

ほかにも、別の政党でも同じように熱烈に支持するグループで割合が高かったほか、さらに別の政党では、批判的なグループで「ボット」の割合が高くなっていた。

陶山シニアアナリスト
「特定の政党を支持している一般のユーザーの中に、一部、『ボット』が紛れ込んでいて、特定の主張を不正に増幅している疑いがある。特定の主張が多いからと言って、それが正しいわけではないということを、肝に銘じながらSNSを利用することが必要だ」

専門家「分断ねらった工作 容易に」

参院選をめぐり「ボット」が使われていた背景を、専門家はどうみるのか。

サイバーセキュリティーが専門の、情報セキュリティ大学院大学の長迫智子客員研究員は、今回の選挙でロシアなどの外国勢力が「ボット」を使って選挙に介入しようとしたかは断定できないとしたうえで、海外からボットを使った選挙介入が行われることを想定する必要はあると、こう警鐘を鳴らす。

長迫客員研究員
「これまで日本は言語の壁に守られていたが、AIなどを使った翻訳サービスの進展で、そうした言語の壁が壊れやすくなっていて、分断をねらった工作が容易になってしまっている。国際情勢が緊迫化していったときに、今後、日本に対する工作が増えていくことが考えられる」

「一方で、海外からの工作の目的は社会の分断を広げていくことにある。確証が取れる前に推測でいろいろなことを言って、過剰に反応してしまうことで、逆に分断が促進されてしまう」

「ユーザーである私たちがリテラシーを高め、『在日米軍基地』や『移民』など、分断がねらわれやすいトピックについて知ることや、ファクトチェックの取り組みを進めていくことが必要。また、言論の自由とのバランスを取りながら、政府がプラットフォーマーと協力し、特定の国とつながっている『ボット』の存在を明らかにし、対応することを検討することが求められる」

(国際部・芋野達郎 / 機動展開プロジェクト・籏智広太 斉藤直哉 金澤志江 / 首都圏局ディレクター・藤松翔太郎 / メディアイノベーションセンター・吉水優里子)

【検証】参院選とSNS

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